第261話 奴隷たちの扱い
一夜明けた翌朝、ケビンは食堂を新しく作り直して広々とした空間にすると、女性たちに簡単な食事を振る舞って、それ食べた女性たちは感嘆とした声を上げていく。
「貴方って料理もできるのね」
「簡単な物だけで、料理って言えるような物は作れないぞ」
「そんなことないわ、これは立派な料理よ。酷い生活だとご飯なんか最低限生きていく分しかなくて、残飯処理させられるだけでもありがたいくらいなんだから」
「酷いやつらは処分して正解だったな」
ケビンはそれから広場に男性の奴隷たちを呼び寄せると、女性たちも集合させてこれからの方針を語りだす。
「まずは男性たち、一晩明けてだいぶ落ち着いたところだと思うけど、俺はこれから君たちを奴隷から解放する。田舎に帰るもよし、帝都に留まって仕事を探すもよし。当面の資金はあげるから好きに生きるといいよ」
ケビンから突然の奴隷解放宣言に男性たちは戸惑いを隠せずザワザワと騒ぎ始めるが、ケビンが再度嘘ではないことを示すために男性たちの奴隷の首輪を魔法で外すと、地面に落ちた首輪を見て喜びだす者や涙を流している者たちがいた。
「次に女性たちだけど、見てわかる通り男性たちは奴隷から解放された。田舎に帰りたい者や仕事を探して働きたい者は名乗り出てくれ。男性たちと同じように資金を渡すから好きに生きて構わないよ」
ケビンは昨日ケイトから奴隷のままがいいと申告されていたので、女性たちの場合は自主申告に切り替えた。
しかし、いくら待てども手を挙げるような女性はいなかった。皇帝に心を壊されて男が近づけば謝り続けるあの子供でさえ、手を挙げずにじっとしている。
「1人もいないのか?」
ケビンが再度聞くとケイトがそれに答える。
「昨日、お風呂の後にみんなで話し合ったの。貴方になら奴隷としてでも仕えたいって。厚かましいのはわかっているけど、私たちを守って欲しいのよ。みんな何かしら心に傷を負っているから貴方以外は信じられないの」
「あの子供はどうなんだ? 近づくだけでも謝り続けるだろ?」
「あの子供もよ。本当はちゃんとお礼を言いたいけど、反射的にああなってしまうから申し訳なくて泣いていたのよ。まだ男性に近づかれるのは無理だけど、女性なら少しだけ会話はできるのよ」
「完全に心は壊れていないってことか」
「完全に壊れたら廃人になっているわ」
「わかった」
「正式に私たちの主人になってくれるかしら?」
「構わないんだな?」
「みんなの望んだことよ」
ケビンは女性たちの望みを聞いたあと再び男性たちに声をかける。
「それじゃあ、男性たちは解散だ。これは全員分の資金だから後でわけるように。1人金貨5枚だから多く取ったりするなよ? 昨日殺された奴らみたいになるからな?」
ケビンはとりあえず1番近くの男性に金貨の入った袋を渡すと、別の男性がケビンに声をかけてきた。
「あの……」
「何かわからないことでもあった?」
「いえ、私をこの城に置いてくれませんか?」
ケビンはその言葉を聞いて冷たい視線を男性に向ける。
「何を考えている?」
ケビンからの冷たい視線で射抜かれた男性は、慌てて弁明を始めた。
「ち、違います! 城に住みたいとかじゃなくて衛兵として雇って欲しいのです!」
「衛兵?」
「はい、私は昔衛兵として働いていましたが、同僚に嵌められて冤罪で奴隷落ちしたのです。ですから許して頂けるならば、また衛兵として働きたいのです」
「そういうことか……疑って悪かった。ここの女性たちは男性から酷い目に合わされていた人たちだから、城に置いて欲しいと言われてつい警戒してしまった」
「いえ、私の言葉が足らなかったのが原因です」
「そういうことなら構わない。他にも衛兵だった人とかいる? 門番か城周辺の警戒くらいしかすることがないけど、それでも働きたいなら雇うよ」
ケビンの伝えた内容にチラホラと手を挙げる男性たちがいた。最初の男性同様に不遇の処置で奴隷落ちした人たちであった。
ケビンは衛兵として雇うために、最初に話しかけてきた男性から名前を聞くことにする。
「それじゃあ、貴方の名前は?」
「私はアルフレッドです」
「じゃあ、アルフレッド。君が帝城付衛兵隊のリーダーだから他の者たちを纏めあげて。準備金は金貨5枚で足りる? 装備品とかは城のを渡すつもりだけど」
「はい。十分です」
「隊の宿舎は空き家の1戸をみんなで使って」
「よろしいのですか? 私たちにはもったいない家ですが」
「どっちみち使わない空き家は壊す予定だったから。使ってくれるならそのままにするよ」
「ありがたく使わさせて頂きます」
「あと、城内の奥には入らないように。入っていいのは玄関までで、何かあったらそこから誰かを呼んで。それと、女性たちが買い出しとか行く時には護衛として随伴して」
「わかりました」
「それじゃあ、解散」
アルフレッド隊は集まり出すと各々の準備のために街へと繰り出して行く。それに釣られて残っていた他の男性たちも、ゾロゾロと後を追うようにして街へと向かうのだった。
「じゃあ、みんなは謁見の間に行こうか」
ケビンは女性たちにそう言って謁見の間へ足を進めると、女性たちもケビンの後ろをトコトコとついて行く。
やがて謁見の間についたケビンは玉座に座ると、女性たちを座らせて話し始める。
「みんなを俺の正式な奴隷にするに当たって、まずはその首輪を取り外す」
「見捨てるわけじゃないのよね?」
「正式な奴隷にするって言ったよね?」
「だってこれが外れる時は奴隷じゃなくなるときだから」
ケイトが不安からかケビンに尋ねると、ケビンはケイトのように誤解が起きないように首輪を外す理由を説明することにした。
「みんなに聞くけど、その首輪ってオシャレだと思う?」
「思わないわね」
ケイトが口にするとあとを追うように、他の女性たちも口々に「可愛くない」と申告していく。
「俺も可愛くないと思うし正直言って無骨過ぎるから、オシャレな物に作り替えてそれを身につけて貰おうと思ってる」
そうしてケビンは【創造】で、ハートの銀細工がぶら下がっている黒革の首輪を作り出した。
「これ、試しで作ってみたけど、女性からしてみたらどう思う? 変更点とかあったら遠慮せずに言って、女性の方がこういうのには詳しいと思うから」
「「「カワイイ!」」」
ケビンの作り出した奴隷の首輪を見て、子供たちが真っ先に反応を示すのだった。そのあとへ続くようにして、大人たちからも反応が返ってくる。
「それなら良かった。その首輪を外してこれに変えようかと思ってたんだけど、どっちにする?」
「「「そっちー!」」」
「じゃあ、その首輪を外してもいいよね?」
「「「お願いします!」」」
全員一致ということで元の首輪を外すと、1人1人に新しい首輪をつけてまわる。
そして、ケビンでは付けられない女性の番になると遠巻きに声をかける。
「君はケイトにつけてもらってね」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
「いいよ、無理しなくて。そのうち挨拶が交わせたらいいね」
「ごめんなさいごめ……」
ケビンがケイトを呼び寄せると、その少女用の首輪を渡してあとを託したらその場を離れていくが、ケイトが謝る少女に近づくと何やらブツブツ言っているのが窺えるのだった。
「ケビン様」
「え……いきなり何? その呼び方」
「正式な奴隷となりましたので変更させて頂きました」
「距離を感じるから前の喋り方でいい」
「ですが……」
「主人からの命令だ」
「……わかったわ。せっかく奴隷の振る舞いにしたのに」
「そっちの方が親しみやすいんだ。それで、何かあったの?」
「あの子が貴方につけて欲しいって」
「え、大丈夫なの? 無理してない?」
「貴方に少しでも報いたいって、挨拶がしたいってよ」
ケビンは最終確認のため遠くからその少女に首を振るだけいいからと声をかけて、僅かに首が縦に動いたのを確認したら少しずつ近づいて行った。
ケビンが近づくにつれてその少女は震え出したが、必死に腕を握りしめて震えを止めようとしているのを見て、ケビンも覚悟を決める。
「名前……教えてくれるかな?」
「ごめんなさいごめんなさいご……」
少女は無理やり唇を強く噛んで謝らないようにと懸命になっていると、ケビンが優しく声をかける。
「大丈夫、俺は君に酷いことしないから」
「……」
「俺の名前はケビンだよ。君は?」
「……パ……メラ……」
「そう、綺麗な名前だね。パメラ、首輪をつけてもいいかな?」
パメラが僅かに頷いたのを確認したケビンが首輪をつけるべく触れると、ビクッとパメラが反応するがプルプルと震えながら必死にこらえていた。
「終わったよ、パメラ。頑張ったね」
「ぁ……がと……」
全員に首輪をつけ終わったケビンは再び玉座に座ると、これからのことを説明しだした。
「とりあえず、みんなのまとめ役はケイトがして」
「え、私なの!?」
「そう、適任だろ?」
「丸投げなのね?」
「もう慣れただろ? それじゃあ、みんなの服はお金を渡すから自分の好きな物を買うといいよ。買いに行けない人は他の人に頼んで。いつまでもこの城に残ってた使用人の服を着とくわけにもいかないし」
「奴隷なんだから別にいいんじゃない?」
「俺が嫌だ。みんな同じ服だと変わり映えしないだろ?」
「つまりご主人様のために可愛く気飾れってことね」
「そうだね。どうせなら可愛いみんなを見ていたい」
「よくもまあ、そんな歯の浮くようなセリフが言えるわね……」
「あと、俺はちょっと行かないといけない場所があるからしばらく留守にするけど、お金をケイトに預けておくからここでのんびりと暮らしてていいから」
「帰ってくるのよね? お金を渡してサヨナラじゃないわよね?」
「心配するな、ちゃんと戻ってくる。捨てるつもりなら主人になっていない」
ケビンのその言葉に女性たちは安堵したのか、ホッとした表情を浮かべる。
「それなら帰ってくるまでにみんなで可愛く着飾っておくわね。貴方が我慢できずに手を出したくなるくらいに」
「勘弁してくれ、恨みを買って後ろから刺されそうだ」
それからケビンはやることが全て終わると、皇帝の部屋のベッドで横になり独り言ちる。
「あとは母さんたちに手紙を出すだけか……」
ケビンはひと休憩した後にサラたちへの手紙を書いて転移させると、人知れずその場から消え去ってしまう。
その後、ケビンの姿を見たものは誰もいなかった……
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