第204話 親善試合 団体戦②

 その後、第2回戦、第3回戦と続き、ミナーヴァ魔導学院は善戦するものの負け続けていた。そして、3年生最後の1人である選手が舞台へ今まさに上がろうとしている。


「ミナーヴァ魔導学院中堅、3年生のターナボッタ選手」


 観客たちからは拍手が送られるがその視線はどこか同情的であった。それも偏に、負け続けていたことが起因している。


「これより第4回戦を開始する。両者は所定の位置に」


 2人が所定の位置につくと審判が確認を取って、開始の合図が宣言された。


「第4回戦……始め!」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



――ミナーヴァ魔導王国サイド


「はぁぁ……やっぱり今年は全敗だな」


「そんなことでどうするのです。もしかしたら、4回戦は勝てるかもしれませんよ?」


「そうか?」


「相手選手は連戦しているのですから、疲れているはずですよ?」


「そうならばいいが……」


 たった1人に負け続けていたミナーヴァ魔導王国サイドの国王は、憂鬱な気分を拭いきれず王妃が何とかフォローを入れるも、ため息ばかりついていてどんよりとした空気に包み込まれていたのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 舞台上ではターナボッタがマイルへ一気に間合いを詰めていた。繰り出す剣筋にマイルは目を見開き驚愕する。


「くっ……こいつは参ったなぁ……」


 今まで相手にしてきた選手は魔術寄りのところが大きくて剣を所持はしていたが、剣を振るというよりも剣に振り回されている部分があり、ある程度時間がかかったものの斬り伏せて倒していた。


 だが、今目の前にいる選手はどちらかというと、魔術師と言うより剣術士と言った方がしっくりくるような体捌きをこなしている。


 実はこの生徒、将来は魔法剣士を目指しておりミナーヴァ魔導学院へ入学していたのだ。


 入学してから剣士としての日々の研鑽は忘れず、なおかつ魔法剣士になるために魔法の勉強や練習も頑張っていた。


 今回の親善試合の代表者に申し込んだ際は、惜しくも次点という結果で抽選もれしていたのだが、当選した1人が体調不良を起こすというハプニングがあり、繰り上がりで代表者となっていたのだった。


「《エンチャント・ファイア》」


「――!」


 ターナボッタが呟くと握り締めている剣は火に包み込まれて、擬似魔法剣と化していた。


 繰り出される剣戟は火の効果も相まってマイルをジワジワと追い詰めていった。このままでは不利だと感じたマイルは、一旦間合いから離れて距離を取ると詠唱を始めた。


「そっちがその気なら……清廉なる水よ 球体となりて 我が敵を撃て 《ウォーターボール》」


「《エンチャント・ライトニング》」


 マイルの放った水球に対してターナボッタの取った行動は、相性のいい雷を剣に付与したことだった。


「なっ――!」


 ターナボッタは飛来する水球をいとも簡単に斬り裂いて無効化していく。それを見たマイルは冷静さを欠いてしまい、次の手を威力重視の魔法にして詠唱を始めてしまった。


「まだだっ! 万物を照らす光よ 魔を穿つ聖槍よ 我が求めに応じ――」


「遅い」


 マイルが詠唱を行っている間にターナボッタはマイルへと詰め寄り、そのまま袈裟斬りにすると返す刀で胴を薙ぐ。


「ぐあぁぁぁぁっ!」


 マイルは連戦が続いていたことと、雷を付与された剣に斬られたことによって、呆気なく意識を刈り取られたのだった。


「しょ、勝者、ターナボッタ選手!」


 初めてのミナーヴァ魔導学院側の勝利となって、会場はこれでもかと言うほどに騒然と沸き立っていた。


 そのような中で、ターナボッタは初めて手にした勝利で僅かに手は震え、鼓動も早くなり、周りの喧騒など聞こえていないようであった。


 しかしながら、試合は待ってはくれない。先程のマイルのように、今度はターナボッタが連戦を強いられる番となったのだ。余韻に浸る間もなく、次の試合へと進行する。


「フェブリア学院次鋒、3年Sクラスのモブイ選手」


 フェブリア学院側の入場口から出てきたのは、何処にでもいそうな普通の生徒で、拍手に包まれながら舞台へと上がってきた。


「これより第5回戦を開始する。両者は所定の位置に」


 2人が所定の位置につくと審判が確認を取って、開始の合図が宣言された。


「第5回戦……始め!」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



――フェブリア学院・選手控え室


「マジかよ……マイルが負けちまいやがった」


「順調に勝っていたんだけどね」


「相手は一体誰だ!?」


「ここからじゃわからないよ。不正が行われないようにここからは出られないしね」


「舞台に見に行きてぇけど、関係者以外立入禁止だしな」


 控え室で2人が話し合っていると、会場からは大きな歓声が聞こえてきた。


「どうやら決着がついたようだね」


 少しすると控え室のドアをノックする音が聞こえてきて、嫌な予感が選手たちに走る。


「おいおい……まさか……」


 ドアを開けて入って来たのは大会役員であった。役員は次の選手を呼びに来ない限り、控え室に近づくことはない。


「五将の方は入場口へと行って、待機してください」


 その役員の言葉に寡黙な男が1人立ち上がり、選手たちにひと声かけて控え室を後にした。


「行ってくる」


 その選手を見送った控え室では、何とも言えない空気に包まれるのであった。


「これは彼に期待するしかないかな」


「先輩なら余裕で勝てるだろ。先の2人と違って剣術がメインだから」


「そうだといいけどね……」


 思わぬ番狂わせに一抹の不安を感じながら、穏やかな表情の選手はそう答えるのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 思いもよらぬ番狂わせに会場が沸き立っている中、役員はフェブリア学院の次の選手を紹介した。


「フェブリア学院五将、3年Sクラスのカモック選手」


 静かに入場口から出てきたカモックは、そのまま舞台へと上がる。


「これより第6回戦を開始する。両者は所定の位置に」


 2人が所定の位置につくと審判が確認を取って、開始の合図が宣言された。


「第6回戦……始め!」


 先に仕掛けたのはカモックであった。一気に間合いを詰めると両手で握る剣を素早く振り下ろした。


「くっ……」


 響きわたる武器のぶつかり合う音に、ターナボッタは相手の膂力を受け流しながら反撃を繰り出す。


 しばらく続く剣戟の音に観客たちはヒートアップしていく。そんな中、2人は鍔迫り合いで言葉を交わしていた。


「いい腕だな」


「そっちこそ、中々やるな」


「奥の手は使わないのか?」


「お望み通り使ってやるよ」


 カモックはただ剣の腕がいいだけなら、先の2人が負けるはずもないと踏んでいて、早々に奥の手を使わせる作戦に出た。


 鍔迫り合いから一旦距離を置くと、ターナボッタは剣にエンチャントを施す。剣の腕が拮抗しているならば、僅かでも当てることができたら痺れさせて隙を作ることができると考えて、火属性ではなく雷属性を選んだ。


「《エンチャント・ライトニング》」


「……」


 今度はターナボッタから一気に間合いを詰めると、袈裟斬りでカモックに襲いかかる。その手には雷が付与された剣が握られており、刀身からはバチバチと光が迸っていた。


 対するカモックは今1度その両手に力を込めると、ターナボッタの袈裟斬りを両手で握る剣で受け止める。


 そこから更に剣戟は続き、振り上げには振り下ろしで合わせて、突きには体捌きで避けて、舞台上ではお互いに決め手に欠けて膠着状態と化していた。


 均衡が崩れたのは数十分後のことだった。連戦による疲弊でターナボッタが僅かに体勢を崩したのをカモックは見逃さず、両手に込める力を増やして膂力を込めて横薙ぎに剣を振り払った。


 ターナボッタは瞬時に剣を体の前に割り込ませるが、フルスイングに近い状態で迫り来るカモックの剣を体勢の悪い状態で耐えきることはできずに、そのまま吹き飛ばされてしまった。


 吹き飛ばされたターナボッタは、舞台上を激しく転がりながら50メートルほど離れたところでようやくその動きを止めた。


 カモックは特に追撃をするようなことはせずに、そのままターナボッタの様子を窺っている。


「ぐ……」


 震える手で何とか立ち上がろうとしているターナボッタだが、その体には疲労が蓄積している上に、更にカモックにより受けたダメージが重なり、仰向けにひっくり返ることで精一杯であった。


 ターナボッタは動けない体で大空を見つめていると、全力で戦ったおかげか思いのほか清々しい気分になれて、負けを宣言するのである。


「……降参する」


 審判がターナボッタの宣言を聞いて、試合終了の勝利者宣言を高らかに告げた。


「勝者、カモック選手!」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



――ミナーヴァ魔導王国サイド


「惜しかったな」


「あの子は頑張ってくれましたね。2勝も相手側から奪ったのですよ?」


「だが、後に残るは2年生と入学したての1年生だ。今年は全敗が確定と言われていたからな、1人で2回も勝ってくれたあの生徒には感謝しないとな」


「そうですね、後は個人戦であの子が活躍することを期待していましょう」


 ミナーヴァ魔導王国の国王と王妃は既に団体戦の残りは消化試合と結論づけて、後にある個人戦に思いを馳せるのであった。


 更なる番狂わせがこの後に巻き起こるとは知らずに……

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