第411話 スカウトマン
魔導具工房マジカルの王都支店が開店してから1ヶ月が過ぎた頃、従業員も仕事に慣れて警備もターニャたち騎士組が持ち回りで配置につき経営は順調に進んでいた。
そのような時に玉座でロナとくつろぐケビンを襲う、仕事という名の天敵が忍び寄ってくる。
「貴方、お仕事よ」
皇帝であるケビンへ躊躇いもなく仕事をさせることができるのは、ソフィーリアを除けばこの人しかいない。
大きなお腹を抱えて歩いてくるのは、ケビンを陰ながら支え続けてきた奴隷のケイトである。
ケビンが前皇帝を倒してから今に至るまで、ケビンが丸投げする仕事を嫌な顔をしつつ文句も言いながらしっかりとこなしてきた内政の大御所だ。
ケビンへ対しても常々仕事をするように言うが、あまり重要度が高くなければ見逃してやり弟を甘やかすようなお姉さん的な立場でもある。
それもあってか奴隷のケイトがケビンへ仕事を強要しても誰も不敬だと注意はせず、むしろ奴隷だと強調しているのは奴隷たちだけ(ヴァレリアは除く)であり正妻組や他の側妻組は奴隷であろうと嫁仲間という認識だ。
そしてケビン自身も甘えて助けられている部分がありケイトには頭が上がらないところもあるので、仕事だと言われたら嫌々ながらもちゃんとするのである。
「ケイトぉ~俺がしなきゃいけないやつなの?」
「貴方が作ったものだもの」
「俺が作った? 何か作ったかな……?」
「はぁぁ……学校を作ったでしょ?」
ケビンが自分で作っておきながら忘れているという所業にケイトは溜息がこぼれるが、こればかりはケビンにさせないとどうしようもないのだ。
ケイトの話す仕事の内容とは来年度の開校に向けて宣伝はしているが、宣伝をしていても入学試験内容や日時、それと教員が全く決まっていないということである。トドメは学校の名前すらないということだった。
それを聞いたケビンは『しまった!』という思いを表情に出してしまい、ケイトから呆れた視線を向けられてしまう。
「作るだけ作っておきながら忘れていたわね? あの時は貴方の仕事ぶりに惚れ直したのに……私の気持ちを返してくれるかしら?」
「それは返さない。ケイトの愛は俺だけのものだ」
「この子が生まれたら貴方だけのものじゃないわ」
「……半分をあげることにする」
「2人目が生まれたら?」
「先にあげた半分の半分をあげればいい。その次はその半分の半分だ」
「せこいわね。それだと子供ができる度に下の子への愛が減るじゃない」
「ケイトのことが大好きなんだから仕方がないだろ。ケイトの愛が欲しい」
「……もうっ、そう言えば許してもらえるなんて思っちゃダメよ。子供への愛は皆平等なの」
臆面もなくケビンから大好きと言われたケイトは満更でもないようで頬を染めるが、ケビンの日頃からの態度を見るに子供への愛が減るような真似はしていないので今はそれよりも学校のことだと結論づける。
「とりあえずは名前を早く決めて欲しいわね。名無しの学校なんて嫌でしょう?」
「うーん……エレフセリア学園で」
「簡単に決めるわね」
「レティの実家にある学院もミナーヴァだから問題ないだろ?」
「確かにね。それじゃあ、あとは試験内容と教員の確保よ。日時くらいは私が決めておくわ」
「クリス、アリス、ニーナ、シーラ」
ケビンに呼ばれたことで嫁たちが近づいてくると、ケビンの十八番が炸裂する。
「エレフセリア学園の入試問題を作って。教養がなくても解けるようなやつ。例えて言うなら孤児院の子供たちでもある程度解けるような問題で、なおかつ教養のある子供が満点を簡単に取れないような感じで」
「いいよー」
「アリシテア学院を参考にしてみますか?」
「ミナーヴァは魔術系の問題が多かった」
「両方の良いとこ取りでいいんじゃないかしら?」
「それと学費関係も考えておいて。普通の一般家庭が無理なく支払える感じで、学園の運営に関する細々としたものもよろしく。決めきれないのは俺が決めるから」
「はぁぁ……丸投げなのね……」
「ケイトは身重だし負担を減らすためだよ」
「貴方が負担してくれることはないの?」
「教員の確保」
「それすらも丸投げしそうだわ……」
ケビンからの指示を受けた4人は早速仕事に取りかかるため、子供を連れて執務室へと向かっていった。
そしてケビンは次の仕事に取りかかる。
「リーチェ」
「何でしょうか、ご主人様」
「妾モードで」
「ふふっ、仕方がないですね……ん、んんっ、妾を顎で呼びつける不敬な輩はそちくらいだぞ? して、何用ぞ? 発言を許可するゆえ言うてみるがよい」
「ははっ! リーチェ陛下におかれましては、益々その美貌に磨きがかかり並ぶ者なしと言わしめる程で誠にお慶び申し上げます。その至高なるリーチェ陛下の経歴において元侯爵家令嬢と聞き及んでおりますれば、これは高い教養をお持ちになると推測するに至り――」
「そちは話が長い。端的に申せ」
「で、では、学園の教員をしていただきたく」
「ふむ、先の話にあったエレフセリア学園のことかえ?」
「左様にございますれば」
「高貴なる妾に下賎なる者の真似事をせよと?」
「誠に恐れ入りますが」
「そちは高貴なる妾を顎で使おうとしておるのだ。それ相応の対価を用意しておるのだろうな? なければその首をもらいうけるぞ?」
「私めにはこの体1つしか差し出せるものはなく、夜伽のお相手をすることでしか……」
「なっ!? そちは高貴なる妾を抱くと言うておるのか!」
「必ずやご満足のいく結果を生み出してみせましょう」
「満足できぬ場合はそちの倅を叩き切ってやるわ!」
「陛下に叩き切られぬよう私めの絶技で持って、陛下を必ずや天国へと導いてご覧にいれますので何卒……」
「ふむ、そこまで言うのなら先の件引き受けてやろう」
「ははっ! ありがたき幸せ」
こうして教員を1人確保したらケビンは次から次へと奴隷である嫁たちへ声をかけていき、人前に出ても大丈夫になった者たちへはケビンがスキルを与えて手作り教師へと仕立て上げていく。
それでも数が足りないと思ったケビンはハイエルフのセシリーにも声をかけたら、今度一緒に世界樹で昼寝をするという取引によって引き受けてもらう。
「うーん……みんな妊娠しているから思いのほか身内の教師が集まらなかったな」
「滅茶苦茶ね……」
「人件費削減だ」
「それでも学園運営にはまだ人が足らないわよ」
「そこは商業ギルドを使って募集する。各国に回せばすぐに集まるだろ」
こうしてケビンは身内と新たに雇う予定の人材で、決まっていなかった教員を確保していくのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケビンは学園の教員確保のために、イグドラ亜人集合国の首都イグドラまでやってきていた。ここでできた知己に声をかけて、教員としてスカウトする腹づもりでもある。
そしてヴァルトス地区の1軒家へお邪魔する。
「ケビっちじゃん! サカった?」
「ちょーウケる」
「うちにでも会いたくなった?」
「おひさー」
「ケビっち、久しぶりだね」
出迎えたのは軽いノリのコギャル5人衆であるが、リリアナが清純派に戻ったので既に4人衆になっている。それでも仲は良いのか今もなおつるんでいるようだった。
「今日はちょっとお願いがあってな」
それからケビンは学園の説明をして教員をやってくれないかと頼んでみるが、返ってきたのは種族問題で奴隷狩りと差別を気にしたものだった。
「差別とか奴隷狩りのない街だから大丈夫だって」
「そもそも私らって学ないしー」
「あたしらに頼むのが間違ってんじゃね?」
「うちはちょっと興味あるかも」
「グレースには無理っしょ」
「ケビっちのためなら私は頑張るよ」
「それならグレースとリリアナだけ連れて行こうかな」
「ちょ、行かないとか言ってないし」
「リーダーが焦っててちょーウケるんですけど」
「焦りすぎっしょ」
「うちとリリアナだけで行く?」
「私はたとえ1人でもケビっちのためなら行くよ」
「リリアナ、マジ変わりすぎだし」
「ケビっちのことが大好きだもん」
置いていかれると思い焦り始めたリーダーはオリアナとアリエルから揶揄われて、グレースはリリアナと意思確認を行っていたが思いのほかリリアナのケビンに対する変わり様で若干引いている。
そのような姦しい中でケビンは街を見学してから答えを出すように伝えると、5人を引き連れてその場から転移した。
そして転移先は学園の敷地で、先ずは働くかもしれない職場を見せるのだった。
しかし、ケビンが転移魔法を使えるなんてことは知らずに連れてこられたので、いきなり変わった景色にただ呆然とするしかない。
「ここ……どこ……?」
混乱する頭でようやく絞り出した言葉にケビンはなんてことのないように帝都であることを伝えるが、5人は地元からかけ離れた場所に来たことを信じられずにいた。
「ケビっち……実は凄い人なの?」
代表であるヴァリスからは冒険者としか説明を受けていない妊活者たちだったので、当然疑問に思っているリリアナが尋ねてみるがケビンからの答えはいつも通りの「ただの冒険者」というものである。
それからケビンは混乱覚めやらぬ5人を引き連れて、帝都の街並みを見せるために渡り歩く。
ただ普通に歩いては皇帝だとバレて生の声が聞けないので、ケビンは偽装を使ってダークエルフ姿になると5人の視線はケビンへと釘付けになった。
「ヤバい……」
「カッコよすぎじゃね?」
「うち、ケビっちに全て捧げる」
「決断早すぎっしょ」
「不意打ち過ぎだよぉ~」
5人とも目がケビンに行ったまま頬を染めて街並みなど見れる状態にないが、ケビンが色々と説明をしながら歩いてオススメ店など紹介していくと興味を惹かれるものがある時はその店を見たりしていた。
そしてひと通り歩き終えたところで元の学園へ戻ってくると、キキたちへ帝都の街並みを見学した感想を尋ねる。
「ありえなくない?」
「全然差別されなかったし」
「うち、ここに住む」
「地元よか都会だからイケるっしょ」
「ケビっち、いつここへ来たらいいの?」
キキたちには思いのほか好感触だったようで、既に移り住むための計画を立て始めていた。
そのようなキキたちを商業ギルドへケビンが連れて行くと、適度な1軒家がどこかにないか受付で探してもらい、候補の中からキキたちが話し合って絞り込んでいく。
ある程度候補を絞り込むと現地確認をして、その日のうちに1軒家を借りてしまうのだった。
「うし、今日からここが私らの溜まり場だ」
「いや、リーダー……まだ引っ越し準備終わってないし」
「張り切り過ぎてウケるんですけど」
「ってゆーか、ケビっちの近くにいたいだけっしょ」
「いくらリーダーでもケビっちは渡さないよ」
ひとまず家が決まったキキたちをケビンが元の家へ送ると、リリアナへ準備が終わり次第指輪を使って連絡をするように伝えたら、用事の済んだケビンは帝城へ帰るのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日の夜、ケビンの寝室を訪れたのはサキュバスのオリビアである。
「どうしたの?」
「少し前にジェシカたちがいっぱい可愛がられたから、私もご主人様に可愛がっていただきたくて……」
「おいで」
ケビンが呼び寄せるとオリビアはベッドへと上がり、ケビンへしなだれかかる。
「ごめんなさい。本当はヴァレリアちゃんも誘った方が良かったのでしょうけど、ご主人様を独り占めしたくて……」
「鬼と夢魔のセットも中々感慨深いものがあるけど、今日はいつも控えめなオリビアがワガママを言ってくれたから、オリビアだけを可愛がるよ」
「嬉しいです、ご主人様」
「そのかわりオリビアの可愛いところをいっぱい見せてもらうから」
「……ご主人様、いつものように吸収させていただきます」
「ああ、オリビアが綺麗なままでいられるように、たっぷりと飲ませてあげるよ」
「あんっ、嬉しい……」
オリビアはケビンとまぐわった時はいつもたっぷり出されてしまうので、いつの間にか【吸精】というスキルを手に入れていた。
この【吸精】は夢の中で精気を奪う【夢精】とは違って、直接的な行為によって直に精気を吸うスキルである。
これにより【夢精】よりも精気を自分の糧とする変換効率が格段に上がり、健康維持や肌艶がとても良くなり長く美貌を保てるようになるのだ。
夢魔族は経口摂取による食事でも生命維持はできるのだが、やはり夢魔である以上精気を吸う者と吸わない者とでは老化スピードに違いが出てしまい、種族維持のため多少なりとも精気を吸うように徹底しているのだった。
「ご主人様、愛してます……」
「ああ、俺も愛している」
オリビアがケビンを独占したいという要望を伝えたため、ケビンはいつものような荒々しさを出さずに時間をかけてオリビアを抱いていくのであった。
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