第三話 電車で座っていた俺は、妹に敷かれるのでした
地獄の様な朝食を終えた俺は、マリーと共に学校に向かっていた。
俺たちが住む地域には高校が無いため、四つ先の駅にまで行かなければならない。
そうすると必然的に徒歩か電車の二択になる。
徒歩で向かうには遠過ぎる距離だと考えた両親は、自分達が海外出張で何もしてあげられないからと仕送りを少し増やしてくれた。
それを使って俺ら兄妹は電車通学をしているという訳だ。
「今日の朝は幸せだったなぁ」
「俺は疲れたよ……」
「お兄ちゃんが喜んでるのは知ってるんだからね!」
「まあ女の子のあーんは嬉しいけど……」
いつもの時間にホームに着き、話しながら電車が来るまで時間潰し。
後からきた人々が後ろにどんどん並んで行き、ホームは人で溢れかえった。
少ししたら男性の声でアナウンスが流れる。
『まもなく、〇番線に電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください』
アナウンスの数秒後に電車がゆっくりとホームに停車する。
下車した人たちを確認したら車両に乗り込み、空いていた角の座席にすぐ様腰を下ろした。
「今日は空いてて良かったね」
「だな、電車通学は通勤ラッシュがネックなんだよな」
徒歩の通学は人混みを気にせず登校できるが、自宅が遠いと時間によっては遅刻する恐れがある。
電車通学は基時刻表通りに電車が来るので、決まった時間に乗り込めばものの数分で目的地に到着できる。
しかし通勤ラッシュがとても億劫だ。
これがあるからわざと徒歩や自転車にする者も出てくる。
一長一短だな。
「今日も人でいっぱいだね……」
どこの誰に説明しているかわからない俺に、マリーがうんざりそうな顔で話す。
この駅はいつも大人数が乗車してくるのだ。
ここで満員電車が出来上がり、俺たち男どもはセクハラ容疑をかけられぬ様ホールドアップして目的地まで乗らなければならない。
しかし今日の俺は違う。
ベストな角席を獲得し、この満員電車で降伏のポーズをとる男共に俺は優越感を抱いていた。
(ふふ、やはりすぐ角の座席を取ったのが大きかったな。リーマン達には悪いが、その調子で頑張ってくれ給へよ)
「ママ〜、足つかれた〜」
「しょうがないでしょ、お席空いてないんだから」
「やだー、座りたい!」
よこしまな考えをしていると目の前の子どもが、不満を漏らしていた。
それを見たマリーは天使の様な笑顔で子どものお母さんに声をかける。
「良かったらここどうぞ!」
「良いんですか?」
「はい、構いませんよ!」
「すみません、ありがとうございます!」
そう言ったマリーは俺の前の空いている空間に立ち上がり、子どもに席を譲った。
申し訳なさそうに感謝する母親にマリーは笑顔で対応する。
マリーは大の子供好きなのだ。
例え自身が疲れていようが、泣いている子供を見ればどうにかしてあやしてやり、迷子の子がいれば一緒に親を探してあげれる優しい心の持ち主だ。
そんな子供には優しさいっぱいのマリーだが、立った直後に疲れた顔を覗かせる。
――やっぱり立つのは嫌だったんだな。
(このまま立ちっぱなしは疲れるよ……)
(可愛い子供の為だろ、我慢しなさい)
ヒソヒソと横の親子に聞こえない様に話す。
優しい高校生を演じた代わりに、疲れを負うことになったマリーは俺に不満を吐いた。
(お兄ちゃん、座らせて?)
(しょうがないなぁ……)
(あ、そのままでいいから)
(は?)
不可解な発言をしたマリーは、その場で回れ右をしてゆっくりと腰を下ろそうとする。
――俺の太腿の上に。
「ちょっとマリーさん!?」
「……どうしたのお兄ちゃん?」
疲れた顔をしたマリーは、俺の声掛けにより動きを止めた。
「変わってやるから少し待て!」
「もう限界……えい!」
可愛い掛け声と共に、俺の太腿にマリーは腰を下ろした。
思春期真っ盛りである俺は、綺麗なラインのマリーの桃尻で興奮してしまった。
さらに目前にある、その美しい金髪から漂うシャンプーの匂いが俺の脳を刺激してくる。
それに自分の息子が反応して、ぐんぐん大きくなる。
それを悟られまいと必死に他の事に意識を向けながらマリーに退く様に伝えた。
(マリー! 一旦退いてくれ!)
朝からイチャイチャしている俺らを、周りの乗客者は皆同じ表情だ。
苛立ち一色である。
この状況を何とかしようとマリーの肩を叩く。
(でも今立ってお兄ちゃんはいいの?)
(何がだ!)
呼ばれたマリーは上半身だけ捻り、興奮している俺に囁き声で話す。
(その大きくしたアソコを見られていいの?)
――バレていた。
今一番隠し通したかった事が、最初から知られていた。
マリーに欲情してしまった事が、そのマリー本人に気づかれていた。
羞恥心と情け無さで涙が流れ出てくる。
こんな泣き顔誰にも見られたくないので、俺は顔を下に向けて隠した。
そんな俺の両腕をマリーは優しく握ってくる。
指を絡ませ恋人の様に繋いでくれる。
俺はそれに何故かとても安堵した。
そして最後にマリーは自身に抱き着かせる様に俺を引っ張った。
「!?」
「辛かったらマリーに抱きついていいんだよ?」
「……」
「顔を背中に埋めて、声を殺して――泣いていいんだよ?」
そう告げるマリーの声音はとても優しく、絶対的な安心感に包み込まれる。
最後のプライドが崩壊して柔いマリーの身体を抱きしめて、泣きじゃくった。
「うぅ、ひっく……」
「よしよし……いい子いい子」
自身の腹部に回された俺の手を優しく撫でてマリーは俺を宥める。
その優しさで更に感情が高まる。
男としてのプライドや世間の目など気にせず、ただマリーの慈しみを感じた。
弱った俺にマリーは自分の小さな背中を貸して泣きつかせた。
その光景は最早姉弟である。
一通り泣いた所で、目的の駅に電車がゆっくり減速する。
落ち着きを取り戻した俺は、マリーから離れるが、最後にマリーは意地悪な表情をした。
(可愛かったよ、お兄ちゃん)
その言葉に怒りやら恥ずかしさやらの感情が湧くが、二人で立ち上がった時に指を絡めてくるマリーにドキりとしてしまった。
俺らの奇行を見ていた周りの乗客者は全員ドン引きしていた。
その間を通って俺らは下車する。
座っていたはずなのに、朝から疲れた。
それは徒歩にしようか悩んでしまうほどだった。
未だ手を離さないマリーはとても嬉しそうな顔をしている。
そんな顔を見た俺は、不思議と少しだけ口角が上がった。
そしてこの電車での出来事が、実はマリーによる計画であった事を、この時の俺は知る由もなかった。
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