第231話 モブ量産? いえいえ、表彰式です
魔導具祭が始まってから5日目、最終選考に残ったケビンを含む一部の生徒たちが大きな会場に集められた。
会場には丸テーブルと椅子が等間隔に配置されて、場所は決まっておらず適当に座る感じになっている。
ケビンがキョロキョロと座る場所を探していると、見知った顔から声をかけられる。
「よう、後輩。ここに座れよ」
「あ、先輩。お久しぶりですって程でもないですね」
ケビンに声をかけたのは親善試合で戦ったターナボッタであった。どうやらターナボッタも魔導具を提出して参加していたようである。
「もしかして先輩はあの武器を提出したんですか?」
「まぁな。あれは合作ではあるものの、魔術回路とかは俺が施したからな。それに本人は学院生でもないし、表彰されるようなことは嫌うしな」
「へぇー部外者との合作だったんですね」
「あぁ。たまたま寄っただけの街で凄腕の鍛冶師がいるって聞いたから、何かヒントになるような話が聞けないか尋ねたら、これまた、たまたま剣に魔法を纏わせる冒険者を知ってるって話になって、新しい試みで面白そうだから手伝ってやるって言ってくれてな、そこから魔導具にするための剣を打ってくれて情報のやり取りをするようになったんだ」
「ほぉー偶然が偶然を呼んで必然になった感じですね。成るべくして成った魔導具というわけですか」
「そうだな。あの出会いは奇跡としか言いようがないな。今はまだ2属性しか組み込めないが、今後はもっと組み込めるように仕上げていくつもりだ」
「夢が広がりますねぇ」
「お前の武器も打ってもらったらどうだ? 業物なのはあの時に戦ってわかっているが、俺の協力者はドワーフだからきっといい武器ができるぞ」
「いえ、俺の武器もドワーフの知人に打ってもらったやつなんですよ。その人と知り合ってからは、仲間の武具をそこで打ってもらってるんですよ。メンテナンスもそこに持っていきますし」
「お互いにドワーフの知り合いがいるとはなぁ」
「何か縁を感じますねぇ」
2人して感慨にふけっているが全く気づいてはいない。世間が意外にも狭いことを。
「そういえばどこの街のドワーフと知り合いなんだ? 俺は隣の国の交易都市で知り合ったんだが」
「へぇ、偶然ってあるものなんですねぇ。俺の知人も交易都市のドワーフなんですよ」
「「……」」
ここにきてようやく話が微妙に重なっていることに気づく2人。まさか同一人物ではないのかと疑問を抱いて、ターナボッタは最終確認へと移行する。
「なぁ、ドワーフってそんじょそこらにいないよな?」
「そうですね。気難しい性格ですから表にはあまり出てこないはずですよ」
「しかも、交易都市にいるドワーフの鍛冶師って1人のはずだ」
「そうですねぇ」
「包丁作ってるよな?」
「作ってましたねぇ」
「お前、試合の時は刀に魔法を纏わせてたよな?」
「してましたねぇ」
「あれって誰でもできるわけ……」
「ないですねぇ」
「で、お前って冒険者やってたりするか?」
「本職はそっちですからねぇ」
ターナボッタはテーブルをバンッと叩いて立ち上がった。
「ドワンさんの言ってた冒険者ってお前のことかっ!?」
「そうなりますかねぇ」
ターナボッタがテーブルを叩いて大声を出したことにより、周囲の視線を一斉に集めてしまっていたためケビンが落ち着くように言うと、ターナボッタは周りにペコペコしながら席についた。
「はぁぁ……まさかヒントになった人物がこんなにも身近な所にいたとはな……」
「いやぁ、世間って意外と狭いもんなんですね」
「そうだなぁ……」
ケビンたちはまたしても感慨にふけっていると、ようやく準備が整ったようで表彰式が始まりだした。
窓の暗幕が自動で閉まり始めると会場は次第に薄暗くなっていき、間接照明で真っ暗にはならなかったが、雰囲気は充分に出ているようだ。
正面のステージ上はライトアップされて、端の方には教壇みたく進行役の席が用意されている。
教員が左側の舞台袖から出てくると、そこに設置されている教壇の所へ配置についた。
「長らくお待たせしました。今年の魔導具祭の締めくくりとなる各賞の発表を行いたいと思います。司会進行役はこの私、ガイナ・ハガシナが務めさせていただきます」
進行役の宣言により、会場からは入賞を狙っている生徒たちの固唾を飲む音が聞こえる。
「皆さんも待ちきれないでしょうが、その前にお知らせがあります。今回、各賞を受賞するはずであった魔導具類が故障や作動不良を起こしたため、再選考をした後に再度受賞者を決めさせていただきました。発表が1日遅れてしまいましたことをこの場でお詫びさせていただきます。魔導具である以上、いつかは故障する可能性も無きにしも非ずですが、今回不具合を起こした魔導具は突貫で作製していたことが聴取によりわかり、これは製作者としては有るまじきことです。そもそも――」
その後も進行役による魔導具とはうんぬんかんぬんが続き、話が横道に逸れまくって元の道を見失ってしまったようだ。
「先輩、長くないですか?」
「後輩、あの人は話が長いことで有名だ。諦めろ……」
あまりにも長く続く終着点の見えない進行役の話に、舞台袖から別の教員が現れて耳打ちをする。
何を伝えられたかはわからないのだが、顔が青ざめていく様子は見て取れて、上着からハンカチを取り出すと冷や汗らしきものを拭いている。
「え、えぇー……ゴホン。しょ、しょれでは、各賞の発表を行いましゅ」
噛みまくりである。中年男性の噛む姿など、どこの世界に需要があるというのか。
反対側の舞台袖をチラチラ見ている姿から、あの先には学院のお偉いさんが待機しているのは容易に想像できる。
「まずはデザイン賞からです。このデザイン賞は魔導具の外観や――」
またも始まる進行役の魔導具うんぬんかんぬん……反省していなかったようだ……むしろ矯正できない癖なのかもしれない。
舞台袖から慌てて出てきた別の教員が、話し続けていた進行役を舞台袖に無理矢理引きずり込んでいく。
「先輩……」
「言うな、後輩……」
ケビンがステージ上の珍劇に呆れていると、ターナボッタは3年も通い続けているので慣れたものだが、さすがに1年生が呆れているので居た堪れなかった。
会場がザワザワとしている中、1人の女性が舞台袖から出てきて教壇の所へついた。
「大変お見苦しいものをお見せしました。ここからは私、モニスター・マセレオーブが司会を務めさせていただきます」
1礼とともに挨拶したのは女性の教員で、先程までの中年男性はその役目を強制的に終わらされてしまったようだ。
「改めまして、デザイン賞の発表です。4年生モブオ君、モブラ君、モブコさん、3年生モブミさん、1年生ケビン君。ステージ上へお越しください」
「やったな、後輩。デザイン賞だぞ!」
「行ってきます、先輩」
進行役に呼ばれた生徒たちが次々とステージへ上がって整列すると、舞台袖から別の教員が出てきて表彰楯をそれぞれに渡していく。
「おめでとうございます。これからも励んでください」
「ありがとうございます」
生徒たちが表彰楯を受け取ると、そのまま自分たちの席へと戻って行った。
「続きまして、アイデア賞の発表です。4年生モブゾウ君、モブスケ君、モブジ君、3年生ターナボッタ君、1年生ケビン君。ステージ上へお越しください」
「先輩、おめでとうございます」
「あぁ、ドワンさんに嬉しい報告ができる!」
進行役に呼ばれた生徒たちが、先程と同じようにステージへ上がると表彰楯を受け取り元の席へと戻る。
「それにしてもお前は何を提出したんだ? 2つも受賞してるよな」
「ランタンですよ」
「は?」
「ランタン」
「……マジ?」
「大マジです」
「……」
ケビンとターナボッタが話している間も表彰式は変わらず進行していく。
「続きまして――」
その後、機能賞と技能賞にターナボッタとケビンがまたもや受賞して、新人賞にはケビンが表彰された。これによりサブタイトルはターナボッタが3冠、ケビンは総ナメする形となった。
そして表彰式はメインタイトルのみを残すこととなり、会場の緊張感は一際高くなる。
「今回、銅賞を受賞するのは……」
どこからともなくドラムロール的な音が流れ出して、天井から多数のスポットライトが会場内を行き来する。
そして、スポットライトが1点に集まると同時に進行役も受賞者の名前を口にした。
「4年生、モブリアンさんです! ステージ上へお越しください」
周りの生徒たちからの拍手に包まれる中、1人の女子生徒が信じられないといった感じでステージ上へ向けて歩いていく。
やがてステージ上へ辿りついたモブリアンに、進行役がマイク片手に駆け寄っていく。
「今のお気持ちをどうぞ!」
「し……信じられません……私の作品が銅賞を取れるなんて……」
感極まって口元を抑えているモブリアンに表彰楯が贈呈される。それを震える手で受け取るとステージ上を後にする。
モブリアンが戻った席では、周りの生徒たちから「おめでとう」という声が聞こえてきた。
「あぁーあ、ダメだったか……再選考があったから、銅賞なら何とか受賞できそうな気がしてたんだけどな」
「まぁ、来年もありますよ。4年生になるんですからもっといい物が完成しているはずですよ」
「そうだな。元々魔導具祭は4年生がその集大成を出展してくるしな、サブタイが貰えただけでも今年は良しとするか」
ターナボッタが銅賞を狙っていたことを吐露するが、来年もあるためにケビンがフォローをいれていると、続く銀賞の発表が行われようとしていた。
「さぁ、次は銀賞の発表です」
先程と同様のシュチュエーションが繰り広げられる。生徒たちはそれを固唾を呑んで見守る。主に4年生たちがその傾向にあるようだ。
「4年生、タダモブ君です! ステージ上へお越しください」
タダモブは拍手に包まれる中、緊張した面持ちでステージへ上がっていく。
「今のお気持ちをどうぞ!」
「む……無理です……倒れそうです……」
「倒れそうなほど嬉しいのですね!」
緊張まっただ中のタダモブの気持ちなどお構いなしに、進行役は強引に言葉を塗り替えていく。
ガタガタと震える手で表彰楯を受け取ったタダモブは、フラフラとした足取りで元の席へと戻って行った。
席に着いてからも心ここに在らずで、放心状態と化している。
そしていよいよ、高まる緊張感に会場が包み込まれる中、金賞の発表となるのであった。
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