ヤンデレでブラコンの妹に俺の生活が脅かされるのでした

スーさん

第一話 初体験の告白をされた俺は、妹に邪魔されるのでしたと

 俺こと金神藤麻かながみとうまは義理の妹――金神かながみマリーがいる。

 マリーを簡単に説明すると「整った顔と綺麗に伸ばした金髪が、風でなびく姿は正しく一輪の花」といった感じだ。


 高校生一年生になったマリーはその外見から数々の友達ができ、皆からは苗字の「金」や、その「金髪」と名前を合わせて「マリーゴールド」などと呼ばれていたりした。

 それが気に入ったのか、家ではマリーゴールドを愛情込めて育てている。


 ここでマリーゴールドの補足を少し入れておこう。

 キク科コウオウソウ属のうち、草花として栽培される植物の総称のことだ。


 花言葉は色によって変わってくるが、健康だったり、愛情だったりとマリーに似合う言葉ばかりだ。

 そんなマリーの兄である俺は高校生二年生になって、屋上にて人生初の「プロポーズ」を受けていた。



「金神藤麻君、あなたの事が好きです……付き合ってください!」

「えと……」



 初めての事で身体が硬直してしまい、上手く口が動かない。

 相手の子は可愛く上目遣いで俺を見つめて返事を待っていた。


 四月の暖かな風が、屋上のフェンスの隙間を通って肌を撫でる。

 過ごしやすい陽気の中、俺はその子の告白により顔が一気に熱くなった。

 恐らく今この屋上で一番温度が高いのは俺の顔だろう。


 告白されるのが恥ずかしく、そしてこんなに嬉しい事だなんて知りもしなかった。


 人生で最高の経験をさせて下さった神に感謝の祈りを捧げたいが、今は目の前の女の子に返事を返すのが先だと思い目を向ける。


 少し小柄でナチュラルボブのその子は誰が見ても可愛い方の部類に入るルックスだ。

 今回の告白も、自ら俺の元に来て「放課後……屋上でお話があります!」と直接伝えに来てくれた。


 このスマホが普及している時代、重要な話でさえメールや電話で話を終わらせようとする輩はごまんといる。

 そんな中こんなに可愛く積極的な子がいるなど知りもしなかった。


 実は隣クラスらしいが存在を知ったのは今日が初めて。

 ぶっちゃけどんな子なのか分からないので少し怖かったりもする。


 けれど俺のことを好きになってくれた子だ。

 その期待に応えるべく、人生初の告白の返事をしようと決意する。


 しかしそのタイミングで――屋上の入り口から一人の少女がこちらに近づいて来るのが見えた。


「お兄ちゃん、そいつ……誰?」


 いきなり登場した声の主が俺に問う。

 その瞬間世界の色が消え、場の温度が一気に下がった感覚に陥る。

 ――実際俺の体温が急激に下がり、平熱を下回った。


「ま、マリー……」

「もう一度聞くよ、そいつ……誰?」

「えぇ……と」

「わ……私は藤麻の隣のクラスの者で、たった今告白しました!」


 マリーに圧倒されてビビり散らかしながらも、その子は慌てて状況の説明をした。

 しかしマリーはつまらなそうに口を開く。


「貴方には聞いてない」


 ただ一言、そういって俺に接近し始めた。

 そして目の前に到着した後、俺のネクタイを握って女の子に告げる。


「お兄ちゃんにはマリーが居るから貴方は必要ないの、わかったら今すぐこの場から消えて」

「え、えと」

「十、九……」

「は……はい、すみませんでした!」


 そういって俺に好意を寄せてくれた女の子は、この美少女によって呆気なく退場させられた。


「お、俺の初体験が……」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「マリー、何でこんな残酷な事が簡単にできるんだよ……」

「だってお兄ちゃんの寵愛を受けるのはこのマリーだけで十分だもん。他の雌なんて必要ないでしょ?」

「め、雌って……」


 マリーは俺が女子と関わると酷く人格が変わる。

 それは俺を他の女子と親密な関係にならぬ様芽を潰し、俺に好意を持ったと思われる人間にはあらゆる手段を持って妨害するほどの恐ろしい変化だ。


 そんな中で、今回の告白はマリーの監視下を上手く潜り抜けた様だったが、最後には本人が直接乗り込み失敗に終わったのだった。


「じゃあ用事も終わった事だし、マリーたちの愛の巣に帰ろ?」

「親が海外出張で、偶々たまたま二人で住んでるだけだけどな」

「それでも今は二人っきりだよ、お兄ちゃんだってこんな美少女と一緒に夜を共にするなんて光栄でしょ?」

「まあ、悪い気はしないけどさ……」


 そんな事より先ほどから腕に抱きつくのは良いんだが、力が入り過ぎてるのか身体の血液が上手く循環していない。


 恐らく先ほどの告白時の俺の反応を見て激怒しているのだろう。

 なんでこんなに可愛い顔して力が俺より強いのか不思議でならないが、そろそろ本気でやめさせないと腕が壊死してしまうのでマリーに離れる様伝える。


「マリー、お兄ちゃんの腕がこのままだと使い物にならなくなる。最悪右腕断ち切らないといけなくなるから離してくれないか?」

「そうなった時は面倒見てあげるよ!」

「いや……」

「大丈夫……どんな事があってもマリーが一緒だよ!」


 俺は諦めてこれ以上の事が起きない様にとただ神に祈った。

 すると祈りが届いたのかマリーの締め付けが緩み、右腕に温かさが戻る。

 そしてその後は二人で屋上から教室に戻り、バッグを手にして自宅に帰るのだった。



 因みにマリーゴールドの花言葉はまだある

「嫉妬」「絶望」「憎しみ」

 どれもマリーによく似合っている言葉だった。

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