捕まった俺は、神でも仏でも無いものに祈るのでした
「――それじゃあ、上行こっか?」
「う……うわあああああ!」
ドアの真横にピッタリくっついていた花ちゃんは、俺を目視すると不気味な笑顔を見つめてきた。
直ぐにドアを閉め直そうとするが、花ちゃんの手によって阻まれて閉められない。
そしてそのまま俺の首根っこを掴み、個室から外に引きずり出した。
「これからはずっと一緒だよ?」
「た、助けてくれ!」
「あはは、誰も来やしないって」
女子高生とは思えぬ腕力でずるずると俺を引きずる。
必死に抵抗するも、その腕力の前では赤子同然だった。
玄関から離れて行くにつれ、花ちゃんの言葉が突き刺さる。
誰も助けに来てくれない。
それはそうだ。
外から見ても、この家で起きてる出来事に気付ける者などいる訳が無い。
唯一俺の動向を知っているのは優曇華先輩位だろう。
しかしまさか俺が花ちゃんに襲われているなど想像出来るだろうか。
「静かにしてれば痛くしないから――ちょっと黙っててよ?」
「っ……」
ハイライトの消えた瞳で花ちゃんは俺に警告してきた。
その圧力に圧倒され、抵抗する力が無くなってしまった。
このまま俺は花ちゃんに道具として使われる。
死ぬまで永遠に。
そう思うと今度は涙が出てきた。
死にたく無い。
こんな死に方絶対に嫌だ。
けれど俺にはそれを止める力が無い。
「た……助けて」
目を瞑り、花ちゃんに聞こえない程の声量で救いを求める。
俺はいつも祈ってばかりだ。
神だの仏だの、いつも存在しない何かに自分の願いだけ叶えて貰おうとしている。
そんな自分勝手な奴を神が救う訳が無い。
だから俺は神や仏に祈るのをやめた。
神でも仏でも無い――あの存在に縋る事にした。
本当に自分が勝手な奴だと思う。
いつも逃げている癖に、身の危険を感じたら縋るなど滑稽だ。
「助けてくれ……」
暗闇の中、その縋る者を思い浮かべる。
黄金の神に金色の瞳。
金に愛され金を愛すあの者を。
「助けてくれ――マリー!」
『パキン』
その名前を叫んだ瞬間、玄関のドアが支えを失った様にこちらに倒れる。
接着剤で固定されていた場所が、鋭利なもので切断された跡がある。
何者かに断たれたのだろう。
そしてその犯人が、玄関の外に立っていた。
「――待たせたね、お兄ちゃん」
月の光に照らされ、光り輝く金髪をたなびかせ、俺の名を呼んだ。
たった数時間離れていただけなのに、今はとても懐かしく思える。
その者の名を、俺は再び叫んだ。
「ま、マリー!」
普段悪魔に見えるマリーが、今は救世主に映った。
俺はそんな事を思いながら、今の状況にとても安心してしまった。
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