次の日俺は、薬剤師の妹に尋問されるのでした
俺は今、
「お兄ちゃん……覚悟はいい?」
「やめて! 殺さないで!」
家の物置を綺麗に片付けたマリーは、中央に一つの椅子を設置。
コンクリート打ちっ放しの壁で出来ているこの空間を尋問室に変えた。
しかしこの部屋は電気が通っておらず、灯りになるものは一つもない。
この真っ暗な空間の中央にある椅子に、俺は拘束されている。
昨日のニュースでは、今日の天気は初夏になったばかりだが、今年で一番の猛暑と報道されていた。
その為窓一つ無いこの部屋の室温はかなり高く、身体からは汗が次々と噴き出してくる。
それと同時に、目前の出来事での大量の冷や汗も加わり、身体中の水分が枯渇していた。
「殺さないよ、もうーお兄ちゃんたら……」
「だったらそれは何! 調査兵団の武器みたいに伸びたその刃物は何!?」
只今金の監守が絶賛尋問中だ。
片手にはこの暗闇を照らす為の和蝋燭を持ち、反対の手は限界まで刃を露出した愛用の文房具を握っている。
和蝋燭の灯りがマリーを照らし背後に影をつくる。
小柄なマリーから伸びた影は、とても大きな影になりこの部屋を覆っていた。
右手に刃物、左手に蝋燭が映るそのシルエットは正しく死神、マリーは様々なジョブをお持ちな様だ。
「これはメイクとかと同じ様なものだよ?」
「どこの世界にお出かけ前にカッターを武装する国があるんだよ!」
「細かいなー、お兄ちゃんは」
「細かくないけど!?」
そんな事をしているのは恐らく貴方だけです……だよね?
「話し合いで解決したかったけど、埒が明かないなー」
「こんな一方的なコミュニケーションは話し合いとは呼ばん!」
するとマリーは懐から一つの白い粉を取り出した。
あれ、既視感が……。
「お兄ちゃん、口開けて?」
「それはやめて下さい、お願いです」
「でもこの方が手っ取り早いし?」
「誰なんだよ! 自白剤なんて物マリーに売ってるやつ!」
表面に『じ』と書かれた薬の封を切る。
監守はゆっくりとそれを俺の口元に運んできた。
「わかった、話そう! 公平に話し合おう!」
「誓約を破ったお兄ちゃんは意見しちゃいけないんだよ?」
無理矢理薬を飲まされ、あの日と同じく意識がふわふわした感覚に陥る。
思考がうまく出来ない状態で、マリーは俺に問いかけてきた。
「昨日は外出後、どこにいましたか?」
「確か……高校がある駅の、駅前のカフェにいました」
「やっぱりか、あの糞虫……」
壁をカッターで切り刻み、マリーは怒りをぶつける。
特注品だからか、刃の方が全く綻びずにコンクリートが一方的に削られていた。
「あのアマ……先ずは爪を剥いで、髪を燃やして……次に……」
ぶつぶつと小言で呟いているが、内容までは分からない。
ひと段落して、冷静さを取り戻したマリーは次の質問を投げてくる。
「その時誰といましたか?」
「……金剛、真里ちゃん」
「!」
その名を聞いたマリーは、今まで見たことないほどに愕いた顔を見せる。
それは歪んだ視界の中でさえ解るほどだ。
その後、少しイラつき気味で言葉を吐いた。
「お兄ちゃん、今後一切その娘には近づかないで」
「?」
「い、い?」
「わ、解かりました……」
返事を聞いたマリーは部屋を出て行く。
ガチャリと鍵をかけて。
俺はそのまま椅子に縛られ数時間、朦朧とした意識で過ごした。
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