第四話 校門前で先輩と話した俺は、妹に追いかけられるのでした

 電車を降りて高校に着くと、入り口付近に生徒会や先生やらが待機していた。


「そういや今日は服装検査の日か」

「そうだねお兄ちゃん」


 入学式が終わり数週間。

 学校に慣れ、制服の着崩しが生じてくる頃だ。

 服装の乱れは心の乱れ、そう思っての検査なのだろう。


「まっ、俺には関係ないけどな」

「お兄ちゃんの着替えはマリーがしてるしね!」


 そう。

 俺はこの歳になって、マリーに着替えを手伝ってもらっている。

 ――しかしそれは俺の意思ではない。


 今年の四月から、マリーは俺と同じ高校に通う事なった。

 その日からマリーが『一緒の学校なんだから、着替えも一緒にした方が良いよね!』と、意味不明な理由で言ってきた。

 別に自分で出来るので、手伝いはいらないと断ったのだが――。


「お兄ちゃんもしかしてマリーに何か隠してる? だから嫌なんでしょ? だってやましい事がないなら、そんな事言わないよね? マリーに嘘や隠し事をしてるってことだよね? 嫌だな――お兄ちゃんをしつけしないといけないなんて良心が痛むよ」


 着替えの手伝いを断った筈が、何故かマリーに隠し事をしている話にすり替わってしまった。

 こうなるとマリーは何をするか解らないので、俺は仕方なくその『手伝い』を受け入れた。


 それからは毎日マリーにお世話されている。

 特にネクタイを結ぶのが気に入っている様に見えた。


 それにしても、毎度のことだが『躾』とは何をされるのだろうか。


「あ、君こっちに来てくれる?」

「はい」


 生徒会の腕章を付けた、小柄な銀髪女子の元に向かう。

 緑色のリボンという事は、一つ上の学年だろう。


 うちの高校はネクタイとリボンの色で学年分けしている。

 赤が一年、青が二年で緑が三年だ。

 服装をチェックしてもらうと、銀髪先輩が驚いていた。


「うん、着崩しや指定外のワイシャツとかではなさそうだね。二年生になってもそれだけ真面目に着こなしてるなんて、カッコいいねー」


 そういった先輩は俺の肩に優しく手を置き、可愛くウインクしてきた。

 俺はそれにドキッとしてしまい、顔を赤くする。

 その反応を見た先輩は、今度はニヤケ顔で俺を弄ってきた。


「もしかして照れちゃった? 今時そんなウブな反応する子、なかなか居ないからレアだね〜」


 見た目はお淑やかな銀髪女子なのだが、性格は少し子悪魔系のお姉さんな様だ。

 ――そのギャップに堪らなく萌える。


「お、俺は金神藤麻です」

「藤麻君だね。よし覚えたよ!」

「お兄ちゃん!」


 銀髪先輩と話していると、背後からマリーが抱き付いてきた。

 脇から顔を出し、先輩を睨むマリーの姿は完全に敵意剥き出しである。


「お兄ちゃん、検査が終わったならいこ――変な虫が寄ってこないうちに」

「虫とはもしかして私の事かな?」

「……」


 おいおい、シカトはダメでしょマリーさん。

 そして苛立っているからって俺の身体を強く締め付けるのはやめて下さい、腹から二つに千切れそうです。


「ま、マリー。先輩だぞ?」

「お兄ちゃんもしかしてあの害虫の事庇うの? なんでかな、もしかしてお兄ちゃん何かされたの? 普段だったら絶対マリーの事を裏切らないのに――あ、そっか。検査の時に何か注入されたんだね? 大丈夫だよお兄ちゃん、今キレイするから」


 ヤンデレ特有のマシンガントークが終わると、何処からか取り出したカッターを俺の肩に近づける。

 その奇行に俺は後ろに下がりながら、右手に持つカッターの用途を質問する。


「マリーさん、それは何をするためのカッターなのですか?」


 俺の問いかけにマリーは笑顔になる。

 その顔を見て、どんな回答が来るのか何となく察した。


「これはねお兄ちゃん。さっきそこの虫に触られたでしょ? だから寄生虫が侵入したんだよ。そのせいでお兄ちゃんは、正常な判断が出来てないんだよ。だから手遅れになる前に――カッターで開いて取り除こうって事だよ!」


 予想と回答が見事に一致した。

 というか毎度の事だがどこからカッターを取り出しているのだろうか。


「それじゃあ、お兄ちゃん。そこ――動かないでね?」

「断る!」


 押さないでって書かれたスイッチがあったらどうする?

 そりゃ押すでしょ。


 カッター持って『今からお前を切る』って言われたらどうする?

 ――そりゃ逃げるでしょ。


 逃亡した俺を、マリーは全力で追いかけてくる。

 そんなよく分からない、俺ら兄妹のやり取りを銀髪先輩は、ニヤニヤしながら見ていた。


「藤麻君か、面白い子だな〜」

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