第71話 ハイテンション?

 ひとしきり笑ったあと、漸くケビンが落ち着きを取り戻したら、コケていた下っ端連中も状況を立て直していた。


「それで聞きたいんだけど、最近人攫いしているのはあんたらか?」


「お前に教える義理はねぇな。さっきはガキと思って油断したが、今度はそうはいかねぇぞ。お前らも用心してかかれ」


 先程とは打って変わって、ニヤニヤした顔つきではなく、真面目な顔つきになっていた。人攫いが真面目なのも変ではあるが。


「武器を使っても構わねぇ、多少傷が残っても使えれば問題ない。死なない程度に痛めつけてやれ」


 下っ端連中が武器を構え始める。


「斬ってもいいのは、斬られる覚悟のある奴だけだ」


『今日はテンション高いですね。そんなにストレスが溜まってたんですか?』


『痛ぶり尽くすくらいにはな。徹夜を3日続けたぐらいのテンションだ。ネタに走りまくるぞ』


『よしなに』


「さぁ来い! 俺を楽しませろよ」


 禿頭の男が斬り掛かってくるが、剣筋から見るにそこまでスキルレベルは高くなさそうだ。ここは難なく躱しておく。


「先ずはお前からか……」


「俺からじゃなくて、俺で最後だ。丸腰のガキが、武器を持った俺たちに敵うわけないだろ」


「愚かなる者には、沈黙にまさるものなし」


『ちょっと知的でカッコイイですね』


『だろ? 良い感じに真理を表現出来ているよな』


「くらえっ! 糞ガキが!」


 上段から振り下ろされた剣を躱し、軽くボディブローを当てる。


「ぐふぉっ!」


「おじさん、俺が糞ガキならあんたは糞ジジイだね。あーヤダヤダ、歳は取りたくないねぇ」


「舐めやがって……」


「事実、舐めてるんだからしょうがないだろ? 舐められたくないならもっと鍛えなよ。はっきり言って弱すぎるよ」


『マスター、離れる人影が一人』


『大方、仲間を増やすんだろ? 願ったり叶ったりじゃないか』


「おいっ! お前ぇら纏めてかかれ。1人で相手にするな」


「「「へいっ!」」」


 3人がかりで剣を振るってきたが、紙一重で躱していく。


『マスター、もっと余裕もって躱したらどうですか? 傷でも残したらサラ様が暴れますよ?』


『当たらなければどうということはない!』


 それからも続く敵からの攻撃を、のらりくらりと躱していきながら、ケビンは増援が来るのを待つのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



――街外れの倉庫


(バタンッ!)


 勢いよく開かれたドアに、皆が注目する。


「ぜぇぜぇ……おい、みんな応援に来てくれ! やられそうなんだ!」


「てめぇ、まさか警邏に見つかって、しくじったんじゃねぇだろうな?」


 リーダー格の男が、凄みをきかせながら問いただす。


「ち、違います! ガキが思いの外、腕のたつ奴だったみたいで、素手じゃどうしようもないんです。商品に傷をつけるわけにもいかないので、囲い込む人数を増やそうと思って」


「そういう事か……偶にいやがるからな、訓練大好きなガキが。ちっ、しょうがねぇ、お前ら全員行ってこい。必ずガキを連れてこいよ」


「わかりやした」


 ぞろぞろとガラの悪い大人たちが倉庫を後にした。


「大人が素手で敵わないガキか……いい値で買い取ってくれそうだな」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



――路地裏


『マスター、10人ほど此方に来る気配があります』


『漸くご到着か』


「ぜぇぜぇ……」


「もうお終いか? もうすぐお仲間が到着するから、それまではねばってくれよ。暇になるだろ?」


 そこには額から汗を流し、肩で息をしている下っ端共がいた。いくら斬り掛かろうとも、避けられて無駄に体力ばかり奪われていたのだ。


「お前、仲間を呼びに行ったのに気づいていたのか?」


「あたり前田のクラッカー!」


『……それは流石に古いですよ……死語判定受けてるんじゃないですか?』


『……』


「相変わらず訳の分からないことをほざきやがる」


「わざと見逃してやったんだよ。ありがたく思え。お前らじゃ今までの溜まったストレスが発散できないからな。主に弱すぎて」


「でかい口が叩けるのも今のうちだ。仲間が来ればお前は手も足も出ないぞ。俺よりも強い奴はまだまだいるからな」


「今から来る10人の中にそいつはいるのか?」


「なっ!」


 自称冒険者のやつが驚きに声を上げる。倉庫内で待機していた仲間たちは、リーダーを除けば10人だったからだ。


 恐らく全員連れてくると予想はしていたが、組織の事を何も知らない子供に人数を言い当てられて、動揺を隠せないでいた。


「何故、人数を知っている?」


「そんなもん気配探知で分かるだろうが。お前、馬鹿か?」


「くっ!」


(不味いぞ。気配探知が使えるのか!? それなら、今までつけていた事もバレてるって事だ……もしかして、ハメられた!?)


「まさかお前、今頃になって自分達が、ハメられたことに気付いたのか? 頭悪すぎだろ?」


「俺達をハメるって事は……誰に雇われた? 学院の制服を着てるってことは学院か?」


「はぁ? 雇われてるわけないだろ。正真正銘、現役の学院生だよ」


「なら学院の仲間を救う為に、正義のヒーロー気取りか?」


「それも違う。攫われた奴らなんてどうでもいい」


「では何がお前をそこまで駆り立てる?」


「お前が執拗くつけてきたから、ストレス溜まってんだよ。早い話が憂さ晴らし」


「なんだとっ!?」


「最初は雑魚だから放っておいたんだけどな、毎日毎日ストーカーされるこっちの身にもなれってんだよ。ストレスがうなぎ登りだぞ」


「そんな事で……」


「お前にとってはそんな事でも、こっちにとっては、そんな事じゃ終わらせられないんだよ。と、来たな……」


 自称冒険者と会話をしている間に、仲間の増援が到着したようだった。ちょうど俺を挟み込むような位置取りで、後ろにぞろぞろと現れだした。

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