第七話 朝から拘束された俺は、妹とお風呂に入るのでした

「お兄ちゃん汗かいたでしょ? お風呂はいろっか!」


 キョンシーの如く移動する俺は、就寝中にかいた汗を流しに風呂場に向かう。

 勿論監守同行で。

 それよりも丁度良い機会なので、今まで気になっていた事を聞いてみた。



「マリー、どうして俺が女の子と話すのを邪魔するんだ?」

「解らないのお兄ちゃん? まずマリーがいるのに他の雌と話すのはどう考えても可笑しいよね? それからマリーがいないからって他の雌と話すのは浮気だよね?」


 ――俺らって兄妹だよね?


「えと……」

「お兄ちゃんにはマリーがいればいいんだよ。マリーだけがお兄ちゃんを愛して、マリーだけをお兄ちゃんが愛す……それがこの世界で生まれてきた二人の運命なんだよ。きっと前世もそうやって二人で愛を育んできたんだろうね。だからそれに習って私たちも兄妹というしがらみは捨てて愛し合お? 愛を育もう?」


 重い、愛が重い。

 そんな胃もたれしそうな愛を受け取り、俺は漸《ようや》く風呂場の前に着いた。

 しかしマリーは俺の拘束を解いてくれない。


「マリー……拘束されていると身体が洗えないんだけど?」


 一応テーピングは外してもらっているが、肝心の手錠がはまったまま。

 このままでは身体を洗うのは極めて困難だが、その解決策をマリーは提示してきた。



「大丈夫、マリーが背中を流してあげる!」

「いやいいよ! 風呂くらい一人で入りたいし!」


 しかしマリーは譲らない。


「お兄ちゃん、目を離すとすぐ雌と喋るじゃん」

「自宅の風呂場に女の子いたら怖いわ!」


 確かに女子がいたら話しかけたりはするけど、それは流石に暴論だろ。

 まあ……いたら話すよ、そりゃ男子ですもの。


「とりあえず脱ごっか!」

「いやだから大丈夫だって!」


 縛られた状態で俺の服を鮮やかに脱衣させる。

 後はパンツ一枚にされた。


 もう一緒に入るのは確定しているようだが、せめて全裸だけは見られたくない。

 もじもじしながらマリーにお願いする。


「あの、出来れば後ろを向いてもらってよろしいですか?」

「常に見張ってないとお兄ちゃん逃げるし」


 ここまで監視されてれば逃げようはないでしょうに……。

 マリーは不動の構えで立っている。


「お願いです。愚兄な私ですが、人並みの羞恥心が備わっているのです。このままだとマリー様に獣のような下品なモノをお見せする事になります。高貴で気品あるマリー様にそのような不潔でダーティなモノを視界に入れぬ……「つべこべ言わずに早く脱いで?」


 一蹴された俺は涙目でパンツを脱ぐ。

 真っ裸になった俺の一点を、マリーは目を光らせて見てくる。


「通常時でも意外と大きいんだね!」

「ガン見しないでくれ!」


 風呂に入る前から疲労した俺は、一足先に浴室に入りバスチェアに腰掛けた。

 手足の手錠はそのままなので、マリーに洗ってもらうために待機している。


 マリーは濡れても良い格好に着替えるといい、一旦自室に戻っていった。

 数分後、浴室のドアが開く。

 そこには学校指定ではない――スク水姿のマリーが立っていた。


「始めようか、お兄ちゃん!」


 確かにそれなら濡れても良いがその格好は色々とまずい。


 マシュマロの様に白い肌が青いスク水を際立たせ、金髪をアップにしているお陰で、後頭部からは綺麗なうなじが露わになっていた。

 頸フェチの俺には効果覿面だった。


 健全な格好なのだが、年の近い子の水着姿は俺には刺激が強過ぎる。

 てかその水着いつ買ったんだよ……。


「気持ちいい、お兄ちゃん?」

「ああ……」


 水着姿の女の子に身体を洗ってもらうこの状況。

 最早そういうお店にしか思えない。

 しかしそんなことよりも、マリーのテクニックに俺はとても癒されていた。


 小さなマリーの手が俺の髪を優しく撫でる。

 ただ洗うだけではなく、頭をマッサージしながら揉むように洗う。

 力加減が絶妙で――愛のあるシャンプーだった。


「はい、髪は終わり!」

「え……」

「あれれ、もしかしてまだやって欲しかったー?」


 小悪魔チックにマリーが意地悪を言う。

 図星を突かれ少しバツが悪くなってしまった。


「マリー、せめて身体は自分で洗わせてくれ」

「大丈夫だってお兄ちゃん、優しくしてあげるから」

「いや、恥ずかしいんだよ!」

「そんなお兄ちゃんも可愛いよ!」


 俺の意見などいざ知らず、掌にボディーソープを垂らして泡立てる。


「はい、お兄ちゃんバンザイして?」


 拘束されている両手を上げて待機する。

 目の前にいるマリーは、無防備な俺のボディに優しく触れてきた。


 普段人に触られない部分をくすぐられ、ゾクゾクしてしまい落ち着かない。


「くねくねされると洗い辛いよお兄ちゃん」

「あの……洗い方どうにかなりません?」

「じゃあ……こういうのはどう?」


 ニヤリと笑い、マリーは立ち上がる。

 この顔をマリーがする時は、大体いい事が一つもない。


 ボディーソープを追加して更に泡立てたら、その間に今度は俺の背後に回り込んできた。


「それじゃあいくよ……」


 その掛け声と共に、俺の背中に触れてくる。

 しかし先程とは肌触りが違う。

 ――これはもしや。


「マリーさん!?」

「ん……なあにお兄ちゃん?」


 少し大きめなその胸を押し付けて、弧を描くように背中をなぞってくる。

 おっぱいの暴力を受けた俺は、血液が一点に集中。

 息子が元気に背伸びをしだした。



「あれ、お兄ちゃんのアソコ腫れてるよ?」

「これは違うんだ、その……」

「ええー? なにかの病気かも……見せてお兄ちゃん!」

「やめてくれ!」


 必死に見られないように抵抗するが、マリーの怪力によって股が大きく開かれる。

 抜刀された俺の逆刃刀が、マリーを斬りつけようと構えていた。


「お兄ちゃんの……逞しくて格好いいね!」

「こ、こんな辱め嫌だああ!」


 全てを見られた俺は、その後虚ろな目でマリーに洗浄されていた。



 ◇



 無事ではなかった風呂が終わり、今はリビングのソファーで休憩している。

 風呂で汗と疲れを流すはずが、結局疲れてしまった。


 けれどマリーとの風呂は、それ程悪くはなかった。

 特にあのシャンプーは中々なものだった。


 あれはお金を取れる技術だと思う。

 シャンプー検定一級の資格を言い渡そう。


「またやって欲しいと思ってしまう俺がいるのが悔しいな……」


 キリングモードでないマリーは俺に対してとても優しい。

 少し意地悪い所もあるが、そこを抜けば俺に好意を抱いている可愛い女の子でしかない。


「可愛くて何でも出来る……スペックだけは高いんだけどな」


 はやりネックなのはあの強烈なブラコンだろう。

 あれさえなければ俺もシスコンに目覚めていたかもしれないな。

 まあもしも、イフの話だが。


「やばい……眠い」


 俺の風呂を終わらせたマリーは、次は自分の番だと言って只今入浴中だ。

 疲労が眠気を呼び、眠気が俺を襲ってくる。


 マリーが終わるまで眠気を我慢出来る自信が今は無かった。


「限界だ……」


 必死に閉じぬ様に耐えていた瞼の力を抜く。

 目を閉じるととても気持ち良い感覚が襲う。

 そのまま深い暗闇に潜って行き、俺は意識を手放した。



 ◇



 お風呂から上がり、ソファー寝ている愛しいお兄ちゃんの元に向かう。

 今日もいっぱいお兄ちゃんといれて幸せだったな!


「あれ、お兄ちゃん寝ちゃったんだ」


 寝ているお兄ちゃんの寝顔がとても可愛い。

 スマホで写真を撮り、待ち受けの背景に設定した。


「んふふ、可愛い!」


 手足を手錠で繋がれている状態で、お兄ちゃん寝ているが少し寝辛そうだった。

 でもそれは仕方ない。

 お兄ちゃんがあの害虫に対して、幸福を感じたのが悪いんだからね?


 そんな事を考えていたら、お兄ちゃんが何かを探す動きをしていた。

 何か夢でも見てるのかな?


「お兄ちゃんは何が欲しいのかなー?」


 顔を近づけて聞いてみると、いきなりお兄ちゃんに抱きつかれた。


「お、お兄ちゃん!?」

「んん……マリー」


 お兄ちゃんが私の名前を呼んだ。

 お兄ちゃんが私の名前を呼んだ。

 お兄ちゃんが私の名前を呼んだ。

 お兄ちゃんが私の名前を呼んだ。

 お兄ちゃんが私の名前を呼んだ。


「や、やっぱりお兄ちゃんはマリーがいないとダメなんだね!」


 幸福そうな顔をしているお兄ちゃんに抱きつかれ、私も幸せを噛み締める。

 普段は絶対マリーに抱きつかないけれど、本当はマリーの事が大好きなんだね。

 マリーも好きだよ、お兄ちゃん!


「でも実はね、お兄ちゃんがマリーに依存する様に仕組んでるんだよ?」


 計画は順調に進んでいる。

 まだまだ先の話だけど、地道に一歩ずつ――お兄ちゃんを壊していこう。

 

「おやすみ、お兄ちゃん」


 そしてお兄ちゃんの腕に抱かれたまま、マリーも眠りにつくのだった。

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