後始末
「
『制圧はパパっと終わったッスよ。ただ、エルフの記憶容量がでかいせいで、関係者全員の記憶改竄には少し手間取ってるッス』
「わかった。戦闘の痕跡を消し次第、そちらに合流する」
『了解ッス!心よりお待ち——』
グライファーがまだ何か言っていたが、ハルは通信魔法を切り、折れた神器を回収している少女に視線を向ける。
少女は既にフードを外しており、短く切りそろえられた銀色の髪がキラキラと輝く。エメラルド色の瞳を持ち、整った顔立ちは多くの人の目を引き付けただろう。
「エミリア、神器の処分が終わり次第、お前はグライファーのところに向かえ。あとは俺がやっておく」
「了解しました、隊長」
エミリアは集め終えた神器を一か所にまとめて置く。
右手を神器へとかざし、二、三言葉を紡ぐ。すると、エミリアの右手に白い魔法陣が展開し、そこから現れた白い炎が右手を覆う。
エミリアはその右手で神器に触れる。
白い炎は神器へと燃え移り、神器に込められた神気を吸収してより激しく燃え上がる。
「今回の相手、思ったよりも簡単でしたね」
徐々に崩れていく神器を見ながらエミリアはハルに話しかける。特に理由はない。ただの暇つぶしだ。
「……
「えーと……確か、異世界の男神、フレイの召喚でしたっけ?」
「そうだ。あれを召喚されていたら、俺たちの内片方を犠牲にする必要があっただろう」
「…………」
淡々とそんなことを言うハルをエミリアは嫌そうな顔で見る。
「……隊長、そういうことは言わないでください」
「何を言ってる。俺たちの戦いに犠牲は付き物だ。前回の戦い、一人を切り捨てられなかったせいで、何人死んだかわかっているだろう」
「…………」
「切り捨てることができなければ英雄になってもすぐにすべてを失うぞ」
ハルの言葉にエミリアは顔をそらす。
それからは互いに何も話さないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
いつの間にか神器は消滅し、役割を終えた炎も消えていた。
「…………では、私は先に行きます」
エミリアはそう言うと、森の中へと姿を消す。
ハルはしばらくじっとしていたが、気配が完全に消えた後、残った作業をし始める。
魔法を使ったときに発生する魔力のゆがみ、それを周囲の魔力になじませ、元に戻す作業だ。
魔力のゆがみは見える人が見れば、術者はおろか、現在の所在地までもが知られてしまう。
敵対勢力にバレれば一巻の終わりだ。
(久しぶりにやったけど……意外とできるものだな)
作業を終えたハルは少し昔を懐かしむ。しかし、同時に思い起こされた悪夢がこれ以上過去を思い出すことを拒む。
(……そろそろ部下も補充しないとな)
ハルは雑念を払うかのように頭を横に振り、合流地点へと歩き出した。
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