第246話 その手に掴むは制覇と友情
ターナボッタがダンジョン攻略を始めてから1ヶ月が経過した。現在は深層に到達しており鉄球トラップはなくなっていたが、結局中層では全ての階層で鉄球に追われるハメになっていたのだった。
本来なら毎日走らされて体力が上がったことを実感するはずだが、そこに気づかせないためにケビンはターナボッタの体力に合わせて、鉄球の迫りくるスピードや追いかけ回される距離を調整していた。
奇しくもそれは成功して、トラップが体力づくりのためのものだとは気づいていない。
ティナたちにしても相変わらずへばってしまうターナボッタを見続けているので、体力が上がっているようには感じていなかった。
むしろ鉄球に追われている中で、そこまでの気が回らなかったのも理由としてある。唯一気づいている者がいるとすれば、1人楽しんでいたクリスくらいだろう。
「じゃあ、今日の攻略前にドワンさんから受け取ってきた、クリスさんとララの新装備を渡しておくね」
ケビンが【無限収納】から取り出したのは、クリスとララの新装備であった。
クリスの武器はハルバードをベースに置いたもので、スピアーヘッドの部分にはスパイクによる刺突、アックスブレードによる払い斬り、反対側にはフルークがついており刺しえぐることも可能になっている。
柄尻には魔法の補助として魔石が組み込んであり、魔力ブーストの効果がついてある。
防具は動きやすさに重点を置いてあり、胸当てと篭手とすね当ての3点セットだ。
装備品はそれぞれに軽量化と耐久力アップ、魔法耐性が付与されている。すね当てに至っては敏捷アップの機能付きである。
ララの武器は本人の希望によって、撲殺ができるモーニングスターとなっている。
ドワンの遊び心によって、ただのモーニングスターではなく鎖が収納型になっており、手元で操作して飛び出す仕様になっていた。
そのまま殴ることもできれば、飛ばしてぶつけた後に振り回して攻撃もできる、とんでもない武器ならぬ飛んでも武器になっている。
鎖の収納も手元で行えるために、わざわざ回収する手間がない仕様である。
ケビンはどういう原理なのか全くわからないと伝えると、ドワンは「それがわかったら弟子にしてやる」と言って、ガハハッと笑っていた。
防具はニーナと同じ仕様で、色やデザインが変わったくらいのものであった。ニーナが黒ベースなのに対してララは白がベースになっている。
「では、先輩」
「何だ? 後輩よ」
「今日から本格的な深層攻略になりますので、くれぐれも注意して下さい」
「あぁ、ドジは踏まねぇようにする」
それからターナボッタを連れたティナたちは、マスタールームの転移魔法陣から深層へと移動するのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ターナボッタたちが転移したあと、ケビンはいつもの様に映画鑑賞モードになって、ターナボッタがある程度苦戦するような魔物とエンカウントさせて、それ以外の邪魔は入らないように魔物を間引いていた。
「それにしても、クリスさんには一言言っておけば良かったな」
画面上のクリスは新装備になったのが嬉しいのか、嬉嬉として敵をなぎ倒しており、いささかターナボッタの訓練に支障が出ている。
〈マスター、敵の数を増やしてはどうですか?〉
「そうするか」
〈魔物の思考誘導を行えばクリスさんの所へ集中できます〉
「そんな機能もあるんだな」
〈ダンジョン産の魔物限定になります〉
ケビンはパネルをチョイチョイっといじると、クリスの方へ強い敵が複数迫り、ターナボッタの方へ身の丈にあった敵が行くように仕向けて、観察を続けるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
さらに2ヶ月が過ぎると、ようやくターナボッタのダンジョン攻略が終わりを迎える。
「終わったー!」
ターナボッタは100階層のボス部屋で寝転がり、ダンジョン制覇の達成感をその身に感じていた。
「お疲れさまでした、先輩」
「疲れはしたが気持ちいいぞ、後輩」
「恐らく3ヶ月前とは見違えるほど強くなっているはずです」
「確かにな……これで成長していなかったら冒険者は廃業になるところだった」
「体力も見違えるほど上がってるはずですよ」
「そうかぁ? 実感がねぇぞ」
「鉄球地獄は楽しかったでしょ?」
「「「ッ!」」」
「……」
「楽しかったよー」
ケビンの発言によってティナとニーナ、ターナボッタは、あれが仕組まれたものだと理解した。
ララはケビンのことなので特に何もなく呑み込み、クリスは1人楽しんでいたのでありのままの感想を述べた。
「コアがやったように言っておいて、やっぱりあれはケビン君の仕業だったのね!」
「鬼」
「やり過ぎだろ……」
3人は鉄球が心底嫌だったのかケビンに物申していたが、クリスはそんなことは気にせずに指摘する。
「気づくのが遅いんだよー」
「クリスは気づいていたの!?」
「だってトラップが意図的だったもん」
「……そういえば、後半はやたらクリスが発動させていたわよね?」
「ケビン君ならここら辺で仕掛けるかなぁって思って、トラップを仕掛けそうな場所を探してたからね」
「やっぱりあなたは遊んでいたのね……」
「自由奔放」
「ふふん、ティナたちは修行が足らないんだよ。もっと観察眼を鍛えなきゃだよ?」
「くっ……」
「言い返せない……」
クリスがティナたちを丸め込んだところで、ケビンはターナボッタに語りかける。
「ということで、予定にないクリスさんの協力もあり、先輩は無事に体力向上を達成しました」
「いつもバテてたんだが……」
「そこは気づかれないように鉄球の難易度を上げていってましたからね。常に限界ギリギリまで走ってもらうために」
「マジか……」
「巻き添えだわ」
「鬼畜」
「ティナさんたちにだって恩恵はあったでしょ? 体力づくりが一緒にできたんだから」
「やっぱり攻略になるとケビン君はスパルタね」
「鬼コーチ」
ティナたちから責められようとも、ケビンには何処吹く風でララに話しかける。
「ララ、初めてのダンジョン攻略でよくここまで頑張ったね」
「いえ、みなさんがサポートして下さいましたので」
「ちゃんと見てたからララが頑張っていたのはよく知ってるよ」
「ケビン様……」
ララは頬を染めてケビンを見つめケビンもまたララを見つめていたが、そこへ思わぬ人物からの横槍が入る。
「後輩よ……その先は俺のいない所でやってくれ」
「……先輩……馬に蹴られて死にますよ?」
「その時はその馬と戦ってやる。何もしないまま殺されてたまるか」
「はぁぁ……先輩らしいですね。ララ、続きはまたの機会にね」
「……ケビン様」
恍惚とした表情のままララは夢心地に入り込む。そのような中、ティナたちも近づいてきてケビンに声をかける。
「残念だったね、ケビン君。もう少しだったのに」
「空気を読まない先輩」
「ケビン君と一緒に遊べるお仲間が増えるね」
ティナは以前のように妬むことはなく、ララのことを認めていた。これも偏にちゃんとした婚約者となり心に余裕のできた証か、はたまたケビンの女性関係では諦めがついているのか、それは本人にしかわからない謎である。
ニーナはいいムードだったところで、ターナボッタの邪魔が入ったことを皮肉っているが、クリスは楽しければいいといった感じで、ケビンと一緒にいられることが何より優先されているのであろう。
「ぐっ……俺が悪かったのか……?」
「まあまあ先輩、そんな時もありますよ。それではギルドに行ってランクを上げてもらいましょう」
ケビンは交易都市の路地裏へとみんなを連れて転移すると、そのままギルドへと足を運ぶのだった。
「こんにちは」
「あら、ケビン様。お久しぶりです」
「クリスと先輩、ララのランクアップ試験をお願いします」
「かしこまりました。ギルドカードを預からせていただきます」
3人からギルドカードを受け取ったケビンは、受付嬢にそのまま渡す。
「先輩は飛び級でAランクをお願いします。実績は履歴を見ればわかると思いますので」
「拝見します」
受付嬢はギルドカードの履歴を見ると、その内容を確認していく。
「ターナボッタさんはダンジョンを制覇したようですね。それに討伐履歴も申し分ありません。ギルドの規定によりAランク冒険者のケビン様を推薦者として飛び級を認めます」
「マジか……そんなことができたのか……」
「ええ、可能です。高ランクの冒険者が推薦すれば飛び級ができるのです。ケビン様はSランククランのリーダーであり、自身もAランク冒険者ですので資格は充分にあります」
「後輩のお陰か……」
「それだけではありません。ターナボッタさんの実績も充分ですので認めたのです。実績がない場合は審査が厳しくなります」
「ダンジョン攻略してて良かった……」
「ちなみに通常のランクアップ試験とは異なり面談がありませんので、実力試験のみとなります」
「え? 何で?」
「推薦者がついているからです。推薦する以上その人の人柄が良くなければ、何かあった時に割を食うのは推薦した人ですから。そういうこともありますから、中々推薦されるような方はいませんけど」
「つまり俺の人柄は後輩が保証すると……?」
「そういうことになります」
「なぁ、後輩よ……」
「何ですか? 先輩」
「何か俺にできることはないか? 恩返しがしたい」
「それでは、これからもずっと俺の先輩であり続けて下さい」
「後輩!」
「先輩!」
ケビンとターナボッタはガシッと手と手を掴み、先輩と後輩の垣根を越えたお互いの友情を確かめるのであった。
「男の友情ね」
「友だちは大事」
「ケビン君嬉しそう」
「ケビン様……」
男2人が互いの友情を確かめ合った後、3人は無事に試験を合格してAランク冒険者へ昇格したのだった。
その後、ケビンはターナボッタとともにドワンの元へ訪れて、今回のダンジョン産の解体された素材をマジックバッグと一緒に贈り、ターナボッタにも昇格祝いとしてマジックポーチを贈るのであった。
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