第203話 親善試合 団体戦①
あれから2ヶ月の月日が経ち、とうとう親善試合が開催された。会場はアリシテア王国内王都アリシテアにある、王立フェブリア学院の闘技場にて行われる。
無駄にデカい敷地を抱える学院の闘技場は、親善試合をするのにうってつけなのだそうだ。
ミナーヴァ魔導学院ではこじんまりとした闘技場しか所有しておらず、そもそも生徒数からして違うので、敷地もそこまで広くはないことが起因していた。
会場となる闘技場は親善試合用として作られた物であり、両国王族が見学できるように、VIPエリアが用意されている。
それぞれの学院の入場口の上にバルコニーのように造られて、両サイドは壁で覆われているが全面は観戦できるように手すりがついており、テーブルと椅子が完備されていた。当然、エリア周りは護衛が固めている。
王族からしてみれば親善試合なのだろうが、参加する側からしてみれば御前試合と化していて緊張する学生もいるかもしれない。
舞台の広さは直径100メートルほどで外に被害が出ないように結界が施され、観戦する者たちの安全が確保されていた。
更には結界内であればたとえ斬られたとしても、致命傷にはならず体力が代わりに奪われるという不思議仕様付きである。
舞台の外周部にはフェブリア学院に中継するための魔導具まで設置済みだ。授業免除となっており登校する必要はないが、親善試合見たさにわざわざ登校して教室で鑑賞会を開くらしい。最早、お祭り騒ぎである。
親善試合の日程としては団体戦がまず開催されて、その後に個人による総当たり戦となっている。
団体戦のルールは7人による代表戦で先に大将を倒した方が勝利となる。最近のミナーヴァ魔導学院の戦績は、良くて3勝、悪くて1勝であった。
親善試合を始めた頃はまだ勝てていた年もあったそうだが、年々戦闘よりも研究に勤しむ学生が増えたからか、戦績は年を重ねるごとに右肩下がりの低迷状態となっていったらしい。
そして、今回はやる前から全敗が決まっているとあってか、学生のやる気も低空飛行を続けているが、僅かな望みをかけてラッキー勝利を狙っている学生がいた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ミナーヴァ魔導学院・選手控え室
ここにはケビンの他、2年生2人と3年生4人が待機している。
「大将はお前に任せたぞ」
3年生の1人が俺にそう伝えると、ふと気になることがあったので尋ねてみた。
「大将って普通は先輩方がなるものでは?」
「今までの傾向から向こうは弱い順に選手を決めてあるんだ。それなら先鋒で出た方が単位の獲得ができるかもしれないだろ? お前は1年なんだからここは先輩に譲れ」
つまりこの人は単位の獲得のため俺を後回しにすると言っているのか。俺としてはやることは変わらないし、どっちでもいいことだが。
「わかりました」
「よし、2年生は三将と副将を決めておけ。俺たちも順番を決めるぞ」
それから俺以外の人たちは出る順番を決めていた。2年生は団体戦を捨てているのか適当に順番を決めていたのに対して、3年生は誰が先鋒を取るかで大いに揉めていた。
最終的には運が必要ということでクジ引きにて決めていたが、ここでその運を使っても大丈夫なのか?
ともあれ順番が決まったところで控え室は落ち着きを取り戻して、先鋒を勝ち取った3年生が準備を始めていた。
剣を所持しているということは、ある程度近接戦闘ができるということなのだろう。是非とも頑張ってもらいたいものだが。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――アリシテア王国サイド
毎年恒例のイベントとあってか親善試合であろうともあまり興味はなく、国王と王妃はお茶を楽しんでいた。
「お父様、お母様」
そこへ1人の少女がやって来た。この国の第3王女であるアリスである。
「おぉ、アリスか。観客席ではなくこっちに来たのか?」
「こちらの方が良く見えますし、ゆっくり観戦できますから」
「アリス、こちらに座りなさい」
「はい、お母様」
アリスが席に座ると給仕係からはお茶が用意されて、それを1口飲むと思い出したかのようにマリーへと尋ねた。
「お母様、今年はあの方たちが出場されると耳にしたのですが」
「そういえばそうだったわね。ミナーヴァ魔導学院には可哀想だけど」
「今頃ケビンは勉強を頑張っておるのじゃろうな」
「楽しんでいるのでしょうね」
「会いたいです……」
アリスは遠くの地にいて離ればなれとなっている婚約者へと、募る思いを馳せるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ミナーヴァ魔導王国サイド
ここにはアリシテア王国サイドとは違って、朝から憂鬱な面持ちの国王がいた。
「はぁぁ……」
「あなた、ため息ばかりついていては幸せが逃げてしまいますわよ?」
そんな国王に声をかけたのは王妃であったが、国王の憂鬱な気分は晴れないようだ。
「しかしなぁ……今年も負けるかと思うとなぁ……」
「お父様、そんなにお強い方が相手選手におられるのですか?」
今年も負けると聞いて、今回同行していた国王の娘が不思議に思い尋ねてみると、国王は力なく答えるのである。
「あぁ、一昨年辺りから出始めてな。圧倒的な強さだったのだ」
「そんな方がいらっしゃるのですね。今年は見に来て正解でした」
王女は圧倒的な強さを誇る相手選手を見れると聞いて、期待に胸を膨らませていた。
何を隠そう、この王女はミーハーであり、ある時を境に国外であるにも関わらずフェブリア学院の闘技大会が行われると、記録映像の入手のためにお小遣いをやり繰りして取り寄せたりしているのだ。
記録している者自体が少ないために、一部マニアの間では高値で取り引きされることもあってか、王女と言えども中々に手の出せない代物である。
そんな王女が見つめる中、舞台では団体戦が執り行われようとしていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
観客たちが今か今かと待ち望んでいる中、とうとう親善試合の開催が大会役員から宣言された。
「これより、フェブリア学院高等部とミナーヴァ魔導学院の親善試合による、団体戦の部を行います」
やっと宣言された開催の言葉に、会場は割れんばかりの歓声を上げた。
「フェブリア学院先鋒、2年Sクラスのマイル選手」
役員の言葉により、フェブリア学院側の入場口から1人の選手が舞台に上がってくる。それを見た観客たちからは拍手が巻き起こる。
「ミナーヴァ魔導学院先鋒、3年生のアンラック選手」
続く言葉に、今度はミナーヴァ魔導学院側の入場口から1人の選手が舞台に上がり、同じように拍手に包み込まれた。
両者が舞台に上がったところで、審判が役員の仕事を引き継いだ。
「これより第1回戦を開始する。両者は所定の位置に」
2人が所定の位置につくと審判が確認を取って、開始の合図が宣言される。
「第1回戦……始め!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――フェブリア学院・選手控え室
「始まったようだ……」
寡黙な男が言った言葉に、穏やかな表情を浮かべた生徒が相槌を打つ。
「そのようだね。まぁ、マイル君が勝つんだろうけど」
「あいつ抜けているところがあるからな、うっかり負けたりするかもしれないぞ?」
「そうなのかい? 僕は学年が違うからそこまで知らないけど」
穏やかな表情を浮かべた生徒に対して、気安く喋っている生徒はどうやら学年が違うようだ。
「次鋒は俺かぁ……3年生の意地を見せないとなぁ……」
「先輩で全部終わってしまいそうですね」
次鋒戦を控えた生徒がボヤいていると、気安かった生徒は口調を変えて接していた。
「そうなったら後輩たちには無駄足を踏ませてしまうな」
「別にいいですよ。個人戦があるんですから」
「それもそうだな」
既にフェブリア学院側では団体戦を勝った気で話を進めているのであった。ミナーヴァ魔導学院側に臥竜が潜んでいるとも知らずに。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
闘技場の舞台ではマイルとアンラックが対峙していた。思いのほかアンラックが善戦しており、試合がすぐに終わるということはなかったようである。
「参ったなぁ。早く終わらせるつもりだったのに」
「こちとら単位がかかってんだ! すぐに終わらせられるかよ!」
「仕方ない、ちょっとやる気を出すか」
そう言うや否や、マイルはスピードを更に上げてアンラックに肉薄する。
「――!」
対するアンラックは相手のスピードが更に上がるとは思わずに、その速度に目と体が追いついていかなかった。
「はい、おしまい」
「……ツイてねぇ」
その言葉を最後にアンラックの意識が途絶えた。マイルから斬り伏せられて意識を刈り取られたのだ。
「勝者、マイル選手!」
審判の勝利宣言により、観客たちの喧騒に会場は包み込まれたのだった。
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