番外編 夢の中で楽しんでいた俺は、妹の登場で夢さえも壊されるのでした
※カクヨムのフォロー500人突破記念です。
風呂を終えた俺は、マリーのベッドに手錠で繋がれた。
エプロンを身に付け、お玉を持ったマリーは部屋から出られない事を確認した後、キッチンに戻って行く。
今は部屋に俺一人の状態だ。
「まあ何かされるよりはマシか」
部屋から出られないとはいえ、ベッドで寝てれば機嫌を損ねないのなら寝ていよう。
それよりも先程から、
――若い女の子特有の匂いだ。
「やっぱ女の子ってスゲーな……」
嗅ぐ度に甘い香りが脳を刺激する。
それと同時に安心感なども押し寄せ、永遠に嗅いでいたい気持ちにさせられる。
特にマリーの匂いはとても好みだ。
花の様に甘く、柔軟剤の様に優しい香りでとても安らぐ。
しかし本人には絶対に知られたくない。
何を言われるか分かったもんじゃないからな。
「ふあぁ……眠くなってきたな」
何だかマリーに寝かし付けられている錯覚に陥り、睡魔が姿を現した。
夕飯はまだ出来そうにないし仮眠でもするか。
今なら凄く幸せな夢が見れそうだ。
マリーの匂いが一番強い枕を抱いて、眠りについた。
◇
気がつくと、俺は高校の自分の席に座っていた。
窓際の一番後ろで、横には吾郎。
いつもの風景だった。
意識が飛んでいたのか、この状況に全く見覚えがない。
「藤麻、放課後何処行く?」
「は?」
何処行くだと?
行けるわけ無いだろ。
マリーがそれを許すわけ……。
「今日妹さん熱で休んでるだろ?」
「え!?」
マリーが熱?
あのマリーが?
マリーが体調を崩した事は一度もない。
毎日家の家事をして、学業も怠らず、俺の恋路を邪魔してくる。
そんな毎日を送って疲れもある筈だが、風邪一つひいている姿を見た事ない。
しかし吾郎が嘘を言っているとも思えない。
と言う事は今は家で寝ているのか。
「大丈夫か? この話をしたのはお前だぞ?」
「あ、ああ。そうだったな」
どうにも腑に落ちないが、どうやらマリーが風邪をひいているらしい。
可愛い妹が風邪で寝込んでいるなら、看病してやるのが普通の家庭だ。
――しかし俺は違う。
「じゃあ今日は女子誘ってカラオケでも行くか」
「……お前今スゲーゲスい顔してるぞ」
まさか。
普段自由が無いからって、風邪で寝込んでるマリーを放っておき、放課後に女子と遊べるぜなどと、そんな非人道的な事考えてるわけ無いだろ。
この俺が。
「それより吾郎早く行こう。時間は有限だ」
「お前が明日妹さんに刺されてない事を、一応祈っておいてやるよ……」
大丈夫だ。
日本にはこんな言葉がある。
『バレなきゃ犯罪じゃない』
◇
「結構広いなー」
「ああ」
「ここならはしゃいでも大丈夫だね」
「私最初に歌いたいです!」
カラオケに着いた俺たちは、部屋の中を見て驚いていた。
男子は俺と吾郎。
女子は花ちゃんと真里ちゃん。
それから優曇華先輩だ。
大人数用の部屋に興奮気味な俺たちだが、花ちゃんが少し緊張していた。
あんまりカラオケとか来ないのかな?
すこし外に出るか。
「みんな何飲む? 俺と花ちゃんで取ってくるからさ」
「え……?」
驚いた顔をした花ちゃんに優しく微笑む。
すると頬を桜色に染め、笑顔を返してくれた。
「俺は炭酸で」
「ミルクティーでお願いしようかな」
「私コーラにソフトクリーム乗せたやつでお願いします!」
「おっけー」
みんなのオーダーをメモしてドリンクバーに向かう。
着いた頃に花ちゃんが俺の袖を引っ張って来た。
「さっきはありがとう、藤麻君」
「気にしなくて良いよ。みんなで楽しみたいだけだから」
「でも凄く嬉しかった……」
すると花ちゃんが俺との距離を少し詰める。
「は、花ちゃん?」
「本当に優しいね、藤麻君は……」
濡れた瞳で俺を見つめてくる。
その表情に心臓が跳ねた。
「花ちゃん……」
「藤麻君……」
見つめ合い、良い雰囲気になる。
ゆっくりと顔を近づけ――。
「見てよかずえさん、あそこの二人を」
「あらー、最近の若い子は大胆ねー」
おばさん達の横槍によってムードが消失。
俺らも我に帰った。
「い……行こうか」
「う、うん」
冷静になると確かに大胆だったな。
――でもチューしたかったあああああ!
◇
部屋に戻り、マイクを回しながら歌う。
女子勢が全員上手くて、俺と吾郎は圧倒されていた。
「マジでみんなハイレベルだな!」
「俺もびっくりしてるわ」
特に優曇華先輩。
曲に合わせて歌い方を変えている。
津軽海峡秋景色は惚れ惚れする歌いっぷりだった。
「ねえ、一緒に歌わない?」
俺の番に優曇華先輩がデュエットの要望をしてきた。
俺の歌唱力じゃ足を引っ張りそうだが。
「大丈夫、簡単なのにするから!」
デンモクで曲を飛ばし二人でマイクを持つ。
すると突然立ち上がった優曇華は、俺の隣に腰を下ろした。
「えと……」
「一緒に歌うんだから良いよね?」
耳元で囁かれ、鼓動が少し早くなる。
そして畳み掛ける様に――俺の手を優しく握ってきた。
「!」
もう曲は始まっている。
俺の番なのに、手に意識がいってしまう。
そんな俺を見て優曇華先輩はニヤニヤしながら歌っている。
「どうしたの藤麻さん?」
俺の不自然な挙動に真里ちゃんが心配してくれる。
すると俺の手を優曇華先輩が握っている事に気がついた。
「あー! 銀杏さん、藤麻さんの手を握ってる!」
「あはは、バレちゃったか」
「ずるい! 私もー!」
今度は真里ちゃんに手を繋がれる。
再び両手に花の状態だ。
やべー、今一番楽しい。
◇
「ねえ、君は誰のことが好きなの?」
「え」
吾郎が流行の歌を熱唱して中、優曇華先輩が言う。
いきなりそんな事を聞かれ、とぼけた顔になる。
「誰なの?」
その質問に皆が俺を見てくる。
女子三人の目は真剣そのものだ。
誰って……。
考えていると、ある一人の少女が現れた。
その頭に浮かんだ子に、俺は酷く動揺した。
――どうしてだ。
どうしてなんだ。
全く解らない。
理解できない。
「どうしたの?」
「お、俺は……」
「時間切れだよ――お兄ちゃん?」
すると真っ暗なこの空間の出口に、一人の少女が現れた。
一本一本光沢のある金髪。
黄金に輝く金色の瞳。
雪の様に白い肌。
見間違えるわけない。
――マリーだった。
「どうしてここに!?」
朝の段階では風邪で寝込んでるって話だった。
なのに今いるマリーは健康体にしか見えない。
「楽しい夢の時間はこれでおしまいだよ」
するとスタンガンを取り出し、バチバチと音を鳴らす。
「や、やめて下さい!」
「大丈夫、お兄ちゃんは最後だから」
「え……」
ゆっくりと部屋の中に入り、最初に吾郎に近づいてく。
目の前で止まったマリーは、笑顔で吾郎を見つめていた。
「先輩、おやすみなさい?」
「マリーちゃん、待っ……ぎゃああああああああああ!!!?」
「ご……吾郎おおお!!」
吾郎の身体が光り、一瞬骨格が映る。
どんな出力のスタンガンを使えば、人の内部が見えるのだろう。
倒れている吾郎の身体は、雷に打たれた様に黒焦げになった。
「次は――お兄ちゃんに害をなす虫どもだね」
「い、いや!」
花ちゃんは俺に捕まり、助けを求めてくる。
しかしそんな花ちゃんをマリーは引き剥がし、スタンガンを当てた。
「女子ズうううう!」
残りの二人も始末され、俺とマリーだけが残る。
辺り一帯焼けた人になり、部屋中焦げ臭い。
まるで戦場にいるかの様だった。
「今日は楽しかった?」
「マリーが出てくるまではな!」
「あはっ、お兄ちゃん冗談が上手いね!」
「冗談じゃ無いんだけど!?」
自分に不利益な情報は絶対に信じない。
堅実で良いと思うが俺の話は聞いてほしい。
「それじゃあお兄ちゃん、帰ったらお仕置きだよ?」
バチバチと音を立てるスタンガン。
そんな物騒な物を持ちながら、笑顔を絶やさないマリー。
「お巡りさん、助けて!」
「ふふ、お休みお兄ちゃん」
南無三。
人生初のスタンガンを受け、全身に電気が流れ込む。
その衝撃に耐えきれず、俺は意識を失った。
◇
「うわあああああああ!」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「ぎゃあああああああ!」
飛び起きた俺はさらに飛び上がった。
寝ていた俺を起こしにマリーが来ていたようだ。
「夕飯が出来たから食べよっか!」
エプロン姿のマリーは、俺の拘束を解きながらいう。
俺は今回の夢で一つ決めたことがあった。
「マリー、もし風邪を引いたらお兄ちゃんが全力で看病してあげるからな……」
「お兄ちゃん……マリー嬉しいよ!」
気分が良いのか、鼻歌交じりに手錠を解錠する。
そんなマリーを見て、これからは黙って居なくなるのはしないと決めるのだった。
だってスタンガン怖いし。
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