公園で出会った子に俺は、夕食と宿を提供してもらうのでした

 あの後先輩と別れた俺は、出口で待っていた少女――彼岸花ちゃんと歩いていた。


「花ちゃんも帰りだったんだ」

「うん……偶然だね?」


 運動しやすい格好の花ちゃん見るに、ランニングにしに公園に来ていた様だ。

 確か花ちゃんは部活には所属していない筈。


 恐らく体型維持の為の運動だろう。

 女子ってやつは大変だな。


「それより本当に一泊させてもらっていいの?」

「うん……大丈夫だよ」


 本当は先輩の家に泊めてもらう予定だったが、花ちゃんが自宅に来て欲しいと言ってきた。


 俺としては先輩に何かお礼をしたいと思っていた。


 しかし中々花ちゃんが引かず、最後は先輩が気を使ってくれて花ちゃんの家に泊まることになった。


 今度先輩には何かお礼をしなければな。


「もうすぐだよ」

「意外と近いんだね……って」


 もうすぐ彼岸家に着くと言われたが、目前の柵で囲まれた大自然に目が止まる。

 ここにも大きな公園があるのか?


「最近中の人を見ないけど……一応お家だよ」


 初めは今日訪れた公園と同じような施設かと思っていたが、どうやら人の住む地らしい。


 という事はこの大自然は庭なのか。

 とんでもない金持ちもいる者だな。


「ここだよ」


 規格外の庭から少し離れた所の家宅で花ちゃんは足を止める。

 そこには『彼岸』と書かれた表札があった。


 彼岸家は一般的な大きさの一軒家で、大きくなく小さくもない。

 一般的なサイズの一戸建てだ。


 しかしそんな事よりも、一番気になっていた事を花ちゃんに伺う。


「花ちゃん、電気が全部付いてないけど……?」

「今日はお母さんとお父さんが……いないから」


 全く大丈夫じゃないです。

 俺は間違いが起こらない様に、気を引き締めるのだった。



 ◇



「お、お邪魔します」


 人気ひとけの無い玄関で靴を脱ぎ、花ちゃんと共に廊下を歩く。

 渡った先のリビングで、花ちゃんが止まった。


「晩御飯作るから……そこに座ってて」

「俺も手伝うよ?」

「ふふ……お客さんは待っててください」


 可愛らしく笑う花ちゃんは、俺の提案を断った。

 一泊させてもらうのに何もしないのは流石に気が引けてしまう。


 しかし花ちゃんの邪魔をするのも嫌なので、仕方なくソファーに座って待つことにした。



 ◇



「ん、美味い!」

「ふふ……良かった」


 花ちゃんが作ってくれた生姜焼きは俺好みの味付けだ。

 付け合わせの野菜は新鮮で、味噌汁は文句無しに美味い。


 まるで俺の好みに合わせて作られているのでは無いかと錯覚してしまう。


 少し濃いめの味付けをされた生姜焼きを口に入れて、それに白米を追加する。


 それを繰り返していたらあっという間に完食してしまった。


「凄い食べっぷりだね」

「いや、本当に美味くて」


 俺の勢いに驚きながらも嬉しそうな表情を花ちゃんは見せる。

 それが何だか嬉しくなってしまう。


 花ちゃんの笑顔を見ながら食後のデザートを頂いていると、少し変わった紅茶がテーブルに置かれた。


「ネットで話題の紅茶なんだ」

「そうなんだ、ありがとう」


 女子は流行りの物に敏感なんだな。

 そう言えば前にマリーにも飲ませてもらったな。


 あの時は確か――。


「どうしたの?」

「いや、何でもないよ」


 折角淹れた紅茶に口をつけない俺を見て、花ちゃんの顔が曇った。

 俺は急いで一口目を口にした。


 するとその直後、強烈な眠気が俺を襲ってきた。

 満腹になったら眠気がくるって動物かよ俺……。


 抗えぬ程の睡魔に俺はテーブルに突っ伏す。

 そのままゆっくりと瞼を閉じた。


「……」


 意識が無くなる前に花ちゃんが何か言っていたが眠気に逆らえず、俺の意識は深い眠りへといざなわれた。

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