第316話 サラの育児講座とパメラのマイスターへの道

 サラとシーラの攻防が落ち着くと嫁たちも席に座り、再びお茶を楽しみながらソフィーリアへ今回の件の詳細を聞き出していた。


 そのような中で、サラは玉座から少し離れた所で座っているパメラが気になるのか声をかける。


「ねぇ、そこのあなた。ちょっとこっちに来てみない?」


 サラがパメラを見つめながら手招きをしていると、周りの奴隷たちはそれを見てギョッとしてしまう。


 ケビンの母親に対して失礼があってはならないとケイトはオロオロとしだしてしまうが、他の者たちはどうか無視しないでと心の中で祈っていた。


 当の本人であるパメラは呼びかけてきたサラをずっと凝視している。


「お母様、パメラはケビンとソフィさんとアビー以外には懐かないわよ」


 シーラが中々動こうとしないパメラのことを説明して、奴隷たちはひと時の安堵を得るが、ケビン自身はサラなら問題ないだろうと特に関与せず放置していた。


「そうなの?」


 サラが玉座から立ち上がると、スタスタとパメラの方へと歩き出していく。


「お母様! パメラに近づいてはダメ!」


 シーラの制止する言葉など気にもせずパメラへ近づいたサラは、パメラの前までやってくるとその場に座り込んだ。


「あなたのお名前は?」


「……」


「私はね、サラって言うのよ。あそこの白いうさぎと同じ名前よ」


「……うさぎ……」


「あなたの名前は何かな?」


「…………パメラ……」


「そう……パメラは何歳になったの? わかる?」


 自分の年齢や誕生日など知らないパメラは、助けを求めるかのようにケビンへと視線を向けた。


「母さん、パメラは今年で7歳になる」


「そうなの? それにしては小さ過ぎるわね。ちゃんとご飯は食べさせてるの?」


「俺がそんな男に見えるわけ?」


「それもそうね」


「パメラは俺が助ける前、多分……生まれてからまともな食事を摂れていなかったんだよ。そのせいで成長が一般的な同年代より遅れている。後遺症とかはないから安心していいよ」


「その人たちは始末したの?」


「したよ」


「偉いわ、ケビン。さ、パメラ……いらっしゃい」


 サラが両手を広げるとおずおずとパメラが近づいていき、サラの胸に抱きついた。


「……ぷにぷに……」


 パメラはサラの胸の柔らかさが気に入ったのか、一生懸命になって手で押さえ込んだりして触っていた。


「ふふっ、おっぱいが好きなの? でも、お乳は出ないのよ。出たらケビンにも飲ませてあげられるのに」


「……パパ……」


 ケビンの名前が出てきたところで、パメラの視線はケビンへと向いた。


「あら、ケビンはパパなのね?」


「……ママ……」


 続いてパメラは紹介していくかのように、ソフィーリアへ指をさしてサラへ伝えていく。


「ソフィさんがママね」


「……アビーママ……いない……」


「いないの?」


「……おしごと……」


「そう……パメラへお腹いっぱいご飯を食べさせるために頑張っているのよ」


「……たべなきゃ……いっしょにいられる……?」


「それはダメよ。パメラがご飯を食べないとパパやママたちは泣いてしまうわ。パメラはパパやママたちを泣かせたいの?」


「……いや……」


「偉いわね。ママも夕方には帰ってくるでしょう? いい子にして待っていましょうね」


「……まつ……」


 サラはパメラを抱きかかえると立ち上がり、玉座へと戻ってケビンの隣へ座るのであった。


 サラの鮮やかな手並みに女性たちは唖然としていた。アビーに引き続き2人目の初見懐きである。ちなみにソフィーリアに対しては女神として認識しているのでカウントされていない。『女神だから当然懐く』というのが共通認識だ。


「お母様……何でパメラが懐くの?」


 シーラがサラへ問いかけるが、話題の中心であるパメラはサラの胸が気に入ったのか依然として触って遊んでいる。


「シーラも子供を産めばわかるようになるわ」


「でも、アビーは産んでないのに懐いたわ」


「アビーさんはエルフでしょう? しかもソフィさんを除けば1番の年長者。人生経験の差よ」


「んー……わからない……」


「パメラ、お嫁さんたちにヒントをあげてもいいかしら?」


「……ひんと……?」


「パメラと仲良くできる方法よ」


「…………」


 パメラはいつも近づいてこようとする嫁たちへ視線を向けるが、それがいっぺんにやってくることでも想像してしまったのか、ブルブルっと体を震わせてしまう。


「パメラ、あそこにティナさんがいるでしょう?」


「……うん……」


「あのおっぱいはとっても柔らかいのよ」


 パメラはチラチラとティナの胸へ視線を向けながら、サラの胸の感触を再確認していた。


 そしてサラが立ち上がりティナの方へ歩いていくと、ティナを立たせて動かないように指示をするのだった。


「パメラ、触ってみて」


 サラに言われてティナの胸へ手を伸ばしたパメラは、自分の手が沈みこんでいくところを見てしまい、驚きで目を見開いてしまった。


「ね、凄いでしょう? 私も前に触ったんだけど、その柔らかさは反則よね。柔らかいのに垂れていないのよ? 中身はどうなっているのかしら?」


 サラの言葉よりも目の前の胸が優先なのか、パメラは何回も手を沈みこませて遊んでいた。


 そのようなパメラの気も知らず次の段階へと行くために、何も言わずにサラが移動を始めるとパメラが悲しげな表情と声を出してしまう。


「……あ……」


「あら、パメラはママたち以外は嫌なのでしょう?」


「……うぅ……」


「ママを増やしてみる?」


「……う……」


「ママが増えたら色んなおっぱいが触れるわよ。パパしかできないことをパメラもやれるようになるわ」


 ケビンしかできないと言われたパメラはケビンへ視線を向けると、ニッコリと微笑まれて頷かれるのであった。


「……パパといっしょ……」


「そうよ、どうする? ティナさんに抱っこしてもらう?」


「…………抱っこ……」


 ケビンと一緒になれるということと先程のティナの胸の感触が忘れられないのか、誘惑に負けてしまったパメラはティナへ初めて抱っこをせがむのであった。


「……う……そ……」


 当の本人であるティナは、信じられないものでも見るかのようにパメラを凝視してしまう。


「ほら、ティナさん。パメラを抱いてあげて」


 恐る恐る手を震わせながらパメラを抱くティナは、パメラがサラから移動してきたらそのまま硬直してしまった。


「私……今……パメラちゃんを抱っこしてる……」


 ティナの心境など知ったことではないパメラは、先程のように胸へ手を沈みこませるとその感触で遊んでいる。


「飴じゃなかった……?」


「お義母さん、どういうこと?」


「私も抱っこしたいです」


 パメラへ近づけるように飴を常備していたニーナは驚き、クリスは単純にパメラが懐く理由を知りたくて、アリスはティナを羨ましがる。


「簡単な話よ。子供に懐いて欲しいなら、その子供が欲しているものを与えればいいだけよ。ケビンに懐くのは単純に優しさが欲しかったから、それを意識せずに与えたケビンへ自然と懐いたのよ。ソフィさんに懐くのは女神である以上、誰よりも慈愛に満ち溢れていて包み込むから。アビーさんに懐くのはパメラの寂しさを自身と重ね合わせて包み込んであげるからよ。貴女たちは自分の欲求を優先していたのじゃない? 早くパメラに懐かれたいっていう想いをパメラへぶつけたのでしょう?」


 サラの分析に懐かれていなかった嫁たちは図星を刺されてしまい、言葉に詰まってしまう。


「だからシーラにも言った通り、子供を産めばわかるようになるのよ。育児は自分の子供が何を欲しているのか理解することから始まるのよ。最初は当然言葉を喋れないのだから泣くことしかできないの。何を求めているのか考えながら試行錯誤して与えていくのよ」


「サラ様、凄い……」


「ティナさんの場合は単純に餌で釣ったようなものね。見てもわかる通りおっぱいで遊んでいるから。1度馴れてしまえばあとは抱けるようになるわ」


「お義母さん、ソフィさんがパメラちゃんは人を見てるって言ってたけど、それは関係ないの?」


 クリスや他の者たちが抱いていた疑問に対しても、サラは難なく答えてみせる。


「関係はあるし、見てるわよ」


「え……?」


「クリスさんだって人を無条件に受け入れることはしないでしょう? 自分にとって良い人か悪い人か判断するために人を観察するわよね?」


「確かに……じゃあ、ソフィさんがティナのことを眩しいって例えて言ったんだけど、その理由をお義母さんはわかる?」


「そのまんまね。ティナさんは元気いっぱいでぶつかってくるでしょう? それって言い換えれば落ち着きのない雰囲気なのよ。パメラにとってはそれが嫌だったの」


「あぁぁ……ティナはぐいぐいいくもんね」


「パメラは人を観察するあまり、恐らくその人の持つ雰囲気を見抜くのが上手くなったのよ。だからケビン、ソフィさん、アビーさんには懐いたの」


 サラの育児講座を聞いた女性たちは、未だに硬直から解けていないティナの胸で遊んでいるパメラへと視線を注ぐ。同じく聞いていた子持ちの奴隷たちも手がかからなくなっている子供たちを見て、既に忘れていた初心へと戻るのであった。


「お義母さん、ケビン君はどうだったの?」


「ケビンはびっくりするくらい手がかからなかったわ。今となってはその理由も知っているから不思議ではないけど、当時は自分の子供は天才なんじゃないかと親バカになってしまったわね」


「「あぁぁ……」」

「さすがケビン様です」


 ケビンが前世の記憶保持者であることは、城に住まう者たちには既に隠されておらず周知の事実であったため、納得した表情をそれぞれ浮かべるのである。


「おっぱいあげる時なんて、赤ちゃんなのに真っ赤になって照れていたのよ? 離乳食に変わり始めた頃には、おっぱいを吸ってくれなくなって寂しかったわ」


 サラによって語られるケビンの赤裸々な過去は女性たちの気を引くには充分であり、混ざりたそうにして離れそうになったシーラをケビンが逃さずとっ捕まえて膝上に抱え込むと、羞恥で真っ赤になってしまったシーラが恨みがましくケビンへ告げるのだった。


「ケビン、酷い……」


「今なら2人だけの時間を満喫できるよ」


「うぅぅ……」


 やがて時間も過ぎていき働きに出ていた嫁たちがぼちぼち戻ってくると、ケビンが戻ってきていることに気づいたと思いきや、サラの姿を視界に収めて驚いてしまい、1番の驚きはティナがパメラを抱いている姿であった。


 何故そのような奇跡の瞬間みたいになっているのかサーシャが尋ねると、自慢げにティナが答えていく。


「ふふん、パメラちゃんが私の魅力に気づいたのよ! サーシャじゃ無理ね」


 ドヤ顔をキメるティナにイラッとしたサーシャは、まともな理由を話してくれそうである真面目なアリスへと質問すると、ティナの言った言葉の真意を知る。


 ふつふつと沸き起こる怒りを抑えつつ、サーシャがパメラへ声をかけてティナから奪おうと試みた。


「パメラちゃん、私の胸も触ってみる?」


 散々ティナの胸で遊んだパメラは飽きていたのか、すんなりとティナの膝上から降りてサーシャの膝上へ登っていった。


「そんな……」


「ざまぁないわね、ティナ」


 勝ち誇ったサーシャが先程の仕返しとばかりにティナへドヤ顔をするが、ぺたぺたとサーシャの胸を触るパメラの言葉が響きわたる。


「……ない……」


「がはっ!」


 子供の悪意のない正直な感想に、サーシャは両腕をだらりと下げて天井を仰いだ。


「緊急事態です!」

「サーシャさんのライフがゼロです!」


「うわぁ……パメラちゃん、やっちゃったねぇ……」

「残酷……」

「ああ、パメラちゃん、本当のことを言っては……」


「ぐはっ!」


「アビー……サーシャ、今回ばかりはさすがに同情するわ……」


 昨日の敵は今日の友と言わんばかりに先程までやり合っていたティナは、サーシャへ対するパメラとアビゲイルの仕打ちに同情するのであった。


 そしてサーシャが打ちひしがれている中で、背後にケビンが迫ってくる。


「衛生兵です!」

「衛生隊長です!」


「予想通りの結末だな」


 天井を仰いでいるサーシャへ背後で立ったままのケビンが視線を落とすと、目のあったサーシャが涙ながらに訴えかけてくる。


「ケビンくぅん……」


「俺はサーシャの胸、好きだぞ」


 ケビンはそう言いながら淡々とサーシャのブラウスのボタンを外していく。そして横に広げると下着に包まれた胸が顕となる。


「ちょ、ケビン君!?」


「フロントタイプか。好都合だな」


 フロントホックまで外してしまったケビンによって、サーシャの胸が完全に顕となってしまうとケビンがそのまま揉み始めた。


「んっ……何で? ダメだよ、ケビン君……みんな見てる……あんっ……」


「パメラ、サーシャの胸はこうやって楽しむんだ。胸にはそれぞれその胸にあった楽しみ方というのがあるんだ」


「んん……ケビン君、パメラちゃんに何を教えているのよ」


「……たのしむ……」


「ああ、サーシャが胸を出してくれるのは不意をつかれた今だけだ。次からはパメラが頼んでも出してくれないかもしれないから、今のうちに楽しむんだ」


 ケビンによってサーシャの胸は晒されてしまい、ケビンが揉むのをやめるとパメラはその胸をぺたぺたと触って楽しみだす。


「……ある……」


「そういうことだ。サーシャの場合は下着で締めつけた上に制服で隠してしまうからな。服の上からだと固い感触になってしまうんだ」


「……ぜんぜんちがう……」


「これからはみんなの胸を少しずつ楽しんで、立派なおっぱいマイスターになるといい」


「……なる……」


「ちょっと、ケビン君。なんかいい話にして終わらせようとしているけど、パメラちゃんになんてことを教えているのよ」


「結果的に良かっただろ? サーシャだって『ない』と言われるよりも『ある』と言われた方が嬉しいだろ?」


「もう……そのせいで胸を晒された私の気持ちも少しは汲んでよ」


「見られて恥ずかしいならパメラを抱きしめて隠せばいいだろ? 今ならパメラも嫌がらずに抱かれてくれるぞ?」


 ケビンが言ったことを試すためサーシャはパメラを抱き寄せてみると、すんなり腕の中に収まってしまうのであった。パメラにとっては胸を触れるなら体勢はどうでもいいようで、サーシャの腕の中で大人しくしているのである。


 そして、もう用は済んだとばかりにケビンが玉座へ戻ってシーラの相手をまた始めていると、ケビンの行動を見ていたサラが一連の出来事を褒めるのだった。


「さすがはケビンね。自慢の息子だわ」


「ふふっ、相変わらず真意をわからせずに隠すのが上手いわ」


「どういうことですか?」


「私も気になります!」


 サラとソフィーリアが理解しているケビンの行動が気になったのか、知りたがりのアリスとスカーレットは興味津々で尋ねるのだった。


「ケビンはね、落ち込んだサーシャさんのフォローをしに来たと見せかけて、実際はサーシャさんとパメラのフォローをしていたのよ」


「パメラちゃんも?」


 アリスの疑問にソフィーリアが答える。


「そうよ。これからは色んな人の胸を触りに行きたがるわ。今までだったら1人でずっと座っていただけの子供だったのよ?」


 そしてサラが結論を述べた。


「つまりケビンはパメラが自発的にみんなに歩み寄る機会を与えたのよ。今までだったら特定の人にしか近寄らなかったのでしょう? これからは近寄らなかった人たちにも少しずつ近寄るようになるわ。ケビンはパメラとみんなの間にある溝を埋めたのよ」


「凄いです……」

「天才ですか!?」


 サラとソフィーリアの話を聞いていた他の女性たちも、ケビンのしたことの裏にそのような事情があったとは知らず、一斉にケビンへ視線を向けるのだった。


 一方で視線を感じたケビンは首を傾げているが、特に気にした風でもなく羞恥で赤くなっているシーラを攻め立てていて楽しんでいた。


 そのようなケビンを見ていた女性たちは、先程の行動はサーシャのフォローついでにおっぱいを触りたかっただけだろうとしか考えていなかったのだが、図らずともそれは当たっておりケビンは慰めるついでに胸を触って楽しんでいた面もあったのだ。


 だが、その女性たちの予想は当たっていたにも関わらず、ケビンに対する考えが失礼であったと思ってしまい、悔い改めるのと同時にケビンへ尊敬の念を抱くのだ。


 こうしてケビンは図らずとも女性たちの勘違いにより、株が急上昇していき尊敬を集めてしまうのであった。

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