打ち上げに来た俺は、妹と母親に監視されているのでした

「どうしたんだよその格好」

「まあ……今日はそういう気分なんだよ」


 目の前に座る吾郎は俺の服装を不思議そうに見ている。

 それもその筈。


 普段付けていないメガネに、ネクタイピン。

 怪しまれて当然だ。


 しかしこうしなければ――打ち上げには参加できなかった。



 ◇



「行ってもいいわよ?」

「本当ですか!?」


 独占欲がとても強い母さんが、まさかの打ち上げ参加を許可してくれた。

 マリーも流石に驚いている。


「桃さん、お兄ちゃんに変な虫が付いちゃうよ!」

「慌てないのマリー――ちゃんと対策するから」

「対策?」


 母さんはバッグから複数の機器を取り出した。

 眼鏡にネクタイピン。

 それからデジタルウォッチだ。


 巷で流行っている物とは少し形状が違う。

 形が格好良く、少し興味が湧いた。


「母さんこれは?」

「盗撮用カメラ、盗聴器、GPS機器よ」

「なんでそんな物持ってるの!?」


 普通の母親はそんな物持ち歩かないぞ。

 何の為に所持しているんだ。


「今度藤麻にプレゼントする予定だったの」

「いらんわ!」


 見た目だけは最高なのだが盗聴盗撮のグッズだ。

 普通に犯罪である。


「打ち上げに行きたいなら、これを付けなきゃ行かせないわよ」

「これは犯罪だよ!」

「要求が飲めないなら、藤麻の願いも叶わないわよ」


 簡単な話だ。

 付ければ打ち上げに参加出来る。

 付けなければ行けない。

 ただそれだけ。


 しかしこれでは打ち上げが楽しめない。

 母親と妹に監視されながら何を楽しめって言うんだ。


「私たちが一緒に行くのも――アリよ?」

「全部付けるからそれだけはやめて!」


 こうして俺は、監視されながら打ち上げに行くのだった。



 ◇



 時は戻って現在。

 黒い鉄板を四人で囲い、お好み焼きのを焼いている。


 打ち上げは食べ放題のお好み焼きに決まった。

 値段がリーズナブルで、食べ放題は学生の俺たちにとって強い味方だ。


 クラスの奴だけではなく、他クラスの者も少しいる。

 その為、店は貸し切って行われた。


「それより吾郎、横の子は誰だよ?」

「ああ、コイツは幼馴染」

「隣のクラスの佐々木花梨ささきかりんでーす!」


 少しギャルっぽいその子は俺に可愛くはにかむ。

 淡いピンクの髪が特徴的な子だ。


「そっちの子は?」

「わ、私は彼岸花です……」


 自信なさそうに答えるのは花ちゃん。

 俺の告白童貞を奪った子だ。


 花ちゃんも打ち上げに来ていた様で、一人でいた所を俺が声を掛けた。


「よろしくね!」

「よろしくお願いします……」


 イケイケな花梨ちゃんに怯えている。

 陰と陽。

 二人を表現するならこれが一番だな。


「とりあえず焼けたの食おうぜ」

「だな、腹減ったし」


 ここは俺ら男子が話題を振っていこう。

 吾郎とアイコンタクトを取り、意思疎通を図る。


『どうする、この後』

『花梨は最近漫画にハマってる。そこから話を広げよう』

『了解』


 花ちゃんだって漫画は読むだろう。

 そうと決まればお好み焼きを食べたら作戦開始だ。


「えっ、これ花ちゃんが焼いたの!?」

「う、うん」

「めっちゃうまくない?」

「あ、それ俺も思った」


 幼馴染グループが花ちゃん特製のお好み焼きを絶賛する。

 自分の料理を褒められて、花ちゃんも少し嬉しそうだ。


「と、藤麻君は……どうかな?」

「ああ、うま……『ブーブー』」


 感想を言おうとしたら、腕につけているデジタルウォッチから通知が来た。

 何の通知か確認すると母さんからのメールだった。


『犬の糞の方がマシって言いなさい』


 ――言えるわけないだろおおお!

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