第161話 報告会

――フェブリア学院・応接室


 ここには、ケビンの兄姉とシーラの親友であるターニャが、テーブルを挟んで向かい合い座っていた。


 ケビンに関する新たな情報が入ったために、アインが召集をかけたのだった。


「ケビンのことで、新情報がマイケルから知らされた」


「何か変わったことでもあったのか?」


「かなり滅茶苦茶な内容だから、最後まで落ち着いて聞いてくれ。まず、ケビンが交易都市ソレイユで、ギルドマスターから討伐依頼がかけられた。依頼を受けたのは闇ギルドだ」


「なっ!?」×3


 いきなり突拍子もない話から始まり、アインを除く3人は驚きを隠せないでいた。


「ちょ、ちょっと待てよ!」


「何であの子が、そんな目にあっているのよ!」


「ケビン君は、大丈夫なのですか!?」


 当然、ケビンの兄姉やターニャは落ち着いていられるわけもなく、アインに食ってかかった。


「だから、落ち着いて聞けと言ったよね? 俺だって聞かされた時には、驚いたんだから」


「わ、わりぃ……つい、反応しちまった。兄さんが落ち着いてるってことは、もう問題は解決したってことだろ?」


「その通りだよ。ケビン討伐の話は現地の使用人が伝書鳥を使って、それを受けたカレンから、母さんの耳にも入ったからね」


「そりゃそうか」


「それで、母さんが直接交易都市に乗り込んで、ギルドマスターと受付嬢を処刑寸前まで甚振って、闇ギルドの方は使用人が壊滅させた」


「お母様が動いたのね。当然といえば当然だけど……」


「ちょっと待ってくれ。何で受付嬢が入ってんだ?」


「それは、簡単に説明すると、ことの発端が受付嬢だからだよ。ケビンの強さをギルドカードの討伐履歴で目の当たりにして化け物呼ばわりしたら、一緒にいたパーティーメンバーがその発言に逆上して言い返したんだが、ケビンが事態の収拾のためギルドを立ち去ろうとした時に、ギルドマスターが呼び止めて、ケビンと一悶着があったみたいだ。2人とも裏で悪いことを散々していて、元々繋がりがあったみたいだ」


「あの子を化け物呼ばわりするなんて、許せないわ!」


「よく母さんは殺さずに生かしておいたな。絶対殺すと思うんだけど」


「そのことについて朗報がある。処刑するつもりでやってた母さんを止めたのは、ケビンだ。母さんの姿を見たら、ケビンの記憶が一部戻ったらしい。それで、ギルドマスターと受付嬢は殺されずに生かされたわけだ」


「ケビンの記憶が戻ったのか!?」


「それでも、ギルドマスターたちは処刑されずに、今ものうのうと生きてるんでしょ?」


 シーラは、結果的にケビンの記憶が戻ったとしても、ギルドマスターたちが生きていること自体許せなかったのだ。


「まぁ、死んだ方がマシだっただろうね。ケビンが母さんを止めて、そいつ等を犯罪奴隷に落とした。最後の最後に母さんの目の前で、ケビンを化け物呼ばわりしたから2人とも片腕がなくなっているけどね。私財も没収され、慰謝料としてケビンに渡されたそうだよ」


「こう言っちゃあなんだが、ケビンってお金持ちになったんじゃないか?」


「ケビンは既に、その前からお金持ちだったみたいだよ。冒険者として活動してた時に散財しないから、ものすごい額の貯金が貯まったみたいだ。交易都市に着いてすぐの頃、ドワーフ職人に自分の武器の作製を依頼すると、仲間の内2人分の装備品もその時に依頼して、代金は全てケビンが支払ったらしい」


「マジか……」


「更に今はもう、母さんと同じAランク冒険者になってる」


「ケビン君、凄い……」


「さすが私の自慢の弟ね!」


 ケビンの成長ぶりにそれぞれが驚きを感じてしまい、ギルドマスターの話の時のような、剣呑な雰囲気はなくなっていた。


「その後、母さんが予想通りに駄々を捏ねて、ケビンと冒険するって言い出したから、マイケルがケビンに頼んで母さんと一緒に自宅に帰って来たみたいだ」


「それならケビンは今、自宅にいるってことか?」


「そうだね。あと、冒険者仲間が2人、一緒に着いてきているみたいだよ。さっき言った装備を買ってあげた2人だね。タミアからずっと行動をともにしている、パーティーメンバーの一員だったみたい」


「ケビンがお世話になった人なら、挨拶をしないといけないわ。どんな方なの?」


「ケビンと同じタイミングでAランク冒険者になって、ケビンが自宅に戻る時に、元のパーティーを抜けてケビンとパーティーを組んだようだ。2人とも年上の女性だよ」


「「なっ!?」」


 ケビンとともにいるのが年上の女性と聞いて、シーラとターニャは驚きを隠せなかった。てっきり男の冒険者だろうと、勝手に想像していたからだ。


「ほぉ、ケビンも隅におけねぇな。年上の女性冒険者たちにドワーフが作った装備品をプレゼントか。こりゃ、惚れられても仕方ねぇような行動だな」


「ちょ、兄様! まだ決まったわけではないのよ! もしかしたら、物凄く年上のベテラン冒険者かも知れないじゃない!」


「そ、そうですよ!」


 カインの何気ない一言に、シーラとターニャは焦って反論した。


「ははっ、そんなシーラたちに、もうひとつ重要な情報を教えてあげるよ」


「な、何なの?」


「その2人は、ケビンの花嫁候補みたいだよ」


「「ッ!!」」


 アインのトドメの言葉により、シーラとターニャは絶句した。


「まさか本当に、隅に置けないことをしてるとは……ケビンは今年で9歳だろ? 相手は何歳なんだ?」


「確か……マイケルの話では、エルフの人が8歳年上だから今年で17歳だね、もう1人は人間の魔術師で8歳年上だから同じく17歳だ。あと、うちの使用人たちも、何人か花嫁候補になるみたいだよ。使用人に関しては、母さんが許可を出したらしい。母さんをあてにしないで、自分たちで頑張るのなら認めるってさ」


「ケビンはエルフを嫁にするのか!? エルフって身持ちが固いことで有名なのに、よく子供のケビンが落とせたな。更にはうちの使用人たちもかよ」


「ケビンから何かしたわけじゃないらしい。全員ケビンのことが好きになって、アプローチした結果だってさ。まぁ、ケビンは優しいからね、そこにコロッと惚れてしまうのだろうね」


「ケビンって、無自覚の嫁製造機だな。しかも、全員年上だろ? 年上キラーの嫁製造機とか、行く先々で増えていきそうだな」


「それに関しては、母さんも楽しそうにしているみたいだよ。何人のお嫁さんが来るのかって」


「まぁ、聞いた話レベルのケビンの資産からすれば余裕で養えるんだろうから、心配なんてしてないんだろうな」


「結果的に、僕らの中では1番に自立した形になるね。先を越されてしまって、兄としての威厳がないよ」


 アインとカインが、ケビンの嫁候補について語り合ってる中、壮絶なダメージを負ったシーラとターニャは、モノクロな背景を背負っていた。


「……嫁候補……年上キラー……嫁製造機……」


「……ケビン君の嫁候補……お嫁さん……エルフ……勝てない……」


 そんな2人のことは気にもせず、兄たちは会話に花を咲かせる。


「そういえば、ケビンは学院は辞めるみたいだよ」


「やっぱりな。そもそも、あんなことがあったんだから、来る気も失せるだろ」


「それについては、まだ思い出せてないらしい。思い出したのは実家のことと母さんのことだけだ。俺たちのことは悲しいことに思い出していない。母さんは、自分のことを思い出して貰ってるから、俺たちのことについては、特に何もしてないみたいだ」


「母さんだけズルいな!? かと言って、会いに行った挙句に、『あなたは誰ですか?』なんて言われたらショックだしなぁ……」


「そこは、おいおいでいいんじゃないかな。それに、他国に行くみたいだから、暫くは会えないしね」


「国外に行くのか? 何しに?」


「魔導王国の魔導学院に、入学するみたいだよ」


「あぁ、ケビンは魔法にしか興味がなかったから、その方がケビンにとってプラスになるな」


「タイミングが合えば、親善試合で再会するかもね」


「そういえば、高等部からはそれがあったな」


 アインたちが話している中、シーラとターニャはケビンが学院を去って国外へ行くことを聞いて、さらにどん底へと突き落とされるのであった。


「そんな……折角戻ってきたのに、国外に行くなんて……」


「ケビン君……」


「まぁ、今のところはそんな感じかな。今年は試験を受けるまでの間は、ダンジョンに潜るみたいだよ」


「ダンジョンか……しっかりと冒険者やってるな、羨ましいぜ」


「僕たちも、しっかりと頑張らないとね」


 アインが締めくくると、ケビンに関する報告会は終わりを告げた。兄2人に対して女性2人は、告げられた内容が驚きの連続で、未だ整理できずにいる。


「ケビンに逢いたい……」


「わたしも逢いたい……」


 2人の想いは、人知れず虚空の彼方へと消えていくのだった。

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