第345話 クズミの正体?
ケビンとクズミの思い違いによって静寂に包まれた中で、どちらともなく声を発するとその内容は同じものであった。
「「……え?」」
その言葉によりまたもや静寂に包まれてしまうのであったが、意を決したクズミがケビンへ問いかける。
「あ……あの……ケビン様は私の体を見られたのですよね?」
「はい……」
「余すことなく?」
「バッチリと見ました。隅々が記憶に残るほど」
その言葉にクズミは顔を赤らめてしまうが、自身もケビンの誇張していたものをバッチリと記憶に残るほど見ていたので、お互い様だと思って気を取り直したら話を進めた。
「あの……その時に人にはないものを見ませんでしたか?」
「人にはないもの……?」
ケビンはその言葉で脳内フォルダからクズミの全裸を思い返すが、不意打ちで目にすることになったグラマラスなボディと最後にガン見していた縦筋しか保存されておらず、下半身の一部に血が集まっていきそうになってしまう。
「綺麗であったことしか思い出せません」
「そんな……あれを綺麗などと……」
ケビンの思い返しているものとクズミの意図しているものが全く違うのだが、不思議と会話は成り立ってしまっていた。
「綺麗な女性を綺麗と言うのは、何かおかしなことでしょうか?」
「不気味ではないのですか? 気持ち悪いとか思わないのですか?」
「全く」
「しっぽですよ?」
「しっぽ……?」
「はい。私の体についているしっぽです」
「え……しっぽがついているのですか?」
「「……」」
ここへきてようやくケビンもクズミが何を指して言っていたのかを理解したが、クズミはクズミで早合点をしていたことを知り、余計なことを口にして自らバラしてしまっていたことを理解するのである。
「あ……あの……俺はしっぽがあっても平気ですよ」
ケビンの記憶には残らないほどクズミの体が魅力的だったので、ケビンも早合点で人種差別のことを言っているのだろうと思いクズミに伝えたのだが、クズミはしっぽのことに気づいていなかったのなら気休め程度の慰めだろうと自己完結してしまう。
「本当にですか?」
「はい」
「これを見てもですか?」
ケビンの言葉を慰めと受け取っているクズミは、着物をはらりとその場へ落として一糸まとわぬ姿となる。それを見たケビンは瞬時に全身をカメラアイで収めたら横を向くのだった。
「ク、クズミさん! 何してるの!?」
「ケビン様、こちらを向かれてください」
「で……でも……」
「お願いします」
ケビンはクズミの鬼気迫る雰囲気に押されて正面を向くと、そこには黄金色の耳としっぽを生やしたクズミの姿があった。
「これでも平気なのですか?」
「平気だけど……」
「そうですか……」
ケビンとしては耳やしっぽ云々よりも触り心地の方が重要であり、触りたい衝動を抑えるのに苦労していたが、そんなケビンの気など知らずにクズミのしっぽに変化が現れる。
――ぴょこん……
(ふ……増えた!?)
しっぽが1本だけでも触り心地はどうなのだろうかと考えていたケビンの目の前で、そのしっぽの数がどんどん増えていく。その姿に見蕩れていたケビンへクズミが再度問いかける。
「これでもですか?」
「え……何が?」
ケビンは心ここに在らずでクズミの姿云々よりも、増えたしっぽを触りたくてうずうずが止まらない。
「あの……平気なのですか?」
さすがのクズミもここまで平然とされてしまっては、自分の感覚がおかしくなったのではと疑わずにはいられない。しかもケビンの視線はずっとしっぽに釘付けであるのだ。
「次で最後です」
その瞬間、クズミが光に包まれたらみるみるうちに姿が変わっていく。そして光が収まるとそこにいたのは、なんと黄金色の狐である。
ケビンはその姿に目を奪われて呆然としてしまう。
(モ……モフモフしたい……)
「このような姿は気持ち悪いでしょう? これでも綺麗と言えるのですか?」
「……綺麗というよりカッコイイ? あ、でも……毛並みは綺麗です」
なんとも言えないケビンの評価にクズミは驚きを隠せない。
「不気味ではないのですか? 化け物ですよ?」
「何が不気味なのかがわからないです」
「化け物が人に扮していたのですよ?」
ケビンは既にクララというドラゴンが人に変わっている姿を見ているので、これといってクズミが狐に変わってところで大きな衝撃を受けるような出来事ではなかったが、クズミにはそれがわからないためケビンが何故普通にしているのか甚だ疑問である。
「クズミさんが狐?になったのは多少なりとも驚きはしましたが、俺にとってはそれだけです。何かおかしいですかね?」
(あれ……? おかしいのは私ですか? いやいや、今まで生きてきて恐れられなかったことはありませんでしたし……ケビン様はきっと急なことで混乱して状況についてきていないだけなのでは?)
「落ち着いてよく見てください。私は化け物なんですよ。気休めの言葉なんて必要ありません。化け物と罵ってくださった方がまだマシです」
「うーん……ご納得いただけないということですか……」
ケビンが立ち上がりクズミに近づくと、その体を抱きかかえた。
「ちょ、ケビン様!? 何をなさるのです!」
(抱きかかえられた!? 気持ち悪くないのですか!?)
「いえね、俺が平気なのを証明しようかと」
そのままスタスタと歩いていくケビンはリビングを後にすると、2階へ上がっていく。
「こ、この先は私の部屋ですよ!? 何で知っているのですか?」
「え……覚えてないんですか? 昨日はフラフラになるまで酔っ払ったあとにそのまま2階へ上がろうとしていたから、見ていて危ないので部屋の前まで肩をお貸ししたんですよ」
(そんな……この私がフラフラになるまで呑んでいたの!? ケビン様はどれだけ酒豪なんですか!?)
そして辿りついたクズミの部屋の前でケビンが立ち止まると、片手でクズミを保持しながらドアを躊躇いもなく開けた。
「あ、ダメです! 部屋の中は――」
クズミの制止は間に合わず部屋の中が顕になると、着物や昨日着ていたドレスなどが散らかっており、とてもじゃないが人を招き入れるような状態ではなかった。まぁ、ケビンは招き入れられたのではなく強引に入ったのだが。
「クズミさんってずぼら? そんな印象は受けなかったんだけど?」
「うぅぅ……だからダメって言ったのに……私は仕事とプライベートをきっちり分けているだけです」
「プライベートはずぼらだと?」
「だって何も考えずゆっくりしたいじゃないですか!」
そのような中でケビンは散らかっている服類を全て【無限収納】の中に回収すると、魔法で部屋の中を綺麗にリフレッシュさせた。
その理由としてクズミが換気をしていなかったせいか、部屋の中がとても酒臭かったからだ。
そしてクズミを抱いたままベッドへ上がると、膝上に乗らせて待ちに待ったモフモフタイムへと移行する。
「ケ、ケビン様……私の服は……? そもそも何故このようなことを……」
「クズミさんにどれだけ平気って言っても信じてくれないからね」
「私は化け物なんです。人種からすれば平気なわけがありません」
「はぁぁ……こんなに綺麗でフワフワなのに化け物って……」
ケビンからのモフモフによって抗えない感覚がその身を犯し、クズミは逃げるに逃げれずそのままモフられてしまい、ケビンはケビンで耳としっぽだけではなく、全身が獣の姿になっているクズミの体を隅々までモフるのであった。
「クズミを俺の女にする」
「もう、うちはケビンはんのもんえ。後にも先にも体を許すんは1人と決めとったから。もう裸を晒してもうたし、他の男に捧げられへん」
「クズミみたいないい女を他の男に渡すわけがないだろ。初めて会った時から俺の女にすると決めていた」
「嘘や、化け物を自分の女にするもんはおらん」
「あの時はまだ正体を知られていなかっだだろ?」
「うっ……」
「その上でクズミが正体を明かしても俺の女にしたいと思った」
「……ケビンはんはうちの体を見ても気持ち悪くないん?」
「この体のどこに気持ち悪い部分がある?」
ケビンはそう言うとモフモフを始めて、その柔らかさを堪能するのである。
「だってうちのことを見た連中は化け物言うて、殺しにきとったんえ?」
「そいつらは見る目がないだけだ。あと、これからは俺が守る。俺の女を殺そうとする奴は逆に俺が殺す」
(……っ……胸がキュンってなる……何でなん……)
「……ケビンはんがうちを……うちを守ってくれるん?」
「ずっとな」
散々モフりあげた後、ケビンはクズミを抱きかかえて1階のリビングまで戻って移動する前の再現をすると、跪いて夢見る乙女に思いつく限りの言葉を告げるのである。
「クズミ、俺は貴女が何者であろうとも貴女を愛し続け、守り抜くことをここに誓う。俺と結婚してくれないか?」
ケビンの捧げる指輪を見て、クズミが狐姿からケモ耳姿に変わると女の子座りしたままで泣きながらケビンへ伝えるのだった。
「こんなうちでもええの? 夢ばっか見とる重い女やからきっと困らせるえ?」
「そんなクズミが好きだ」
「うち……うち……」
泣きじゃくるクズミにケビンが近づき指輪をはめて頬に手を添えると、唇が触れ合うだけの口づけをする。
「愛してるよ、クズミ」
ひとしきりケビンの腕の中で泣いたクズミは、ケビンに抱きかかえられると寝室へと連れていかれて肌を重ね合わせるのだった。
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