第239話 国王たちへプレゼント
ある日のこと、ケビンは国王に用があり王城へと足を運んでいた。慣れた様子で国王の私室に入ると、そこには王妃と2人でお茶を楽しむ国王の姿があった。
「おぉ、ケビンではないか。どうしたのじゃ?」
「ちょっと文句を言いにね」
「なぬ? 文句とな?」
スタスタと2人の傍に寄ると、ケビンはミナーヴァ魔導王国での件を語りだした。
「ミナーヴァ魔導王国で侯爵にされちゃったんだよ」
「おぉ、そのことか」
「更に第2王妃から王女の婚約者になれって命令されてね」
「……」
「あらあら、やってはいけないことをしたのね? あの国の王妃は馬鹿なのかしら?」
「マリーさんも似たようなことしたでしょ? 人のことは言えないよ」
「もう、ケビン君は意地悪ね」
ケビンの鋭い言葉でマリーが過去にやったことを指摘されてしまい、バツが悪そうに言うのであった。
「あの人とマリーさんとの違いは、親交があるかないかだよ。お茶会をしてなかったり、母さんの知り合いとかじゃなかったら端から断ってるよ」
「それじゃあ、婚約は断ってきたの?」
「いや、受けたよ。王女が自分の意思を伝えてきたからね。その誠意に応えた感じ」
「アリスと同じパターンね」
「まぁ、それがなかったら侯爵にされていても、あの国とは2度と関わらなかったよ」
「すまんかったの、ケビン。ちゃんとするように手紙には書いておったのじゃが」
「大方エムリス陛下みたいに上手く丸め込めると思ってたんでしょ。頭にきたからその場で文句言ってやったし、あの2人には気持ちが落ち着くまでは関わりたくないね!」
ケビンの表情が段々と険しくなっていく様子に、マリーはその心中を慮るのである。
「相当頭にきたのね。そんなに嫌な態度だったの?」
「エムリス陛下を操れているから基本的に上から目線なんだよ。調子に乗ってる感じがした」
「自分たちが国を動かしていると勘違いしているのかしら?」
「昔からそんな感じの関係だったみたい。幼馴染同士で結婚したんだってさ」
「子供の時からの力関係も考えものね」
「まぁ、そんな感じだよ。愚痴って少しはスッキリしたし本題を伝えるね」
次の話題に入ろうとしたケビンに国王が席に座るように促すと、使用人を呼び出してケビンのお茶を用意させる。
お茶と茶菓子が用意された時点で、国王がケビンに声をかける。
「少し休憩じゃ。お茶を飲んで落ち着くのも良いものだぞ」
「ふぅ……ありがとう」
「ねぇ、ケビン君」
「何?」
「アリスに会ってくれる?」
「何かあったの?」
「寂しがっているのよ。戦争が起こるかもってことで頭ではケビン君の優しさはわかっているのだけど、心がね、まだ割り切れていないのよ。一緒に冒険するつもりだったから」
「そっか……楽しみにしてたもんな……わかった、放課後にでも学院へ会いに行くよ」
「そうしてくれると助かるわ」
「大事な婚約者だしね。帰りが遅くなってもいい?」
「ケビン君が一緒なら大丈夫よ。明日は学院も休みだし、朝帰りでもいいわよ?」
「……まさか親から朝帰りを薦められるとは思わなかったよ」
「ケビン君だからよ。しっかり面倒を見てあげてね、あの子がこれからも頑張れるように」
「任せて。しっかりと癒してくるから」
小休憩がてらマリーと会話していた内容がひと段落すると、ケビンは国王に話しかけるのだった。
「今日はね、マジカル商会の魔導具を持って来たんだよ」
「おぉ、巷で噂のやつじゃの。ランタンでも手に入れたのか?」
「デザインのオーダーもできるのでしょう?」
ケビンがマジカル商会のオーナー兼製作者であるのは一部の者しか知らず、国王たちはまだ知らない側の人間であり期待に胸を膨らませる。
それ故に、巷で噂のマジカル商会の商品を見れるとあってか、国王たちのテンションも上がりウズウズとしているようだ。
「まずはランタン!」
ケビンが【無限収納】から取り出したランタンはグローブが光を通さないように加工された物で、その部分を星形にくり抜き散りばめた物と花形にくり抜き散りばめた物を2点。
それとは別で、今度は逆に光を通さない部分が星形になっている物と花形になっている物を2点の計4種類用意した。
「それじゃあ、実演するね」
ケビンは席から立つと、2人のすぐ傍に天井のない1辺1メートル程の黒い箱型の物を【無限収納】から取り出して置いた。その中にランタンを1個置くと起動させる。
作動したランタンは四方に星形の灯りを散りばめる。
「ほぅ……」
「まあ……」
それを見た2人は感嘆の声を上げると、その光景に魅入られてしまうのであった。
「このタイプは光がくり抜かれた形に倣って、辺りを照らすようになっている物だよ」
ケビンはそう言うと、箱の中のランタンの灯りを消すと一旦取り出して、次はもう1種類のランタンを同じように中に置くと起動させる。
作動したランタンは四方に星形の影を散りばめる。
「こっちは逆に残した形に倣って、辺りに投影するようになっている物だよ」
「綺麗じゃの」
「素敵ね」
「この星形を陛下に、花形をマリーさんにプレゼントするよ」
ケビンは箱の中からランタンを取り出しながらそう伝えると、国王が当然のように尋ねるのであった。
「高かったのではないのか?」
「値段は気にしなくていいよ。俺が作った物だから」
「……作った?」
「そう。実はね、マジカル商会は俺の立ち上げた商会なんだよ」
「「ッ!」」
「だからそれは、現在売りに出していない2人のために作った非売品だよ」
「あの並ぶ者がないと言われた謎に包まれた魔導具専売店は、ケビンの商会じゃったのか……」
「製作者不明だったのも納得だわ」
「魔導学院の教員とかエムリス陛下たちは知ってるよ。調光型ランタンを魔導具祭で出品しちゃったし、商会ギルドの方は伏せてあるけど製作者とパイプのある者として認識されてるから、オーダーとか普通に受け付けたりしてるんだけどね。まぁ、受ける受けないは俺が決めるから別にいいんだけど」
「ケビンが作るのであれば独占販売じゃのぉ」
「どの魔導具技師もまだ真似できないそうよ? 分解しようにもできないみたいで」
「あぁ、それは簡単に真似されても困るから、分解できないように付与効果をつけてあるんだよ。凄い物を作りたければ魔導学院で勉強しろって感じだね」
「確かにのぅ……楽して真似されたら憤りを感じてしまうの」
「これからもマジカル商会は独占販売ね」
それからケビンは居住まいを正すと、国王に向かって本来の目的を話す。
「今日来た本来の目的は、戦争に関してなんだ」
「まだ帝国に動きはないぞ」
「それは良かった。あとマジカル商会の軍事利用品を納品するよ」
「軍事利用とな?」
ケビンの言葉を聞いた国王は、“軍事利用”の部分に反応を示した。それを見たケビンは【無限収納】からある物を取り出す。
「それは何じゃ?」
「あれ……? ミナーヴァと侯爵の件でやり取りしてたなら知ってるんじゃないの?」
「何も聞いておらんぞ?」
「くっ……あの女狐どもめ……」
ケビンはミナーヴァの王妃たちが【簡易式結界陣】を、自国の為だけの利益として隠蔽していたことに気づくのであった。
「その様子じゃまた王妃たちが絡んでおるようじゃの……」
「決めた! もうあの国には追加をあげない」
「ケビン君を怒らせるなんて馬鹿よねぇ……」
さすがのマリーも、ここまでケビンを怒らせてしまうミナーヴァの王妃たちに呆れて果ててしまうのである。
「それで、その魔導具は隠すほどの物なのか?」
「これはね、【光属性】の素質がない人や魔法が使えない人でも結界を張れる魔導具なんだよ」
「「ッ!」」
ケビンの語る驚きの内容に2人は目を見開いた。それが如何に凄いことであるのか理解しているからだ。
「ケビンよ……何てものを作り出しておるのじゃ……」
「国宝に指定しないと危険なことになるわ」
「大丈夫だよ、そこまで危険にならないし、手間がかかるから」
ケビンはそれから説明に入るため、魔導具を適度な位置に配置していくと喋りながら実演していった。
やがて一通り説明を終えたケビンが取扱説明書を渡すと、国王と王妃はそれに目を通す。
■ 魔導具【簡易式結界陣】取扱説明書
~改良型1号機(アリシテア王国所有)~
・正八面体魔導具1個と四角錐形魔導具3個からなる
・四角錐形3個で三角錐、4個で四角錐となり増やした分だけ多角錐となる
・起動するには『起動』と言い、停止するには『停止』とキーワードを言う必要がある
・四角錐形の有効距離は30メートル
・等間隔で4個使用した場合の実有効距離は20メートル
・4個使用した場合、1個が故障すると自動で残りの3個が結界を維持するが、距離が離れていれば結界を維持できずに消失する
・四角錐形が2個になると結界を維持できない
・正八面体が壊れると結界を維持できない
・起動時にはそれぞれ魔力を流す必要あり(四角錐形→正八面体の順)
・魔力を流した人だけが結界内を出入りできる
・結界に攻撃されると魔法の場合は吸収して何割か動力源となり、物理の場合は耐久力が落ちる
・耐久力が落ちた場合は維持するのに魔力を必要とする
・中にいる者から外への攻撃は結界を通過するので可能
・起動後であれば魔力を流すのは四角錐形のどれかでいい
・供給された魔力は魔導具間で共有される
説明書に目を通し終えた2人が顔を上げたのを確認したケビンは、話を再開するべく言葉を口にする。
「これを陛下に納品するのが今回の目的だったんだよ」
「ミナーヴァが隠したがるわけじゃな。これがあれば戦況が変わってしまう」
「今頃、必死に研究しているんじゃないかしら? 量産できたら儲けものだもの」
「あぁ、それは心配ないよ。マジカル商会の魔導具は全て分解できないようにしてあるし、提出した論文も取扱説明書みたいな感じにして、肝心な仕組みとかは省いたから」
「先に手を打っておいたのね」
「4年もあそこにいたからね、王妃たちがやりそうなことだから先に手を打っておいたんだよ。まさかこっちに秘密にしていることまでは読めなかったけど」
「今頃はさぞ悔しがっているでしょうね」
ケビンに関することで協力していたにも関わらず秘密にされていたことを根に持っているのか、マリーはニコニコと微笑みながら口にした。恐らく『ざまぁ』と思っているに違いない。
「それで今回はこれを5セット納品するからいいように使ってね。総指揮官や指揮官クラスのテントくらいは守れるよね?」
「そうじゃの……部隊数にもよるが大凡はそれで間に合うじゃろ。戦争が起こらなければ1番いいのじゃがな」
「平和が続いていたのにね」
「帝国は脳筋の集まりだわ」
3人揃ってため息をもらしたのも束の間、国王が気まずそうにケビンに声をかける。
「ところでケビンよ」
「何?」
「陞爵したいのじゃが……」
「まさか、これ?」
ケビンが指をさしたのは、たった今話を終えた魔導具であった。
「そうじゃ。さすがにこれは陞爵するに足る案件じゃ。指揮官となる者の命を守るゆえに、戦場でのその効果は計り知れん。兵士たちの士気にも影響を及ぼすじゃろう」
「ミナーヴァに張り合ってとかじゃないよね?」
「それはない。これがなければ伯爵のままじゃった」
「今さらなかったことにするわけにもいかないし、元々渡す予定だったからどうしようもないね」
「すまんの……」
「いいよ、先に教えてくれたから。ちなみに何になるの? 辺境を持ってないから飛ばして侯爵?」
「そうじゃの。1つ飛ばしで侯爵になるの」
「わかった」
それからしばらくは国王たちと一緒の時を過ごして、放課後が間近になるとケビンは城を後にして学院へと向かうのである。
後日、日にちを置いてケビンは再び王城へと足を運ぶと、褒賞の儀で国王から侯爵位を賜るのであった。
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