第八話 盗聴器を付けられてた俺は、妹に行動が筒抜けなのでした

 休日が終わり、平日を迎えた俺はマリーといつも通りに登校していた。


「お兄ちゃん、放課後残るんだっけ?」

「ああ、委員会決めでな」

「じゃあマリーは先に帰ってるね」

「え……」


 放課後にフリーになる俺を放置だと。

 何を企んでいる。


 しかしこれはチャンスだ。

 久しぶりに他の子と話せる。


「でもお兄ちゃん、浮気したら許さないよ?」


 ――俺ら兄妹だよね?



 ◇

 


 放課後になり、マリーは帰る前に俺のクラスに寄ってきた。

 廊下に出てマリーを出迎える。


「じゃあお兄ちゃん、先帰ってるね」

「おう」


 ただ一言伝えてマリーは校門に向かう。


「藤麻君も大変だね」


 いきなり背後から話しかけられる。

 それは聞き覚えのある声だった。


「えっと確か……」

「この前君の服装検査をした先輩だよ」


 廊下で出会ったのは緑のリボンをしている。

 その人は服装検査でお世話になった先輩だった。


「すみません、名前を知らないもんで」

「ああ、そういえば教えてなかったね。私は優曇華銀杏うどんげぎんなだよ!」


 その余裕のある対応の先輩は優曇華先輩というらしい。

 変わった名前だな。

 覚えておこう。


「これから委員会決めな感じかな?」

「そうですね、でもまだ何にするか悩んでて」

「それなら美化委員になってよ、私もいるし」

「そうなんですか、もし空きがあれば狙ってみます」

「その時はよろしくね!」


 可愛くウインクした先輩は階段を降りていった。

 生徒会以外にも他の委員を掛け持ちしているらしい。


 女子と話すのが久方ぶりで、顔は緩みきっている。

 そろそろ委員会決めが始まる。

 俺は自席に戻るのだった。



 ◇



「優曇華銀杏……」


 どうやらあの雌の名はそう呼ぶらしい。

 やはりマリーがいないタイミングでお兄ちゃんに近づいてきた。


 今は自宅に戻り、この前仕込んでおいた盗聴器でお兄ちゃんを盗聴している。


 お兄ちゃんから離れている時に、お兄ちゃんが雌と話しているかチェック随時していた。


「害虫が……直ぐに処分してやる」


 SNSを開いてあの雌の情報収集を開始する。



 ◇



 委員会決めで見事美化委員を勝ち取った。

 まあ人気がなく残っていたから簡単に選べたのだがそんなことは気にしない。


 これから委員会の説明の為に他のメンバーの所に向かう。

 するとまたしても背後から名前を呼ばれた。


「藤麻君……」

「君はこの前の!」

「覚えててくれたんだ!」


 声の主は屋上で俺に告白するも、悪魔の介入であえなく退場させられた少女だった。


「あの……今一人かな?」

「う、うん。でもこれから委員会の説明で空き教室に向かってる途中なんだ」

「そ、そうなんだ。ごめんね? 邪魔しちゃって」

「気にしなくていいよ」


 あんな目にあったのに俺にまだ話しかけてくれるなんて。

 なんて健気な子なのだろう。


「あ、あの! 良かったらSNS交換しませんか?」

「えっ、マジ!?」

「う、うん……色々話したいし」


 健気。

 ほんと健気だなこの子は。


 俺は早速アプリを開きQRコードを交換しようとする。

 しかしそれと同時に一通のメールが届いた。


『お兄ちゃん、交換したら躾をするよ?』


 直ぐに周りを見渡す。

 部活に向かう者。

 友達と下校する者。


 その中にマリーはいない。

 何故この話が聞こえているんだ……。


「ど、どうしたの藤麻君?」

「ご、ごめん。スマホの調子が悪いみたいでアプリが開けなくって……」

「そ、そうなんだ……ならこれ!」


 渡されたのは小さく千切られた紙だった。


「そこに私のIDが書いてあるから……登録してくれると嬉しいです」


 俯いて両の手の指をもじもじとしながら彼女はいった。


 まじか。

 好きな事になると女の子は積極的になると聞くが、これほどの猛攻はもはや賞賛に値するほどだ。

 めっちゃ好きになった……。


「わかった、後で試してみる」

「う、うん。それじゃ!」


 右手をぶんぶん振って彼女は俺から離れていった。

 渡された紙を開くとIDに名前らしき文字が入っていた。


「hanaか、そのまま花かな?」


 俺はその紙をポケットにしまい、空き教室に向かった。

 因みに彼女の名は『彼岸花ひがんはな』で、それを知るのはもう少し先だった。

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