第379話 帝都大改造

 ヴァリスとのやり取りが終わって数日後、ケビンはヴァレリアの育成を複製体へ丸投げすると学院の設立に乗り出した。


 学院を設立すると言っても帝都内の土地はそれほどの余裕がなく、家を建てるならまだしもケビンが建てようとしているのは学院なのでどうしたものかと悩み始める。


 それもひとえに帝国内の制度が変わり平和となってしまったので、1番華やいでいる帝都への移住者が増えてしまったのが原因とも言える。


 それ故に学院を建てるほどの纏まった土地が城下には空いておらず、ケビンが買い取っている空き地も学院を建てるには少し配置が悪く、歪な敷地になってしまいそうなのだ。


 そして悩みに悩んだケビンが考え出した手は、帝都を広げてしまえということである。


 使える土地がないなら使える土地を作ればいいという安易な考えの元で、誰に相談するわけでもなく帝都大改造計画を立てた。


 まずケビンが始めたのはお触れを出すのではなく、帝都全域に声を届かせる方法で都民へ報せることである。お触れだと万が一にも見ていないという声が上がってきそうだったからだ。


 思い立ったが吉日と言わんばかりに、ケビンは玉座へ座ったままで早速帝都内へ魔法を張り巡らせた。


「あーあー聞こえてる? いきなりですが帝都放送のお時間です。司会はわたくし、いつもフラフラ会いたい時に不在中のお出かけ冒険者ケビンが務めさせていただきます。私事になりますが最近は子供たちが生まれて幸せ続きであります。今日は皆様方にお知らせがありますので聞き漏らさないようにお願いします」


 玉座に座ったままいきなり喋りだしたケビンに対して、周りにいた嫁たちは何が始まるのだろうかとその様子を窺っている者や、ケビンのことだから碌でもないことだと諦めの境地に至っているケイトの姿があった。


 帝都に散らばる都民たちは皇帝のお言葉として立ち止まり、その場で跪く者や神にでも祈るかのようなポーズで出産を祝う者たちで覆い尽くされる。


「では、始めさせていただきます。この度、俺の独断と偏見で帝都を広げることにした。その理由としては学院を1校作るからだ。これにより全体的に区画整理を行う」


 それからケビンは区画整理について説明をすると、今日から始めることを都民へ周知させるのである。


「――ということで、みんなの協力を心からお願いする」


 都民への説明が終わってから、やり終えた感を出して吐息を漏らしたケビンへケイトがすかさず近寄り声をかける。


「貴方、どういうことかしら? 私は何も聞いていないわよ?」


「さっき聞いただろ? そのまんまだ」


「また仕事を増やすつもり?」


「そこら辺は全て俺がやる。ケイトはのんびりしててくれ」


「信じられないのだけれど?」


「身篭ってる妻をキビキビ働かせるわけにはいかないだろ?」


「どうだか……」


「やれやれ……」


 ケビンは立ち上がるとケイトを抱き寄せて、不意打ちでキスをするのだった。


「ん……」


「愛する妻を大事に思っちゃいけないのか?」


「……もうっ、そんなんじゃ騙されないんだからね」


「まぁ、見てろって。本気を出した俺は凄いんだぞ?」


 ケビンはそれだけ伝えると帝都上空へと転移した。そしてケビンがいなくなった憩いの広場では正妻組が話し合いを始めるのである。


「今度は何をするんだろうね」

「規格外の権化」

「ケビン君って何でもありよね」

「面白そうだよねぇ」

「ケビンのことだからきっと凄いことよ!」

「楽しみです!」

「きっと想像もつかないことです!」

「旦那様は動き出したら止まりませんね」

「主殿は突拍子もないのぉ」

「ケビンはんには色々と驚かされるえ」


「パメラ、パパが面白いことするみたいだから一緒に見ましょうね」

「……みる……」


 パメラへそう伝えたソフィーリアが他の者たちも見れるように憩いの広場にて力を行使すると、空中にモニターが表示されてケビンの生中継を映し出すのだった。


 ところ変わって憩いの広場でそのようなことが起こっているとも知らずに、ケビンはケビンで早速作業に取り掛かろうとしていた。


「まずは円形の帝都を四角にするか」


 予め今日から始める帝都大改造を都民へ報せた際に衛兵たちへ詰所から出るように指示をしていたので、作業を開始したケビンは遠慮なしに帝都を囲む壁を消し去ってしまう。


 その光景に都民たちはいきなり自分たちの住む場所を守る壁が失くなって見晴らしが良くなったことで混乱に陥るが、誰かが空中で浮かんでいるケビンに気づいたようでそれを声にすると、都民たちも皇帝の言っていたことが始まったのだと理解はするが、規格外の行う所業に混乱は落ち着いても驚きまでは隠せないようである。


「今からちょっとずらすけど驚くなよー」


 ケビンが都民たちへ声を届けるが、既に驚いている都民たちはこれ以上驚くことがあるのかと頭を傾げてしまうのである。


 そして伝えたからいいだろうと安易に考えているケビンは、帝都内の建物を結界で包むと帝都外の空き地に土地ごと転移させていった。


 道に残っていた都民たちはその光景に驚くどころか間抜けな感じに口が開いてしまって、自らの頬を抓ったり目をゴシゴシ擦ったりして現実味のない今を脳が処理しきれなくなってしまう。


「おお! だいぶスッキリしたな」


 今や栄えていた帝都は帝城と道や木々等しか残っておらず、建物の一切合切がなくなり見る影もなくなっている。


「やっぱりこうしてみると道とか適当だな。この際だからまずは道の整備をしよう。ちょっと道を整備するから石畳から離れててくれー」


 ケビンから伝えられた都民たちは現実感のない表情のまま、石畳から離れて依然として呆けた状態を続けるのである。


 そして都民たちが石畳から離れたのを確認して、ケビンは道すらも消してしまった。


「なんかこうしてみると街づくりのゲームをやってるみたいな感覚だな」


『実際そうですよ。資金を使わず魔力を使ってはいますが』


「この際だ、何気にハマった街づくりゲームを現実で楽しもう!」


 それからケビンは道を作り出すと街灯を設置しようかと思ったが、異世界風アレンジで幻想的な光景となるように暗くなると光りだす石畳へと急遽変更するのだった。


 それが終わって道の真ん中に桜の木を植えていくと、桜だけというのが味気ないと思ったケビンは、四季がわかるように桜だけではなく秋には紅葉が彩りを見せるように別の木も植えることにした。


 そして区画は一般居住区、商業区、貴族居住区、その他と分けていく方針にすると、帝都の中心部には噴水広場を設けてその周りは石畳のものから芝生に変えたら子供たちの遊べる遊戯場を作り出す。


 それが終わると商業区画として商店はメイン通りに全て並べて、今まで立地の悪かった商い屋も平等になるようにし、これで繁盛しないのなら経営者が悪いと思うことにした。


 だがケビンの計らいとして、食べ物屋は集中させずに一定の間隔で間を空けて設置している。ショッピングを楽しみつつ小腹が空いたら近場の食べ物屋へ入るという試みだ。


 それと小物店や洋服店、雑貨屋などもグレードを分けて高い方から順番に貴族居住区側から設置していく。


 誰もが必要である食材屋は一般居住区側に設置する。これはケビンの偏見で貴族は帝都に住み着くことなく自領にて生活していることの方が多いからだ。


 実際のところ帝城付の政務官はケビンの身内が全てその職に就いているので、他貴族が政務官になることがないからである。よって、帝都に住みついている貴族というのは今ある学院へ通っている生徒たちだけなのである。


 ちなみにケビンは衛兵は雇っていても騎士は雇っていないので、帝都に騎士爵位は1人たりとていない状態となる。そもそも皇帝との戦いで邪魔されてしまい全て殺してしまったからだ。


 そして戦争時に帝都から派遣されていた兵たちは貴族たちへ割り振ったり、兵士にこだわりのない者は冒険者へと転職させていたのだ。これらはケビンが暫定的な皇帝の立場となった時に済ませていたことでもある。


 それから商業区の配置が満足のいく結果となったケビンは一般居住区を帝城に向かって左側、貴族居住区を帝城に向かって右側に設置することにしたら一応の配慮ということで、貴族位の高い者たちから順番に帝城側から設置していく。


 貴族居住区が終わって余ってしまった土地には店を構える裕福な商人たちの住居を設置していった。


 住居関係が終わってしまうと、その他の建物をどうするかでケビンは悩み出した。


 とりあえず商業ギルドと冒険者ギルドは帝都の中心部に置くことにしてわかりやすく角に設置しようとしたら、設置し終えていた商店をまたずらしていく羽目になってしまう。


「街づくりってこういうことが起こるよなぁ。設置し終えていたのにあとになってずらさなきゃどうにもならないこととか」


『それはマスターがこだわるからですよ。適当な所に置けばずらさなくてもいいのに』


「その建物の使い勝手とか効果とかあるだろ。街の隅に設置でもしてみろ、ゲームとかだと使い勝手が悪くて苦情が出るんだぞ。市長は大変なんだからな」


『まぁ、使える土地の隅は基本的に公害の元となる発電所とか工業地帯になりますからねぇ』


「そうだぞ。それでなくとも車の排気ガスとかで空気が悪いだのなんだのと苦情を言ってくるんだからな。それなら電車使えよって話なのに道路を削ったら車のために道路を作れと言ってくるし、ゲームの市民はワガママなんだよ」


 ケビンにとって現実世界であるこの異世界においてゲーム脳で街づくりをしてはサナに対してゲームの愚痴をこぼしているが、いくらゲーム脳と言えどもやることはきっちりやっていくのである。


 そうこうしているうちにギルドの設置が済んだケビンは、今ある学院を貴族居住区側に設置することにした。


 これは秘書隊が一般市民にとって敷居が高いと言ったことを参考にして、貴族か金のある商人しか通っていないだろうという判断だ。


 そしてケビンの作った孤児院は帝城側に設置することにした。前から帝城の子供たちと遊ばせようと考えていたケビンの思惑である。


 それ故に何故か帝城周りは以前にも増して広々と土地が確保されていて、ゲームではないがゲームマスターの特権だとケビンは思っているのだが、実際には帝都を大改造できるほどの力を持った皇帝の特権である。


 ようやく元々あった建物を全て設置し終えたケビンは、とうとう学院設立に向けての建物を建築とは言わず創造していくことになる。


 まず手始めに普通科の校舎を創り出すとそれとは別にもう1つ校舎を作って、そちらは将来を見据えた専門科の校舎にした。


 普通科は基本的に一般常識をのんびり学ぶ場で6年通うことになるが、普通科を卒業したら希望者には専門科を選べるようにする予定で選ばない場合はそのまま卒業となる。


 そして専門科を選んだ場合はそれぞれの知識や技術を積み重ねていく場となるが、各科ごとで通う年数が変わってくる。


 ケビンが今のところ考えているのは、生産職科、商人科、冒険者科、兵士科、内政科、医療科の7種類で、このうちどれか1つでも押さえていればどこへ行ってもやっていけるだろうという判断だ。


 ちなみに生産職は農業、調理、建築、鍛冶、錬金、魔導具にわかれており好きなコースを選ぶことになる。


 そして各科の中で医療科だけは試験を受けて合格しなければならなく、これは将来的に人の命をあずかる職になるので生半可な気持ちでは受け入れないとしたケビンの思惑が入っている。


「なぁ、これってこっち側だけ凄く場所を取っていかないか?」


『それはそうでしょう。マスターがこだわり過ぎているのと、運動するための闘技場も作らないといけないですからね』


「歪な形の帝都になるな。シンメトリーが崩れる」


『地下格闘技場にするのはどうですか? 色々な意味で燃えますよ』


「それはアリだが景色がないってのもなぁ……」


 悩みに悩んだ末ケビンが出した結論は空間魔法で建物の中を拡張する方法だった。これにより従来通りの大きさで創る必要がなくなったので、好きなだけ思うように設置することができるのである。


『最初からこうしていれば良かったのでは?』


「仕方がないだろ。学校を創るのは初めてなんだぞ。人は失敗して成長するんだ」


 こうしてケビンは校舎に付け加えて遠くから通学する生徒用に寮を創り出したら、闘技場とは言えないような小さな闘技場もたくさん設置すると満足気に頷くのである。


「完璧だ……」


『自画自賛……乙……』


 そして今までのケビンの行動は帝都に戻された都民たちから注目を浴びており、よくわからない学院らしきものを見て都民たちが首を傾げつつも、皇帝のすることだからきっと凄いことになっているんだろうと深く考えることをやめて思考放棄するのであった。

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