第81話 闘技大会に向けて

 またも秋が差しかかる頃、闘技大会の選抜メンバー決めが行われた。


「さあ、今年もやってきました闘技大会! 昨年はみんなが頑張ったおかげで1クラス昇格して、先生嬉しかったです。みなさんは経験者なので大会の説明は省いて、さっさと代表選のメンバーを決めたいと思います」


 生徒たちは去年もやった事なので、質問が飛ぶような事はなかった。しかし、去年とは違う事が起きていた。


「では、代表選に立候補する人はいるかな?」


 数名の生徒が挙手をする。


「やはり去年と違って学院に慣れた分、各個人自信がついてやる気が全然違いますね。立候補者がいて先生嬉しいです。(チラッ)」


 ざっと見て、手を挙げた生徒は5名以上いた。これは、投票戦になるかな? それとも模擬戦で決めるのだろうか?


「まずは、サイモン君、マイク君、マリーさんの3名は、去年出場した生徒ですね。次に、タナトス君、ライラさん、キャロさん、ネーデさんの四名は初参加になりますね。(チラッ)」


「おい、カトレア。さっきから先生が立候補して欲しそうに、視線を向けているぞ」


「あれは多分、ケビン君の方を見ているんじゃないかな?」


「いやいや、カトレアの方だろ」


「いやいや、ケビン君の方だよ」


 と、押し問答を繰り返し、お互いに出場枠を押し付け合う。


「闘技大会だけでクラスアップ狙ってるんだろ? 立候補しておいた方が身のためだぞ。筆記試験で合格点取る自信があるなら別だが」


「ぐっ……痛いところをついてくるね」


「今年、ランクアップしなかったら、自力でEクラスに留まる点数を弾き出すかしないと、Fクラス落ちになるな。寧ろ、今のFクラスに負けて、晴れて降格という事もありえる。そっちの方が試験の事も考えなくて済むから、お前としてはいいのか? ま、兎に角頑張れよ」


「それが今まで同じ学び舎、寧ろ隣の席で過ごした友人に吐くセリフかな。助けてあげようとは、思わないの?」


「面倒くさいから、これっぽっちもな」


 ケビンはそう言って、親指と人差し指で見えるか見えないかの隙間を作ってみせる。


「じゃあ、立候補者は7名で、次は推薦に移りたいと思います」


 何だと……!? 立候補者の中から5名選べばいいだけだろ? 何故、推薦に移る必要があるんだ。


「おやおやぁ、風向きが変わってきたねぇ。これはワンチャンあるかも」


 このままでは確実にカトレアに推薦されてしまう。なんとか阻止しなくては。去年と同じではないか。


「ジュディさん、何故立候補者が5名以上揃っているのに、推薦を取る必要があるんですか?」


「それは、もしかしたら逸材がいるかもしれないでしょ? 本人はそう思ってなくても、周りの生徒が認めている人がいるかもしれないし」


「それで?」


「『それで?』?」


「本心は何ですか? あまり職権乱用するなら、学院長に報告せざるを得ないのですが? それで、よろしいですか?」


「そ、それは……困る」


「それなら、推薦を取る必要性はないですよね? さっさとその7名の中からメンバーを決めて下さい」


「……はい」


「ちょぉおっと、待ったぁぁ!」


「いや……誰だよ、お前」


 あまりのぶっ込み具合に、頭でもおかしくなったのかと、普通にツッコんでしまった。それと、引くわ!


「話は聞かせてもらったよ! 先生は明らかに強いケビン君を出場させたい、対してケビン君は何がなんでも出場したくない。なら、話は簡単! 多数決を取りましょう。それで出るか出ないかを決めるの」


「それに何の意味がある?」


「出るか出ないかを決めれるよ」


「俺に対するメリットがない。そんなものを受ける義務もない。そもそも、ジュディさんは了解しただろ。それを引っ掻き回すな」


「見た感じ、やむを得ず了解した感じだったから」


「俺に対するメリットを提示できなければ、この話はなしだ」


 何が悲しくて、あんな面倒くさいものに出なきゃいけないんだ。


「メリット……メリット……はっ! こんな時には頼っていいって言われてたんだった!」


「誰がそんな事を言ったんだ? 人見知りのお前に言うなんて、物好きもいたもんだな」


「前にケビン君のサボり場所で、予想のつく場所はないかって聞かれた時だよ。教えたら本当にいたらしくて、その時のお礼に何か困った事があったら相談してって言われたんだ」


 待て、待て待て待て……


「おい、俺の知る中で居場所を知りたがる人なんて、一人しか思いつかないんだが……」


「多分その人で合ってるよ。相手はケビン君のお姉さんだよ」


「なん……だと……」


「という事で、……すぅ……シーラせんぱーい!!」


 大音声で叫んだ事にクラスメイト達も目が点となった。日頃からそういう一面は全く見せない生徒が、いきなり叫んだのだ。誰でも驚くだろう。


「くそっ! 耳がキーンってしてんじゃねえか。馬鹿声が! そもそも、中等部の校舎まで聞こえるわけがねえだろ! 無駄に叫びやがって!」


 隣にいたケビンがカトレアの大音声の一番の被害者となっていた。さらに周りにいた生徒も同じように被害を受けているが。

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