平和になった俺は、妹たちから解放されるのでした
『犬の糞の方がマシって言いなさい』
いやいや無理でしょ。
常識的に考えて。
「藤麻君?」
「どうした?」
俺の挙動に三人が怪しむ。
特に花ちゃんは何故か訝しい目をしている。
「藤麻君、ちょっと失礼するね?」
「え?」
それは一瞬だった。
俺の眼鏡、ネクタイピン、デジタルウォッチを瞬時に奪い破壊した。
鮮やかな手捌き。
目にも留まらぬスピード。
――マリーのそれに似ていた。
「あれ、眼鏡どうした?」
「ネクタイピンも無いよ?」
幼馴染グループはどうやら気づかなかったらしい。
俺はいつも見ているからわかる。
マリーの技にそっくりだ。
「――それで、味はどうだったかな?」
「ああ、美味いよ……」
「良かった!」
俺の感想が嬉しかったのか、次々と焼いてゆく。
何となくマリーに雰囲気が似ていた。
しかし今はいつも通り。
――しかし何故マリーの技法が出来るんだ?
◇
一通り焼き終わった後、軽く雑談を交わす。
いつのまにか女子二人は仲良くなり、俺らが心配する事は無くなっていた。
打ち上げも中盤に差し掛かり、かなり盛り上がりを見せる。
馬鹿やってる者もいれば、この打ち上げで良い感じになった奴らもいる。
俺たちも互いの事がわかってきた所で、佐々木さんがスマホを向けてきた。
「みんなで写真撮ろうよ!」
皆が映る様にスマホを天にかざす。
しかし俺と花ちゃんがうまく収まっていない。
「そっちの二人もっと寄って!」
「わ、わかった」
少し花ちゃんに体を寄せる。
するとうまく画面に収まった。
「撮るよー!」
シャッター音で皆ポーズを取る。
俺は無難にピースサイン。
平和の象徴だからな。
『いらっしゃいませー!』
撮影が終わった所で、店の扉が開いた。
全員そちらに顔を向ける。
まだ来てなかった奴がいたのか。
『えと……どちら様ですか?』
『母です』
『そちらは……?』
『妹です』
聞きなれた声が向こうからする。
その声を聞いた瞬間、心臓が思いっきり跳ねた。
気のせいだ、違ってくれ。
エアコンがガンガンに効いているこの部屋で、とてつもない汗をかきはじめる。
顔、脇。
全身びしょ濡れだ。
コツコツとヒールの足音がこちらに近づいてくる。
先程食べたお好み焼きが口から出そうな程、緊張が止まらない。
足音は俺たちのテーブルで止まり、二人の客人は俺に目を向けている。
俺は必死に目をそらす。
「藤麻」
「お兄ちゃん」
「……はい」
「「来ちゃった」」
鬼畜親子。
参上するのでありけり。
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