第147話 新装備のお披露目会

 奇跡的な会話を成立させていた4人を、ドワンの元から帰ってきたケンが目撃した。


(あれ? 何を騒いでいるんだろう? というか、ガルフさんたち、まだ飲んでたんだ。ガルフさんが酒好きなのは、相変わらずなんだなぁ)


 ティナたちは、背中を向けている状態なので、ケンのことはまだ気づいてすらいない。


 ケンは4人のところへ向かうと声をかけた。


「ここで騒いで、何をしてるんですか?」


「「――!」」


 聞きなれたその声に、ティナとニーナは振り返り驚きを示した。


「……う……そ……」


「ケン……くん……」


 2人は両手で口を覆い、涙をポロポロとこぼすと、勢いよくケンに抱きついた。


「ケン君、ごめんね! 守ってあげられなくてごめんね!」


「私、お姉ちゃんなのに、守れなくてごめんね!」


 2人のいきなりの懺悔に、ケンはたじろぎながらも疑問を口にした。


「えぇーと、ガルフさん、これは一体どういう状況なんでしょうか?」


「ティナたちは、ケンと一緒に武器の受け取りに、行きたかったんだと」


「そうそう。いきなり来ては、怒鳴られてしまったよ。どうして止めなかったのかって」


 ガルフたちは、自分たちの考えを言ったつもりなのだが、元々噛み合っていなかった内容の、奇跡的な会話を成立させていたので、回答としては見当違いのものだった。


「それにしては、守れなかったと繋がりのない言葉を、口にしているのですが」


 ここでもまた、ガルフの噛み合わない奇跡的な発言が炸裂する。


「一緒に行く約束でもしてたんだろ? 約束を守れなくて謝ってんじゃないのか?」


「約束なんてしてないんですけど……」


「そうなのか?」


「だったら何で、泣いて謝ってるんだろうね?」


「さぁ?」


「「「……」」」


 男3人は、意味がわからなくなり沈黙した。そんな中、ケンが2人に聞いてみることにした。


「ティナさんたちは、何で泣いているんですか?」


「……ッ……ズビッ……ケン君を守ってあげられなくて……それで愛想つかされて……バッグもないし……旅に置いていかれたと思ったら悲しくて……いてもたってもいられなくて……」


「……グスッ……ガルフたちに聞いても、引き止めなかったって……その必要もなかったって……悲しくなって……そしたらケン君が戻ってきて……お姉ちゃん嬉しくて……」


「それって昨日からの話ですよね? ガルフさんのさっき言ってた内容と食い違っているような……」


「「……」」


 ここにきてガルフとロイドは、ティナたちの先程してきた質問の意図がわかってしまい、図らずとも返答が奇跡的に噛み合ってしまっただけの、内容は、全く別のものを指していた話をしていたのだと理解した。


「ま、まぁ、それよりもニーナって普通に喋れたんだな」


「そ、そうだね、初めて普通に喋っているのを見たよ」


 ガルフとロイドは話を逸らして、この場は誤魔化すことに専念した。


「はぁ……とりあえず、2人を連れて部屋に戻りますね」


「そうだな。そうした方がいいな」


「そうだね。休ませてあげた方が、いいだろうね」


 部屋へ戻ると2人は未だすすり泣いていて、ベッドサイドに座るケンから離れようとはしなかった。


「それで、誤解は解けたと言うことでよろしいですか?」


「「……うん」」


「昨日のこともありますし、俺はこの街を離れることにしました。ガルフさんたちには、パーティーを抜けることも伝えてありますので」


 その言葉を聞いた2人は、体をビクッと震わせた。それは抱きつかれているケンにも感じ取れたので、また誤解しないように続きを話すことにした。


「2人には、当然ついてきてもらいます」


「……ほんと?」


「……嘘じゃない?」


「2人を置いていったら、何かあった時に守れなくなりますからね」


「今度こそ私が守るわ」


「お姉ちゃんも頑張る」


「程々でいいですよ。2人を守るのは俺の役目ですから」


「もう出発するの?」


「その前に渡すものがあります。先ずはギルドカードです。昨日、回収したあとは、あんな状態だったし、渡しそびれていましたので」


 ケンは、収納から2人のギルドカードを出すと、それぞれに渡した。


「今思ったんだけど、あの時どうやって回収したの?」


「私も気になる」


「対象を指定して、収納の中になおしたんですよ」


「そんな事が出来るの?」


「ティナさんも知っての通り、俺のは、アイテムボックスじゃなくて【無限収納】ですから」


「初めて聞いた。お姉ちゃん知らなかった」


「それは、アイテムボックスの方が、説明しやすかったからで……」


「隠し事された。ティナは知ってたのに」


「いや……それは……」


「お姉ちゃん、悲しい……」


「だから……」


 ティナには教えてて、自分には知らされていなかったことに、ニーナは地味にケンを責めると、ケンはタジタジとなった。


「まぁ、いいじゃない。ケン君だって、悪気があったわけじゃないんだし」


「そ、そうですよ。悪気はなかったですから。次、次いきましょう、次!」


「しょうがない。あとでキス1回」


「ずるーい! それなら私もして欲しい」


「ティナは隠し事されてない。よって、なし!」


 その言葉にケンは、未だ伝えていない隠し事が山ほどあるのを思い出し、その度にキスをせがまれるのかと戦慄したが、そう簡単に言えない内容のものがあるのも事実なので、問題を先送りすることにした。


「さて次は、さっきドワンさんの所へ行って、装備品を回収してきましたので2人に渡しておきます。まずはティナさんから、弓と軽鎧です」


 ケンは収納から取り出したものを床に並べ始める。


 弓は弓束の上下に魔石が組み込まれており、上が風属性で下が光属性の魔石だった。


 長さは80センチ程で、ティナでも難なく使える事ができるように配慮されている。


 弦には伸縮性と頑丈性を兼ね備えた、スタラチュラの蜘蛛糸を使ってあり、火耐性がついているので燃やすことはないが、熱にも強くなっている。


 軽鎧は胸当てと篭手とレギンスの3点セットだ。それぞれに装飾を施してあり、華美にならないよう配慮してあるが、それでも見事な装飾であることには違いない。


 ティナの弓術士としての身軽さを追求した結果、このくらいの装備数が妥当だろうとの事だった。


「綺麗ね……流石は職人と言ったところね。量産品とは比べ物にならないわ」


「そりゃそうですよ。ティナさんに合わせて作った一品物なんですから。世界に1つだけですよ。それとは別に、以前と違って素材はミスリル魔鋼になりますので、武器もですが防具の革と比べたら、重さは感じると思います」


「全然構わないわ、ありがとう。ケン君に贈ってもらえたかと思うと、喜びも一入よ。これは私からのお礼ね」


 そう言うと、ティナはケンにキスをした。


「次はニーナさんの装備ですね。ニーナさんは杖とローブになります」


 ケンは、収納から取り出したものを床に並べる。


 杖は、先端部の魔石とは別に、その下部にある3種類の魔石が目を引く。


 ニーナの属性に合わせた、それぞれの魔石が埋め込んであった。持ち手の部分は握りやすいように、華美な装飾は控えて運用性を重視されている。


 ローブの素材は、ベースとして魔法糸で織られているが、リクエスト通りにスタラチュラの蜘蛛糸も織り込まれ、火耐性がぐんと増している。


「ケン君、この1番上の魔石は何?」


「それは、魔法の威力を上げる効果があるらしいですよ」


「威力が上がるの?」


「そうみたいです。他の魔石の補助みたいな役割だって、言ってましたから」


「ありがとう、大事にするね。私からのお礼よ」


 そう言うとニーナはケンにキスをした。装備品をそれぞれ受け取ったら、ティナが気になることを質問した。


「ねぇ、ケン君の武器は、どんな感じなの?」


「俺のはこれですよ」


 ケンは、収納からふた振りの刀を取り出して、ティナに見せた。


「見てもいい?」


「どうぞ。怪我しないでくださいよ」


 ティナは、刀を受け取ると黒焔を鞘から引き抜いて、ニーナと2人で眺めた。


「荒々しさを感じるけど、綺麗ね」


「よく斬れそう」


 黒焔を戻すと、今度は白寂を鞘から引き抜き、同じように眺める。


「こっちは大人しい感じね。綺麗なのは変わらないけど」


「こっちの方が好き」


 2人で眺めて満足がいったのか、鞘に戻すとケンに返した。刀を返してもらったケンは収納になおすと、これからの予定を2人に伝える。


「これからの予定ですが、近日中にこの街を出ます」


「すぐに旅立たないの?」


「そう思ってたんですが、向こうの動きがないので、しっかり準備してから出ることにしました」


「向こうの動きって……様子でも見に行ったの?」


「いえ、気配探知で監視しているだけです」


「そういえば使えたわね。でも誰の気配かわかるの? 住民とかで気配もいっぱいでしょ?」


「頭が痛くなりそう」


 ニーナは、この街にいる人たちの気配を探知した場合、頭で処理するとどうなるかを、想像してしまったようであった。


「それなら大丈夫ですよ。気配を記憶していますので、関係のない人たちは、注視しないようにしています」


 ケンはただ単に【マップ】を使い、ギルドマスターと受付嬢をマーキングして、あとは敵対心を抱いている人たちだけを、表示するようにしているのだが、そのことは秘密にしてあるので、ありえそうな事実をでっち上げて誤魔化した。


「気配探知も、レベルを上げるとそこまでできるのね。私も頑張って上げようかしら?」


「効果範囲は上がりますが、気配を覚えるのは頭の方ですよ?」


 何気なしに言ったケンの言葉に、ティナが反論する。


「ケン君は、私をおバカだと言いたいわけ?」


「プフッ」


 一連の流れを見ていたニーナは、思わず笑いをこぼしてしまう。


「ニーナまでぇぇぇ……私は、こう見えても頭は良いのよ!」


「こう見えてる時点で負け組……プッ」


「くぅぅぅぅ……覚えてなさいよ! 仕返ししてやるんだから!」


「忘れるまでは、覚えておいてあげる」


 2人のやり取りが一段落したところで、ケンは次の話に移った。


「まぁ、そういうことで、旅の準備は可能なのですが、次の目的地はどこにしましょうか?」


「西の街にしましょ。王都を中心に見て東、南と来たから、悩まなくて丁度いいんじゃない?」


「賛成」


「それなら西の街で決定ですね。大きな街とかあるんですか?」


「ウシュウキュの街が有名よ」


「なんか噛みそうな名前ですね。発音しづらいです」


「慣れれば簡単」


「それじゃあ、明日から旅の準備を始めましょう」


 これからの予定が決まったことで、ケンたちはのんびりとその日を過ごすのであった。

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