第二話 普段通り起床した俺は、横にいた妹の存在に気付くのでした
部屋の窓からは朝を主張するかの如く、お天道様が光を送り込んでくる。
その暖かな光に、俺は覚醒を促された。
しかしこのまま二度寝しようと思い、カーテンを閉めようとするが――腹に細くしなやかな腕が巻きついている事に気が付く。
俺が動いた事に気付いた本体は、目を覚まし、体を伸ばして
「ふわっ……おはようお兄ちゃん」
「おはようマリー」
その正体は俺の妹、マリーだった。
少し深みがある黄金の瞳は全ての男たちを魅了し、糸の様にその細い金髪は手入れが行き届いて枝毛が一切ない。
眩しいほどに光輝くその姿は、正に幻想的なものに思えた。
天は二物を与えずとは言うが、マリーは二物以上確実に授かっていると思う。
しかしそんなマリーに俺は大きなため息を吐いた。
「また俺のベッドに潜り込んだのか……」
「お兄ちゃんだってマリーの温もりを感じて寝たかったでしょ?」
「いや、普通に暑いから」
「か〜ら〜の〜?」
俺の額に、細く白い人差し指で小突いたマリーはニヤリと笑い俺を煽ってくる。
うざい、うざ過ぎる。
なぜ朝からそんなテンションで接する事ができるのか。
もはや賞賛に値する程だ。
少し腹が立ったので俺はマリーに一般論を唱えた。
「俺たち兄妹も今や高校生、一緒に就寝するなんて普通だったら恥ずべきことだろう?」
「……それはお兄ちゃんは、マリーと寝るのが嫌だって事?」
その言葉を口にした後、俺を見ていたマリーの輝く金色の瞳から光が消え失せ、瞳孔が大きく開く。
それと同時に大量の冷気がマリーから漏れ出した。
――やばい、地雷を踏んだかもしれない。
「い、いや……そんな事はないぞ? お兄ちゃんもマリーと寝れて幸せな気分だったさ!」
「……」
一応本当の事を言ったつもりだが、マリーの目は依然暗黒に染まっている。
このままだと血を見る事になるのは間違いないので更に続ける。
「こんな美少女と一つ屋根の下で夜を共にしてる事を幸福と呼ばず何というか!」
「……」
「そ、それを拒む愚か者にはきっと天罰が下るだろう……俺はそう思う!」
「……」
圧倒的なマリーの眼力に呼吸が停止していた事に気づき、急いで酸素を脳に供給する。
この冷えきった部屋の真ん中で、未だ冷気を発しているマリーだが、俺の言葉を聞き終えると漸く《ようやく》笑顔を見せた。
「やっぱりお兄ちゃんはマリーが大好きで仕方がないんだね! それならマリーがこれからずっと……付きっ切りで面倒見てあげるよ!」
先程までとは打って変わって、マリーの瞳に光が宿っている。
それと同時に部屋の温度が一気に上昇した。
この子は温度を操作する能力者なのだろうか。
「いや、付きっ切りは……」
「何か言った?」
そう言ってマリーは何かを投擲する。
それは部屋の壁に貼ってある一枚の写真に刺さった。
更に言えばそれは俺が写っているもので、その投擲物――カッターは写真の俺の腹を見事に貫通していた。
もしや選択を間違えるとこうなるぞ、という事を伝えたいのだろうか。
俺は吹き出した冷や汗を拭いて慎重に言葉を選ぶ。
「何も発していません」
「そっか、それなら良かった。もしかして
躾とは何だろうか。
俺はこの人間社会でのある程度の作法や礼儀は心得ているはずだが、一体何を躾けられるのだろう。
「と……とりあえずマリー、悪いけど朝食の用意をお願いしてもいい?」
「そうだね、学校もあるし準備し始めないと」
こう言った物分かりの良さはマリーの長所だ。
「でもさっきの発言の責任はちゃんと取ってもらうよ?」
――物覚えが良い所も長所だ。
その後朝食はマリーの食べさせてもらう刑で終えるのだった。
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