第314話 微睡みの中で

 あれからどれくらいの時間が経ったのかわからないが、ケビンは柔らかな肌触りに包まれながら夢現の状態で微睡んでいた。


(はぁ……柔らかい……ソフィの胸は触り心地がいい)


「あんっ……もう甘えん坊ね。赤ちゃんみたいだわ」


 そしてケビンの意志とは無関係にケビンのが目覚め始めていく。


「ここはこっちで甘えていいわよ」


 身をよじり優しい手つきで脚の間に誘導されながら、ケビンのが挟まれてしまう。


(あぁ……これって……素股はうっかりで入って本番になるって聞いたことがあるけど……)


「……入っちゃった」


(ん?)


 ケビンはふと違和感を感じながらも今は快感が優先であることと、もう持ちそうにないこと頑張るのだった。


「お母さんも気持ちいいわ」


 その瞬間、ケビンは一気に覚醒した。目を開けば目の前にソフィーリアではなくサラの顔があったのだ。


「おはよう、ケビン」


「え……ん? おはよう? え……えっ、何で!?」


 ケビンがあまりの出来事により絶賛混乱中に陥っている中で、サラが頑張りを見せる。


「ちょ、か、母さん!? 待って、ストップ、ストーップ!」


 微睡みの中でも耐えきれぬほどの快感だったものが、覚醒したことにより神経が繊細にその情報を頭へと伝えて、逃れきれない気持ちよさがケビンの中を駆け上っていった。


 サラが落ち着きだすと、ケビンへと口づけをする。


「ちゅ……目が覚めた? ケビン」


 満足気な表情を見せるサラにケビンは言葉が出なかった。ふと横へ視線をやるとソフィーリアがバッチリとケビンを見つめている。


「おはよう、あなた。目覚めから気持ちのいい朝になったわね」


「え……何でソフィがそっちにいるの? こっちで寝てなかった? え? あれ? 何で?」


「中々見ものだったわよ。あなたが私と間違えてお義母さんにおイタするところとか。甘えん坊さんね、可愛かったわよ」


「何で教えてくれなかったの!?」


 ケビンが恨めしそうにソフィーリアを見つめるが、ソフィーリアはどこ吹く風でそれを受け流す。


「微睡みから覚醒していないのに手を出すのが悪いんでしょう?」


「いや、だって……気持ちよかったし……って、その前に親子だよ!?」


「それがどうかしたの?」


「どうかしたのって……」


「あなた、ここは異世界よ? 地球と違って近親婚が今現在でもあるんだから近親者で肌を重ねるのなんて珍しくないわよ? それに地球でも昔は近親婚をしていたんだから。日本だと戦前までそうだったわよ」


「え……」


「あなた、知ってる? 日本の憲法でも近親者の婚姻届は受理されないってだけで、性交や事実婚は法律上禁止されていないのよ。つまり法的には婚姻を認められないけど、各々の自己責任でやるなら関与されないってことよ」


「……うそ……だろ……」


 ケビンが憲法の中身など全てを知るはずもなく、ソフィーリアから聞かされた内容にショックを隠しきれずにいた。


 今まで禁忌だと忌避していたものが法律上何も禁止されておらず、ただ単に書類上の婚姻ができないだけだったということに、信じていた常識が崩れ去っていく。


「だが、近親交配の危険性があるはずだ」


「はぁぁ……あなたってたまに頭が回らなくなるわよね。そこもまた完璧ではない部分が見れて魅力的なんだけど」


「それって……遠回しに馬鹿にしてないか?」


「完璧主義者なんてうんざりするだけでしょう? 抜けているところがあるから可愛く見えるのよ。で、近親交配についてだけど、あなたはお義母さんと子供を作りたいの?」


「あら、ケビンとの子供ならお母さんは大歓迎よ」


「あー……うん、そだね……」


 作る気はないと言おうとした矢先にサラから言われてしまい、どうやって作る気はないと言おうか悩むが、ニコニコしているサラが上から見つめてくるので否定しようにも否定できなくなってしまう。


「どっちにするにせよ言っておくわね。結論から言えば問題ないわ」


「何で?」


「私の種族は?」


「神」


「つまり神の祝福でどうにでもなるということよ」


「何だその暴論……」


「だってそれが許されるのが神だもの。あなただって言ったでしょう? 人と神とでは持っている力が違うから視点が違うと」


「あぁぁ……確かに」


「それで、ケビン? お母さんと子供を作るの?」


「いや、それは父さんに申し訳が立たない、というか現時点でとても申し訳ない」


「あら、どうして?」


「父さんの妻に手を出してしまった……もう合わせる顔がない……むしろ時間を巻き戻してやり直したい」


「ヤり直すの? それならしなくてもいいわ、今からまた始めるわね」


 微妙な言葉の食い違いでサラの耳は都合のいい部分だけを聞き取って、ケビンの上でまた頑張り始めてしまうのだった。


「ちょ、母さん! 話を聞いてた!? 父さんに合わせる顔がないって言ったばかりだよ!」


「お父さんなら大丈夫よ、私が襲ったって言っておくから……」


「ちょ、母さんってば!」


「ケビンはお母さんのことが嫌いなの?」


「嫌いなわけないだろ。それよりも母さんの中は今までで1番気持ち良すぎるんだから動かないで」


「嬉しい……お母さんが1番なのね。お母さんもとても気持ちいいわ。本音を言うとギースよりもいいわよ。ケビンが生まれたあと育児が落ち着いてからは、ちっとも抱いてくれなくてお母さんも欲求不満なのよ」


 聞きたくもない夫婦の性活事情を聞かされてしまったケビンは、サラの魅惑的な体を前にしてやらないなど、『そんな早くにセックスレスか?』とギースの不甲斐なさのせいで起きている現状を呪うのだった。


「お父さんも歳と言えば歳だからお母さんも我慢してたんだけど、ケビンのこれを前にしたら我慢ができないわ」


(え……俺のせいなの……?)


 そしてケビンは助けを求めるためにソフィーリアへと視線を向けるが、ニコニコとしていて周りに味方がいないのを思い知らされるのであった。


「あなた、1回やってしまったのなら2回も3回も一緒よ。それにあなたを救ったのはお義母さんなのよ? その恩には報いるべきだわ」


「いや、恩とかそういうのでやりたくないんだけど……」


「それなら普通に楽しめばいいじゃない。あと、さっきあなたが言ったことだけど、お義母さんの中が1番気持ちいいって言葉は聞き捨てならないわね、どういうことかしら?」


 ケビンの1番を取り続けたいソフィーリアは、変なところでサラに対抗心を燃やして獲物を狙う肉食獣のような目つきへと変わるのだった。


 その後、結局ソフィーリアが1番を取るために参戦してきて、サラと交互でケビンの体を貪り始める。そして弄ばれるケビンは全てを諦めたような境地に至った。


「もう、お嫁に行けない……」


「既に結婚しているから関係ないわよ」


「ケビンならお母さんがお嫁さんに貰うから大丈夫よ」


 散々ケビンの体を使って満足したのか、ツヤツヤ肌の2人は両側からケビンへ抱きついてピロートークに入っていた。


「そういえばお義母さん、ケビンのここはスキルで変化させられるんですよ」


「まぁ、そうなの!? 凄い、凄いわケビン」


 ソフィーリアから与えられた情報により、サラの好奇心はケビンへと向いていく。


「んー……本当なら今日にでも家に送ってもらおうかと思ったけど、それを聞いたら帰れなくなってしまったわ」


「いや、そこは素直に帰ろうよ」


「だってどうなるか気になるじゃない? 今の状態でさえ、ギースが届かなかった真ん中辺りを越えて奥まで入ってくるのよ? 変化させたらどうなるのか試してみたいじゃない」


 またもやサラから暴露される夫婦の性活事情で、ケビンは知りたくもない父親の短小疑惑の情報が頭に刻まれるのであった。


「お義母さん、後ろの穴は使ったことあります?」


「え? 後ろ……?」


「ええ、今考えている場所であってますよ。ケビンに任せたらそちらでも快感を味わえるんです」


「そうなの? でも……」


 そういう知識のないサラは戸惑いを見せているが、ソフィーリアの畳み掛けによって一気に吹っ切れるのである。


「前の穴の初めてをお義父さんへ捧げたのなら、後ろの穴の初めては愛するケビンへ捧げてみてはどうでしょうか?」


「ッ! それはいい考えだわ! お母さんの初めてはケビンにあげるわね」


「ちょ、ソフィ! 何で母さんを煽ってんの!?」


「私はあなたを幸せにするため全力で尽くすって決めてるの。それに今回の件でお義母さんの深い愛情を知って、その気持ちが更に強くなったのよ」


「全力の方向性が間違ってない!?」


「何も間違ってないわ。あなたの望む幸せはみんなが幸せを感じることでしょう? もしかしてその中にお義母さんは含まれていないの?」


「え……ケビン……お母さんだけ仲間外れなの?」


 ケビンの考える幸せにしたい人たちの中に自分が入ってないかもしれないと聞かされたサラは、悲しげな表情でケビンを見つめるのだった。


「い、いや、母さんにはもちろん幸せになって欲しいよ」


「それならお義母さんを抱くべきじゃない?」


「だから、何で!?」


「欲求不満のお義母さんをこのまま帰すつもり? 体を持て余してそこら辺の男に抱かれてしまってもいいと思って行動したらどうするの? しかも、その行為が思いのほか快感になって知らない男に弄ばれてもいいの?」


「母さんに限ってそんなことにはならない」


「あなたがそう思ってても、性欲を持て余した女性は行動力があるのよ。もしかしたらって可能性があるかもしれないわ」


 ソフィーリアの言葉を信じたくないケビンは、当の本人であるサラへそのことを聞いてみることにした。


「……母さんは知らない男と寝るの?」


「んー……先のことはわからないけど、このままだと将来未亡人になってしまうし、火遊びくらいなら考えてしまうかもしれないわ。初めてはもうギースに捧げたし、初めての相手でこだわる必要もなくなったから」


「嘘だろ……」


 ケビンがあからさまに落ち込んだことにより、サラは慌てて弁明を図りだしてしまう。


「ち、違うのよ、ケビン。お母さんだって誰とでも寝るわけじゃないのよ。ちゃんと愛せる人にしか体を許すことはできないわ」


「でも……愛せるなら知らない男でも寝るってことだよね?」


「だ、だからね、違うのよ。お母さんの愛せる人はギースとケビンしかいないの。ギースが抱いてくれないからケビンに甘えただけなの。慰めてもらっただけなの」


「ん? 兄さんたちは? 愛してないの?」


「愛しているわよ。でもね、男としては見てないの。それにファラさんから託された大事な子供たちだから」


「つまり、ソフィが言ったみたいに男漁りはしないってこと?」


「そうよ、ギースのことはもちろん愛しているし、ケビンのことも愛しているから他の男なんていらないのよ」


「ソフィ……」


 無駄に引っ掻き回されたことによっていらぬ心労を抱え込んでしまったケビンは、ことの元凶であるソフィーリアへとジト目を向けるのだが、ケビンよりも上手なソフィーリアにそれが効くはずもなくサラリと受け流されてしまう。


「ふふっ、私はもしかしたらってちゃんと伝えたわよ? それにお義母さんが体を持て余しているのは事実よ。それを癒してあげるかどうかはあなた次第だけど」


「はぁぁ……」


「ケビン……お母さんのことは気にしなくていいわ。それにケビンを襲ったから少しはスッキリできたし、今まで通り我慢すればいいのだから。それよりもケビンに嫌われることの方がお母さんは耐えられないわ」


「母さんを嫌うことは絶対にないから安心して。俺を生んで育ててくれたことや、今回の件で救ってくれたのは本当に感謝しているから。俺にとっては世界で1番大好きな母さんだよ」


「ケビン……」


 ケビンから贈られた言葉にサラは泣いてしまい、愛しい我が子を救えて本当に良かったと心からそう思うのであった。

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