第139話 隠れた名店

 朝から目を覚ましたケンは、一旦身支度をしたあと、ニーナとともに朝食を食べてから、再び部屋へと戻って再度ベッドに寝転がった。


「なんか身支度までしたのに、変な感じだね」


「仕方ないよ。ティナが起きるまでは、添い寝しないと」


 ティナとの添い寝の約束があるため、すっかり目の覚めてしまった2人は、スヤスヤと眠っているティナが目覚めるまでは、向かい合って雑談をしながら時間を潰すことにした。


「今日は何をしようか?」


「ケン君の装備を見直すのはどうかな? 交易都市だから、それなりに良い店は揃ってると思うんだけど」


「それを言うなら、ニーナさんの装備も見直さないとね」


「そうなると、ティナもしないといけないから全員分だね」


「良い武器屋があるといいんだけどなぁ」


「きっと気に入るのが見つかるよ」


「探すにしてもお昼からだろうね」


「ティナが起きてから、早めの昼食をとったあとになるかな?」


 早々にティナが起きないことを知っているので、2人は午後から行動する算段で予定を立てていた。


「ティナさんが起きるまでは暇だなぁ」


「ケン君は、お姉ちゃんとお喋りしててもつまらない?」


 ケンが何気なくボソッと口にした言葉に対して、悲しげにニーナが言うと、ケンは慌てて否定しだした。


「そんなことないよ! お姉ちゃんといる時間は最高だよ!」


「本当に?」


「本当だって! ただ今まで狩りとかしてたから、いきなり余った時間を持つと、何をしていいか、わからなくなっただけだから」


「それなら良かった」


 ホッと安堵するニーナとともに、ケンも安堵するのであった。


「じゃあ、お姉ちゃんと二度寝する?」


「そうだね。ティナさんもどうせ起きないだろうし」


 ニーナがケンを抱き寄せると、ケンの頭は、その大きな膨らみに引き寄せられるのだった。


 自然とケンの手は、その柔らかい膨らみを掴むのだが、ニーナからそのことについて咎められることはない。


「ケン君、お姉ちゃんのおっぱいを触っててもいいけど、おイタしちゃダメだからね?」


「わかってるよ」


「それならこのまま寝ようね」


 ケンは、柔らかい膨らみに包み込まれながら、静かに寝息を立て出した。ケンが寝たのを確認してから、ニーナも眠りにつくのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 数時間後、ふと目を覚ましたティナは辺りを見回す。すると、隣で約束通りケンが寝ているのを確認して喜ぶのだが、ニーナと抱き合って寝ているので、疎外感を感じてしまった。


(折角、ケン君が添い寝してくれてるのに、ニーナと抱き合ってたら意味ないじゃない)


 気持ちよさそうに寝ている2人を見て、起こすかどうか迷ったのだが、このまま寝てしまえと、再度寝ることに決めた。


(まだお昼まで時間あるし、私もケン君に抱きついて寝ちゃお)


 ティナはケンの方へと近寄っていき、たわわな膨らみをケンの後頭部に当てると、ニーナごと抱きつき二度寝を始めるのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 お昼頃、二度寝から目を覚ましたケンは、後ろから感じる柔らかさを不思議に思い、寝返りをすると目の前にティナのたわわな膨らみがあった。


(ティナさん、一度目覚めたな……)


 ティナが一度目覚めたにも関わらず、二度寝したことを見抜いたケンだったが、自分も二度寝してしまっているので、咎めることはできないと思い、ニーナをまず起こすことにした。


 ケンが再び寝返りをうち、ニーナに声をかける。


「ニーナさん、起きて」


「ぅ……ん……ケン君?」


「こんにちは。お昼になったよ」


「あれ? お昼になっちゃったの?」


「ティナさんが一度目覚めて、俺たちを起こさずに、そのまま二度寝を始めたから、お昼になっちゃった」


「そっか。それならティナを起こそうか?」


「そうだね」


 それからケンは、ティナの方を向き声をかける。


「ティナさん、起きてください」


「……」


 次は、体を揺さぶりながら強めに声をかけた。


「ティナさんっ!」


「……ん」


「起きないと、置いていきますよ」


「……やだぁ……」


「ティナ、早く起きる」


 それから10分くらい、ティナを起こすという作業を行い、ようやくティナが体を起こした。


「ティナさん、さすがに寝すぎですよ。よくそんなに寝れますね」


「寝る子は育つのよ」


「子供って歳でもないでしょうに」


「育ったのは胸だけ」


「ニーナだって、同じようなもんじゃない!」


「私はちゃんと朝起きてる。ティナみたいに寝なくても育ってる」


「とりあえず、ご飯を食べて出掛けますよ」


「どこに?」


「武器屋です。3人分の装備を新調する予定です」


 それからお昼ご飯を食べたケンたちは、武器屋を巡るため街へと繰り出したのだった。


 時間を掛けて何件か回ってみたのだが、中々良い武器屋には巡り会えず、ベンチで休憩することになった。


「中々良い店がないですねぇ……」


「そうねぇ。どうせなら、そこでしか買えない物が欲しいわよね」


「量産品ばかり」


「オーダーメイドは高いですからねぇ。基本は、量産品で数を売らないと利益が上がらないんですよ」


「いっそのこと、オーダーメイドにする? どうせしばらくは逗留するんだし」


「それもありですかねぇ……」


 ケンたちは、何時間か掛けて歩き回ったのに、お目当ての品に巡り会えなかったことで、肉体疲労よりも精神疲労の方が高かった。


「オーダーするとしたら、どの店がいいですか?」


「チェーン店よりも代々続いているような、鍛冶兼武具屋の方がいいわね。続いている以上腕前は確かだし」


「さっき見てきた、武器屋は違うのですか?」


「あれは武器の流通がメインだから、鍛冶工房から卸してもらったりしてるのよ。まぁ、大手とかになったら、お抱えの鍛冶師とかはいるでしょうけど」


「老舗鍛冶師が1番」


「それなら、鍛冶屋を巡ることにしますか?」


「そうしましょ」


 ケンたちは、休憩をやめて武器屋ではなく、鍛冶師の店を探すことにしたが、中々見つからず住民に尋ねてみると、偏屈なドワーフがやっている小さい鍛冶屋があるそうなので、そこへ向かうことにした。


「ドワーフかぁ……」


「ドワーフがどうかしたんですか?」


「ドワーフ職人が人知れずやる店って言うのは、腕は確かなんだけど、相手を気に入らないと、一切作って貰えないのよ」


「職人の中の職人」


「気難しそうですね」


「私たちは、あまり口を挟まないようにするから、対応はケン君に任せるわ。ニーナの喋り方なんて論外だろうし」


 軽くニーナをディスってくるティナだったが、言葉足らずなのを自覚しているニーナは、何も反論ができなかった。


「とにかく、気に入られようとするようなことは、しない方が良さそうですね」


「どうして? 気に入られなかったら、作って貰えないのよ?」


「そういう人は、他人からの媚びに聡いですから、普段通りが1番効果的だったりするんですよ」


「ふぅーん。よくわからないものね」


「ティナは勉強不足」


 先程ディスられた仕返しか、ニーナがティナに言い返す。


「ニーナだって、知らなかったなら同じよ」


「ぐぅ……」


 ケンたちは住民の言う通りに、メインストリートから外れて裏通りに入ると、目立たないような形で存在する、1軒の鍛冶屋を見つけることができた。


 地元民しか知らないような、隠れた名店の雰囲気を醸し出しており、静かに扉を開くと、店の中へと入って行く。


 中には色々な武器や包丁が陳列されており、毎日手入れをしているのか、埃を被ったようなものが一切見当たらなかった。


「すみませーん。誰かいませんかぁ?」


 店内に人が見当たらなかったので、ケンが声を出して呼びかけると、奥からずんぐりとした体型の男が出てきて返事をした。


「何か用か?」


 ケンは、この世界に来て初めてドワーフを見たが、前世と似たような風貌だったので、特にこれといって気にせず、話をすることにしたのだった。

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