合コンに参加してしまった俺は、妹に庭に植えられるのでした
「ん……」
うざったい程の陽の光を直接受けて俺は目を醒ます。どうしてこんなに直射日光を受けてるのかと疑問を抱いたが、動けない身体普段あまり嗅がない土の匂いによって答えはすぐに出た。
「なんで俺埋まっているの!?」
目の前には花壇の内側が見えており、横にはマリーが大切に育てているマリーゴールドが植えられている。俺と共に日に当たり、とても可憐に咲いていた。
「マリー、マリーは居らぬか!」
近隣の方に聞こえる程の大声でマリーを呼ぶ。近所迷惑かもしれないが、この肩から下が花壇に植えられている状態を説明してもらわなければならない。俺は声を枯らすほど妹の名を叫ぶ。すると玄関の方からドアが開く音がした。
「……どうしたのお兄ちゃん?」
ピンクを基調としたもこもこのルームウェアで、目をこすりながらマリーがこちらに来た。この状況に一切の違和感を感じてないマリーに俺は恐怖を抱くが、一先ず呼び出しは成功だ。
「マリー、これはどう言う事だ!」
「んー、なにがぁ……」
未だ覚醒し切れてないマリーに現状について語ってもらう。俺は身を捩りながら、自身をアピールした。
「この惨状だよ! 俺は昨日までベッドで寝てた筈だ。しかし今はここにいる、十中八九……いや十マリーの仕業だろ!」
俺は左肩を引いて、右肩を突き出す。指差しのポーズがしたいのだが、埋まっている為マリーを指せなかった。そんな俺にマリーはドスの効いた声で話し出す。
「お兄ちゃん、少しは自分の罪を償おうとか思わないの?」
今日は天気は文句なしの晴天だ。どこまでも続く綺麗な青空が、明日も明後日も晴れだと主張している。それなのに俺の庭の温度はマリーを中心に氷点下まで落ちていた。庭内の全てが白く凍り、俺の唇は紫色に変色する。土より下の胴体は温かさを感じるが、肩より上は最北端の島にいるかのようだった。クールアンドビューティーなマリーに俺は寒さを訴える。
「ま、マリーしゃま……しゃ、しゃぶいです」
「あ、ごめんねお兄ちゃん?」
その一言の後に、今度はマリーから炎が現れた。一瞬で凍った土や壁、俺さえも灼熱の炎で包み込む。包まれた全ての物質は少し焦げるが、先程から隣に逞しく咲いているマリーゴールドは、全くのノーダメージだった。ホットアンドビューティーなマリーは、能力を制御して大好きな花には手を出さなかった様だ。
「熱い熱い!」
「うん、これであったまったね」
体毛が焦げて嫌な臭いを発している。地上に露出している服は燃え尽き、俺はこんがり焼き目を付けられた。
「さあお兄ちゃん、とりあえず謝ろっか。私に嘘をついたことと合コンに勝手に参加したことを。そうすればそこからは出してあげるよ」
俺に懺悔しろとマリーは言う、しかし可笑しな話だ。なぜ俺は他の女子と楽しくお話をさせてもらえないのだろうか。俺は真剣な表情で土に埋まりながらマリーに問う。
「マリー、どうしていつも俺が女子と話すのを邪魔するんだ? 別にマリーに迷惑は掛けていないだろ」
「お兄ちゃんにはマリーがいればいいの。他の害虫や雌豚どもに、マリーのお兄ちゃんが穢されるのがとても耐えられない……あぁ、思い出しただけで殺意が……」
最大まで伸ばしたカッターで地面を滅多刺しする。普段どんな心境で女子を見ているのか、この行動を見れば説明は不要だった。俺は怖くなり、マリーに謝罪してここから出してもう様にお願いした。
「はぁ……はぁ、いいよお兄ちゃん。ちょうど今スッキリしたところだから」
うちの庭に『雌豚』とカッターで掘り、その文字を上からドスドス刺し続けていたマリーは、終わった後にとても晴れやかな顔をしていた。うちの妹闇深すぎでしょ……。
「それじゃあいくよー」
両手で俺の肩を掴み、一気に上に抜く――かと思いきや、俺の髪を引っ張って真上に引き抜こうとするマリーに俺は叫んだ。
「いだいいだい! 抜ける! 土に植えてある俺じゃなく、俺から生えてる毛が抜ける!」
とんでもない痛みが頭皮を襲う。一本くらいなら思いっきり抜けようが痛みはさほどない。しかし一度に大量の毛を掴み、真上に引っ張れば激痛なのは至極当然。今にも頭皮までめくれそうな痛みを我慢してマリーの名を叫ぶと、スポンと音が鳴り、俺の胴体は地上に露出した。
「収穫終了だよお兄ちゃん!」
兄を食材呼ばわりして、笑顔を振りまくその悪魔の手には俺の髪の毛が少し握られていた。そりゃあの馬鹿力で引っこ抜かれれば犠牲は出るか。俺は弱々しくマリーに感謝する。まあここに俺を植えたのはこの子なんだけどね。
「あ、ありがとうマリー」
「どういたしまして、お兄ちゃん!」
「とりあえず風呂に入るわ、身体中汚れてるし」
「わかった、終わったらリビングに来てね」
目が完全に醒めたマリーは手を振り先に家へと戻っていった。俺も後を追って脱衣所に向かうが、玄関で待っていたマリーは俺に笑顔で後のことを話した。
「今回の件は流石に我慢できなかったから、お兄ちゃんには躾をするよ……覚悟してね?」
ジャッチメントマスターマリーは俺に審判を下したのだった。
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