第六話 休日の朝に目覚めた俺は、妹に拘束されるのでした

 自白剤を飲まされた日以来、マリーは特に動きを見せなかった。

 意識が朦朧としていた為、あの日のやり取りを上手く思い出せない。

 何か最後に言っていたような……?


 勿論俺が女子と関わる際は突然現れて、害虫や雌と罵って俺から距離を離す作業は、普段通りに行なっていた。


 そんなこんなで一週間はあっという間に終わり、休日の朝を俺は迎えるのであった。


「んん……?」


 目を覚ました俺は体を伸ばすが、上手く伸ばせない事に違和感を感じた。

 ――その答えは隣の悪魔の所為だと、すぐに解った。

 

「何だこれ!?」


 手足は手錠で繋がれ、他の箇所は全てテーピングで固定されている。

 俺はベッドの上で朝から木乃伊ミイラの格好にされていた。


「ふわっ……おはようお兄ちゃん」


 犯人はこの状況を当然のように思っているらしく、普段通りに接してくる。

 口元に開いてある微かな穴から、俺は大声でこの状況に説明を要求した。


「マリー! お兄ちゃんがミイラになってるんだが!?」

「そのままなら綺麗な姿で亡骸が残るね!」

「そんな話してないけど!?」


 欲しい回答が返ってこなかった。

 わーわー言っていると、瞳孔の開いた目でマリーは俺を見てきた。


「お兄ちゃんは制服検査の時、あの虫でドキッとしたよね?」


 やはりあの日、自白剤でゲロってしまったらしい。

 すぐ様俺は言い訳モードに突入する。


「あの時は意識が朦朧としてて、普段の俺ではなかった! つまりテキトーな事をいっていたんだ!」

「お兄ちゃん言い訳するの?」

「申し訳ありませんでした」


 突如として現れた刃物カッターを首元に当ててくる。

 少しずらしただけで、俺の首から大量の鮮血が出るだろう。

 怒り心頭のマリーに秒で謝罪して、どうにかカッターだけはやめてもらった。


「マリー様、どうかこの愚兄を許して頂けないでしょうか?」

「あ、ならこの誓約書にサインしてくれたらいいよ!」


 一度離れたマリーは、寝間着の中から四次元ポケットの如く一枚の用紙を取り出す。

 その用紙はある一部の枠以外が全て埋まっており、後はその枠を埋めるだけの状態だった。


「あの、これって……」

「婚姻届だよ! お兄ちゃん!」


 それは見ればわかる。

 それよりも勝手に全て記入済みで用意してあるという事に俺はとても恐怖した。

 ――知らぬ間に無理矢理結婚させられるところだった。


「マリー様、私は未だ一七歳。婚姻は出来ぬ身でして……」

「来年出せばいいんだよ!」

「しかし……「来年出せばいいんだよ!」


 真っ黒な眼で見つめながら、逃げ道を塞いでくる。

 闇一色の眼が俺を捉え、カッターと共に圧力を掛けてきた。、


「お兄ちゃん、書けばこの前の事……水に流してあげるけど?」

「書きます。だから殺さないで!」

「なら早く記入して?」


 殺人を何故か否定しないマリーは未だキリングモードで待機している。

 両腕の拘束を解いてもらった俺は、その婚姻届の最後の枠を埋めた。


 もう俺の人生はマリーと一生を迎える事が決まってしまった。

 回避するためにはこの紙を破棄せねばならない。


 無論、そんな事をすれば俺の生涯は短いものとなってしまう。

 詰んだわ、俺の人生。

 誰か代わってくれ。


「お兄ちゃん、マリー今とっても幸せだよ!」


 満面の笑みで、はしゃぐマリーの姿はとても可愛らしい。

 しかし大切そうに抱いているのが、婚姻届なのが何とも言えない気分にさせる。


「それは良かった。もし差し支えなければ次は足の拘束も解いて頂けると恐縮です」

「それはダメだよ、というか腕出して? 再度縛るから」


 ――自宅なのにまるで監禁施設にいる様だった。

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