第72話 ストレス発散?
駆けつけてきた中でも、一際ガタイのいい男が仲間に声を掛ける。
「おい、こいつが例のガキか?」
「こいつで間違いありません。気配探知を使えて、尾行していた事を知っていたようです」
今までデカい態度で襲ってきていた自称冒険者が答えた。
「ほう、気配探知が使えるのか。中々にやるな小僧」
「お前に褒められても、嬉しくないぞ。どうせなら美女を連れてこいよ」
「口も使えるようだな。出る杭は打たれるぞ? 早死したくなければ大人しく着いてくるんだな」
今までの下っ端とは違い、軽口にも乗らず堂々とした佇まいだった。
「お前がこの中じゃ、1番強そうだな」
「相手の力量が測れるか。鍛えれば強くなりそうだが、俺らに目をつけられたのが運の尽きだな」
ぶっちゃけ鑑定でステータス見たから、言ったんだけどね。別に測ったつもりはないよ?
「その言葉はそのまま返すよ。俺に手を出したのがお前らの運の尽きだ。あと、でかい口叩くなら相手の力量くらいわかれよ」
「くっくっくっ。面白いガキだ。あくまで大人しく着いてくる気はないんだな?」
「当たり前だろ。何で俺より弱い奴に従わなきゃいけない」
「なら仕方がない。お前ら遊んでやれ」
その言葉が聞こえるや否や、周りにいたゴロツキ共が一斉に襲いかかってきた。というか、武器ぐらい持てよ。
「学習能力のない奴らだな」
攻撃を躱しつつグーパンを手加減しながら撃ち込んでいく。一気に終わらせたら、折角のストレス発散が終わってしまうからだ。
「お前、何者だ?」
余りの予想外な展開に、ガタイのいい男が聞いてくる。
「知りたきゃ、俺を倒すんだな」
「それしかないか……お前ら武器を使って構わん。多少の傷が残るのは仕方がない、頭には俺から報告する」
男がそう言い放つと、周りにいた奴らは武器を構え始める。リーダー格の男を除くと14人か……
「今更、後悔しても遅いからな、血の気の多い部下共だから、かなり痛い思いをするぞ」
(さて、どうしたものか……殺っちゃっていいかな?)
『戦争!! 戦争!! 戦争!!』
「よろしい ならば戦争だ」
瞬時に1番近くにいた敵の傍に移動すると、手加減なしの腹パンをキメる。
「ぐふぉっ!」
男は血反吐を吐きながら倒れ込むが、獲物は使わせてもらうために、一時的にいただいておく。
「まず、1人目」
何が起きたのかわからない奴らは、呆然と立ち尽くし隙だらけになった。それから周りにいる5人ほどを一気に斬り伏せる。
「これで、6人目だ。お前を除くと残り8人だな」
手下共が漸く我に返り驚愕するが、何をどうしたらいいのかがわからず、只々恐れるだけであった。
「お前ら、相手は一人だ! 怯むんじゃねえ!」
リーダー格の男が檄を飛ばすが、誰も動けないでいた。
「いいのか? 隙だらけだぞ?」
震えながら武器を持っていた残りの奴らも片付け、剣についていた血を払う。辺りには先程まで意気揚々と、武器を構えていた奴らで埋め尽くされていた。
「さぁ、残るのはお前だけだ。たっぷりと楽しませてくれよ」
「た、頼む、見逃してくれ……俺は命令されただけなんだ」
「さっきまでの態度とはえらい違いだな。上から目線の物言いはどうした? 出る杭は打たれるのだろ? さぁ、打ちにこいよ」
「さっきのは間違いだ。あんたがここまで強いなんて知らなかったんだ」
「知らなかったじゃ済まされない世界で生きてきたんだろ? 今更、言い逃れするなよ。見苦しいぞ」
こんなに隙を晒しているのに、さっきから全然襲ってこようともしない。興ざめだな……
「やる気がないならもういい」
男はその言葉に見逃して貰えると思い、安堵の表情を浮かべたのだが、次の瞬間、視界に映ったのは自分の体だった。
そこで男の意識はなくなり、永遠に目を覚ますことがなくなった。
「さて、帰るとするか」
ケビンは、終わったとばかりに奪った剣を投げ捨てて、剣呑な雰囲気を和らげて、一言こぼすのであった。
『お疲れ様です。明日からはストーカーに、悩まされる事もなくなりそうですね』
『そうだな』
ストレス発散が不完全燃焼となり、それによるストレスをさらに抱え込む事になるケビンだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――街外れの倉庫
手下が誰もいない倉庫内では、一人で酒を飲む男の姿があった。
(ガチャ)
扉を開ける音に、漸く部下たちが帰ってきたのかと思って視線を向けると、そこには一人の男が立っていた。
「てめえか……何の用だ? 今はガキを攫うのに動いている最中だぞ」
「その事で1つ、君がまだ知らないだろう情報を、教えようと思ってね」
「あぁ? 俺様が知らない情報だぁ?」
「どうする? 聞くかい?」
「さっさと言いやがれ! その為に来たんだろうが!」
「仕方ないね。その傲慢な態度は目に余るが、教えてあげるよ」
「ちっ!」
さっさと情報を寄越さない男に苛立ちを顕にするが、その男相手に苛立っても無駄な事が分かっているので、何とも言いようのない苛立ちになるのだった。
「君の部下たち、全員死んだよ」
「は?」
余りにも突拍子のない内容に、男は思わず間の抜けた顔で、聞き返してしまっていた。
「はははっ、君のその顔が見れただけでも、教えに来た甲斐があるよ」
「ふざけんな! さっきガキを攫いに行ったばかりだぞ。今頃、ガキを攫ってる最中だ」
「君は一体誰の恨みを買ったんだい? 今はスラム街の入口で死体が転がってるって、街中が騒ぎになってるよ」
「恨みなんざ買いすぎて見当もつかねえよ。それは、確かな情報なんだろうな?」
「当たり前だろ? 野次馬に紛れて見てきたんだから。確かに君の部下たちだったよ」
「仮にもBランク冒険者の混じった奴らだぞ。犯人は誰だ? 冒険者か?」
「それは、不明らしい。誰も怪しい人影を見なかったそうだ。人気のない路地裏での出来事だからね。犯人もよくあんな場所に誘い出せたもんだよ」
問題はそこじゃない……今後の計画に支障が出るってことだ。これ以上は攫ったガキを増やせない。計画の変更が余儀なくされた。
「まぁ、伝える事は伝えたし、私はもう帰ることにするよ。計画は、仕方ないけど変更するしかないだろうね」
「くそっ! あと少しで目標人数まで達したのに。犯人の奴は許さねぇ。計画の邪魔をしやがって!」
「犯人が誰かもわからない状況じゃ無理だろうね。それじゃあ、帰るとするよ。後日、また集まって計画を練り直すとしよう」
男は何事もなかったかの様に、入口から出て行く。残された方の男は計画を邪魔された挙句、変更せざるを得ない状況に、今まで以上に苛立ちを感じ、独り言ちるのであった。
「何処の誰だかは知らねぇが、俺様に喧嘩売った事を後悔させてやる」
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