第410話 発想の転換
魔導具工房マジカルの王都支店が開店してから数日、最初なのでランタン各種しか売りに出していなかったのに未だに客足は途絶えず、お店では忙しい日々が続いていた。
そのような中でケビンはお店の警備の依頼を受けてくれる冒険者が現れないので、このままではここに縛られると思い至りほとほと困り果てていた。
「上手くいかないなぁ。楽して稼げる依頼だから当初は応募が殺到すると思ったのに」
「やはりお店にずっと縛られるのがいけないのでしょうか?」
「まぁ、冒険者だから冒険したいだろうし、お店だと魔物は狩れないしね」
ケビンとしては生半可な冒険者だと素行が悪く警備にならないと見越して要求ランクをBランク以上と定めていたのだが、このままでは本当にマリアンヌへ頼んで騎士の派出を依頼しないといけなくなるのではと思い始めていた。
だが、たかだか個人経営の店に王国騎士がやってきてはあらぬ噂が立てられてしまいそうなので、騎士を使うにしても自国の騎士を使おうと思い始める。
「ちょっと家に帰ってからまたくるよ」
「はい」
こうしてケビンは王都支店における警備員獲得のため、騎士が待ち受ける帝城へと帰るのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
憩いの広場へ転移してきたケビンは早速騎士団長へ話を通すためにターニャを捜し始めるのだが、ターニャたちは帝都の外で冒険者稼業をしていると教えられてケビンは【マップ】でターニャたちがいる所へ転移した。
そこでは魔物相手にターニャたちが騎士配置ではなく冒険者配置で、個々の技能と連携を高めている最中であった。
「魔法組は牽制をお願い、ニッキーは相手の連携を掻き乱して」
「「了解」」
「了解っス」
ターニャたちが今相手にしているのはラピッドスパイダーというスパイダー種の1種で、単体ではなく数体で行動をしている変わり種でありながら素早さを売りとしていて、彼方此方飛び跳ねては糸で捕食対象を絡め取る厄介な魔物だ。
ケビンがやってきたのにも関わらず戦いに集中しているようで、誰1人として気づかずに目の前の敵を倒そうとしている。
そのような姿にケビンも邪魔にならないように気配を消すと、念の為に乱入する魔物が現れないよう気配探知の範囲を広げて見守ることにした。
今現在ターニャたち5人に対してラピッドスパイダーは3体なので余程のことがない限りはターニャたちが勝てるとケビンは見込んでいるが、どうにも彼方此方飛び跳ねる相手は騎士畑のターニャたちには相性が悪いようで苦戦を強いられている。
ターニャとミンディがそれぞれ1体ずつ相手取る形を取っているが、残り1体が嫌なところを突いてくるかのように仲間の支援をしており中々攻めきれずにいて、ニッキーもその1体の動きを封じようと頑張ってはいるものの逆に翻弄されているようである。
後衛組はそのような状況を何とか打開しようと魔法を狙い撃つが相手の方が上手であり、魔法が着弾する前に避けてその場から離れている。
「元々前衛の騎士で範囲魔法を覚えていないのが痛いな」
それからもターニャたちとラピッドスパイダーの戦いは終わらず、次第に動き回っているニッキーが目に見えてわかるほど疲弊して体力を消耗しており、戦況が傾く要因となるのだった。
その疲れているニッキーの隙をついたラピッドスパイダーが飛び跳ねると、後衛で詠唱を続けているジュリアへ糸を飛ばす。
その行動に対してニッキーが『しまった!』と感じてしまうが既に後の祭りで、ニッキーが振り返った先では糸で絡め取られたジュリアの姿があった。
「ジュリアっ!」
「戦闘中!」
ジュリアを心配するニッキーへ今が戦闘中であることをジュリアが端的に伝えると、何とか糸から脱出できないか身を捩りながらもそもそ動いていた。
「ルイーズはジュリアの救出を。無理なら魔法攻撃を続けて!」
「了解」
ルイーズがジュリアへ駆け寄ると手持ちのナイフで糸を切ろうとするが、粘着力が強く思うように捗らなかった。
「私はいいからみんなの援護を」
「わかった」
ルイーズはジュリアの救出を諦めるとマナポーションを一気に飲み干して、前衛の支援をするためにその場で詠唱を始めては魔法を撃ち込んでいく。
そしてジュリアが戦力外となって4人となるターニャたちは、ニッキーの体力も減っていることによって長期戦は不利になる道しか残されておらず、短期決戦の全力攻撃で決着をつけることにした。
ターニャからの指示によってニッキーとルイーズの配置を入れ替えると、ニッキーが魔法支援に入ったらルイーズは剣装備に変えて前衛へと参加する。
「ふむ、全員が前衛の騎士だからこういった作戦が取れるわけか……」
ケビンが感想を抱いている中でニッキーはさっきの仕返しと言わんばかりに、簡単な詠唱で済む基礎魔法を唱えたら翻弄されていたラピッドスパイダーへ向かってチョロチョロと放って煽っていた。
その間にターニャとルイーズが連携を取って1体を追い込んでいくと、不意をついたミンディによってトドメを刺される。
そしてミンディと入れ替わりでターニャがミンディの相手をしていたラピッドスパイダーへ詰め寄り、刺突にて牽制をしながら穴ができないようにフォローをしていると、遅ればせながらルイーズもターニャの方へ向かいミンディは残る1体へ向かって攻撃を仕掛けていく。
どうやらターニャたちは騎士として動くのならその練度は高い水準を維持しているようで、今回は冒険者として動いていたから追い込まれてしまったのだとケビンは推測した。
やがてラピッドスパイダーを全部倒すことに成功したターニャたちは、その場で腰を下ろして大きく息を吐くと呼吸を整えていく。
「あの……助けてくださると嬉しいのですが……」
ジュリアは自分が放置されて終わった感を出しているターニャたちへ申しわけなさそうに助けを求めると、未だにもそもそ動いては脱出を試みていた。
「あ、ああ、ごめんなさいね」
ターニャたちは本当に忘れていたかのようでバツが悪そうに視線を逸らすとジュリアの方へ歩いていき、手持ちのナイフで糸を切り始める。
「これ、中々切れないわ」
「剣でしてみたらどうです?」
「ひっ!」
ターニャが頑張ってナイフで切ろうとしていたが中々切れないことでミンディが剣をチラつかせると、それを見たジュリアは生きた心地がしなかった。
「で、できればナイフでお願いします」
ジュリアがビビりまくっているところでケビンが姿を現して、四苦八苦しているターニャたちへ声をかけた。
「お疲れさま」
「ケビン君っ!?」
「ひぃっ!」
まさかケビンがこの場に現れると思ってもみなかったターニャたちだが、不意にケビンへ視線を向けてしまったターニャが持つナイフの刃先がジュリアの顔の目の前を通り過ぎると、ジュリアは青ざめてしまい泣きそうになるのだった。
「それ切るのに苦戦してるね」
「そうなの。中々切れないのよ」
「このままだとジュリアにイタズラし放題だね」
ケビンからイタズラし放題と言われたジュリアは、野外プレイをするほどの勇気はなく涙目になって助けを求める。
「お城に帰ったらエッチなことしていいですから、今は助けてください」
「マジで!? それなら怖い助け方と怖くない助け方のどっちがいい?」
「こ、怖くない方で……」
ジュリアはターニャからの救出方法で怖い思いをしていたので怖くない方を選んだのだが、他の者たちは怖い助け方が気になってケビンへその方法を聞いてみるのだった。
「刀で切るの?」
「サクッと一閃?」
「ケビンさんの刀なら斬れ味が凄そうっス!」
「それは怖いねー」
「いや、このまま燃やす」
「ジュリアの丸焼きっスね!」
糸で雁字搦めとなっているジュリアはケビンの使う《煉獄》の効果を知らないので、このまま燃やされると聞いてしまい普通に火魔法で燃やされている自分の姿を想像してしまうと全力で拒否をする。
「――ッ!? む、無理無理無理無理無理っ! 無理ですって!」
「それじゃあ怖くない方で」
ケビンがジュリアへそう伝えると、一瞬でジュリアを拘束していた糸が消え去ってしまうのだった。
「へっ……?」
救出されたジュリア自身は何が起こったのか意味がわからず、それは周りにいたターニャたちも同様であった。
「ケビン君、何したの?」
「ん? 回収しただけ」
「回収?」
「別に生き物じゃないんだから【無限収納】に回収したらそれで終わるだろ?」
「「「「「……」」」」」
何とも言えない救出方法にターニャたちは唖然としてしまう。
「マジックポーチを持たせているのにナイフで一生懸命になって切ろうとしていたから、傍から見ていた俺からしてみれば中々面白い見世物だったよ」
「「「「「あっ……」」」」」
発想の転換とも言うべきケビンの対処法で、ターニャたちは今更ながらに自分たちが固定観念に囚われ、柔軟な発想ができていないことに気づかされてしまう。
「だからさっきの戦闘中に捕まったジュリアは雁字搦めで動けなかったから、最初に駆け寄ったルイーズが自分のマジックポーチへ糸を回収していたらすぐに戦線復帰できたんだよ」
「「「「「あぁぁ……」」」」」
「自分たちで戦闘の難易度を上げるなんてマゾなの?」
「「「「「はぁぁ……」」」」」
今回は拘束している糸を何としてでも切ろうとしていたので、ターニャたちはケビンから何を言われても言い返せずに溜息しか出ないのである。
そこでいち早く気持ちを切り替えたターニャはケビンが何故ここにいるのかを問いかけると、仕事の依頼をするために来たと言われてその内容を聞いたら承諾するのだった。
それからの話し合いで先ずはターニャが警備に当たって情報を集める役を買ってでると、その集めた情報を吟味して今後の警備体制計画を立てていこうということになる。
そしてケビンはターニャを王都支店へ連れて行くと警備を任せて、その後はミンディたちの所へ戻ってターニャが抜けた穴を埋めるべく戦闘訓練を手伝い始める。
あまりケビンが前に出てもターニャと組んだ時にズレが生じてしまうので、ケビンはほどよく手抜きをしながらアドバイスを織り交ぜて戦闘を繰り返していた。
そのようなことをしているうちに夕方になりケビンたちは憩いの広場へと転移で戻ると、憩いの広場では既にターニャも仕事を終えて戻っていたので騎士組はクエスト達成報告のためギルドへと向かっていく。
その後ケビンは夕食を食べたあとの入浴タイムでジュリアの言葉通りその体を楽しむと、ターニャたちも参加を始めて騎士三昧のひと時を過ごすのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日の夜、ケビンが自室のベッドでくつろいでいるとノックとともに女性たちが部屋へと入ってくる。
「ご奉仕だぴょん」
「お相手するにゃ」
「頑張るわん」
「なっ!? ……なん……だと……」
ケビンの視線の先には網タイツにバニースーツを着たジェシカというリアルバニーが立っており、その右横に赤色ブルマーで胸のところには【みけいら】と書かれた布が縫われている体操服を着こなすミケイラがモジモジとしていて、左横は婦警の格好をして凛としているウルリカが毅然とした態度を見せている。
そのような3獣士という楽園を前に、平静を装うケビンの口調はおかしなものとなる。
「……ジェシカ君、何故そのような格好をして語尾が“ぴょん”なのかね」
「ティナ様に聞いたぴょん。この姿と“ぴょん”でご主人様はメロメロになるからソフィーリア様が衣装を作ってくれたぴょん」
「ふむ……では次にミケイラ君。君の理由を聞かせてくれたまえ」
「こ、これは夜の運動をするならこの格好だとソフィーリア様が言ったにゃ。ご主人様の世界では運動する時の神聖な衣装だって聞いたにゃ。神聖な衣装を奴隷の私が着るなんて恐れ多いにゃ」
「夜の運動に限ったことではないが確かに神聖な衣装だ。今は廃れてしまって使用している学校はほぼ無いに等しい。一時期ブルセラショップなるものもあったが、危険視されて法律が改正され衰退したのだ。中には高度な生セラもあったという」
「なに言ってるか分からないにゃ」
「ごほんっ……と、とにかく素晴らしい衣装だということだ。時にウルリカ君、君はなにゆえその服装なのかね」
「これは狼人族ならこの格好だとソフィーリア様に言われたわん。迷子のミケイラに困らされる役目わん」
「私は迷子じゃないにゃ」
(これは明らかに犬のおまわりさんだよな? ウルリカに犬って言ったらもの凄く怒るからなぁ。奴隷の中でも俺を怒れるのはケイトかウルリカしかいないし、これはソフィからの罠か?)
「……ウルリカ君、もしやソフィは君へ“狼のおまわりさん”と言ったのではないかね」
「言ってたわん。語尾を“わん”にするとなおいいって言ったわん」
「やはりソフィの差し金か……侮りがたしソフィーリア……」
不動の序列1位なるソフィーリアからの刺客に、リラックスしていたケビンの情欲は滾りに滾っていた。
そのようなケビンへ3獣士が滲み寄っていく。
「ご主人様を気持ちよくするぴょん」
「運動するにゃ」
「ロリコンは逮捕するわん」
「ぶふっ! ちょ、ちょっと待てウルリカ。言われようのない非難を浴びた気がするぞ!」
「ソフィーリア様が言ってたわん。ご主人様へそう言うと慌ててカワイイところが見れるようになるって言ったわん。確かにカワイイわん」
「ち、違うぞ! 愛に年の差は関係ない。よって俺はロリコンじゃない」
「いいから大人しく逮捕されるわん」
こうしてコスプレ3獣士は戦いを挑むも覚醒したケビンによって討ち取られてしまい、魔法という便利な道具で復活させられては何度も気絶と覚醒を繰り返して朝までしっかりお相手させられるのであった。
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