第二の襲撃者

「ハァ……ハァ……」

「ハァ……ハァ……ハァ……キョウヤ様……少し、休ませてください」

「わ、悪いリザ。でも急いでこの森を抜けないと……」


 俺はその場にへたり込んでしまったリザを急かすが、自分自身もそれなりに体力を消耗していることに気づく。


「……そうだなもう三十分も走り続けてるし、少しだけ休もう」

「すみません、キョウヤ様。足を引っ張ってばかりで」

「そんなことないよ。リザがいてくれなかったら疲れで途中で倒れてたかもしれない」


 俺はリザの隣に座り一息つく。しばらくの間沈黙が続いた。それを先に破ったのはリザの方だった。

 

「……メル、無事ですよね?」

「……大丈夫だよ。あの人は強い。隙を見て逃げてるさ」


 俺はリザを安心させるためにそんなことを言う。だが、それが厳しいことだと俺自身が諦めていた。


「……さあ、そろそろ行こう」

「……うん、そうですね――キョウヤ様、上!」


 俺とリザが立ち上がろうとした時だった。

 何かに気づいたリザが俺を突き飛ばし、その反動でリザも反対側に避ける。

 直後、先ほどまで二人がいた場所に何かが落下してきた。

 それは人だった。先ほど遭遇した襲撃者と同じ格好をしていた。

 違う点は、その襲撃者は俺とそう変わらない身長であるにもかかわらず、自身よりも巨大な剣を二本も手にしていたことだった。


「――ッ!新手か!」


 メルフィスが言っていた言葉を思い出す。


「(あの襲撃者が待っていた理由……これだったのか!)リザ、援護を!」


 俺は勝利の剣シアゲシュバートを抜き、襲撃者に切りかかる。同時に、リザが攻撃魔法の詠唱を始める。


「ハァァアアアアッ!」

「…………」


 襲撃者は片手で軽々と大剣を振るい応戦。

 何度か剣を打ち合わせるが、剣の重量差のせいか、両手で振るっているにもかかわらず俺の方が弾かれる。


「くっ……重い……」


 弾かれ、態勢を崩す俺に、襲撃者は容赦なく襲い掛かる。


「ライトニングカノン!」


 ちょうどその時、リザの魔法が完成し、リザの前方に魔法陣が展開。そこから放たれた雷撃の奔流が襲撃者を襲う。

 しかし、襲撃者はそれを見ずに軽々と回避してしまう。襲撃者はそのまま攻撃対象をリザへと変える。


「――――なっ!」

「リザ!」


 俺は魔力で身体能力を強化させ、リザと襲撃者の間に割って入る。

 振り下ろされる大剣。

 俺は剣を斜めに構えることで受け流そうとする。だが、威力を殺しきれずにリザもろとも吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。


「カハッ……」

「グッ……」


 倒れ伏す俺たちだったが、痛みを堪えてなんとか立ち上がり、襲撃者に向き直る。

 しかし、俺もリザもこのままでは勝てないと理解していた。


(この場を切り抜けるには……〝アレ〟を使うしかないのか……)


 しかし、俺にはしかし、一つだけこの状況を打開できる策があった。

 

(勝利の剣の特殊能力アビリティ……その起動時間さえ稼げれば……)


 俺はリザに合図を送ろうとした時だった。

 襲撃者の背後の森から何かがゆっくりと近づいてくるのを感じた。

 見ると、木々の隙間からほんの少し差し込む光が金色の髪に反射する。


「――ッ!メル、無事だったのか!」


 メルフィスが来てくれたのなら、特殊能力の発動の時間は何とか稼げる。そんな希望が俺の中に芽生える。

 はずだった――


「――――――メ……ル……?」


 現れたメルフィスの姿を見た俺とリザは言葉を失った。

 全身のいたるところに深い傷を負い、美しかった顔は既に原形をとどめておらず、口には猿ぐつわがはめられていた。

 呆然とする俺とリザ。だが、それだけでは終わらなかった。

 よく見ると、メルフィスのすぐうしろにもう一つの影を見つけた。

 それが、最初に現れた襲撃者だと気づいた瞬間、俺の顔には絶望の表情が浮かんでいた。

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