襲撃

「――ッ!キョウヤ様、姫様を!」

「――リザ、掴まってろ!」

「きゃっ――!」


 馬車の真下に出現した魔法陣か起動する前に俺たちは馬車から脱出する。

 直後、魔法陣が起動し、馬車を完全に飲み込むほどの火柱が上がる。

 火柱は馬車もそれを引いていた馬も一瞬で炭化させた後、何事もなかったかのように消える。


「くっ……リザ、メル、大丈夫か?」

「え、ええ。私は無事です」

「少し肌を焼かれましたが問題ありません」


 全員の無事を確認して安堵する俺たちだったが、すぐに周囲を警戒する。


「リザ、今の魔法は……」

「……わかりません。恐らく、通りかかったら発動する魔法だったのでしょうが……」


 この中で魔法に関する知識が最も豊富なリザであったが、その彼女でさえ見たたことがないほど、今の魔法は強力だった。


「ともかく、追撃がないのは幸いです。この魔法を使った術者が来る前に、ここから――」

「――ッ!危ないっ!」


 この場から離れようと、メルフィスが提案しようとした時だった。

 森の奥から三つの氷塊が高速で飛来する。

 俺は咄嗟に、二人を守るように飛び出し、腰に差していた勝利の剣シアゲシュバート抜き、振るう。

 幸い、氷塊はすべて横並びに飛んできたため、一度に破壊することができた。


「誰だ、姿を見せろ!」


 すぐにメルフィスも腰に差した剣を抜き、リザも魔法の詠唱を始める。

 襲撃者はすぐに表れた。

 森の中から現れたのは黒いフードを深くかぶった人物だった。しかし、その体から溢れ出す魔力の多さが、このがただ者ではないと物語っていた。


「先ほどの魔法、貴様が放ったものだな。何のつもりだ!」


 メルフィスが剣の切っ先をその人物に向ける。だが、相手は一切の動作をせずにこちらを見ている。

 誰も動けずに時間だけが過ぎていく。


「……キョウヤ様、姫様を連れてお逃げください」

「な、なにを言っているんだ!お前を置いていくわけないだろ」

「そ、そうですよ!メルを置いていくなんて……」

 

 メルフィスの突然の提案に反対する俺とリザ。しかし、メルフィスは首を横に振る。


「あの襲撃者、何かを待っています。下手に時間をかければ相手の思うつぼです」

「だったら三人で倒した方が……」

「あれだけ膨大な魔力の持ち主を三人で倒せると思いますか?」

「…………」


 メルフィスの言う通りだった。

 ここにいる三人ではあの襲撃者を倒すことはできない。俺自身もそれは感じ取っていた。

 

「姫様の逃げる時間は何としても稼ぎます」

「メル……」


 リザが泣きそうな顔でメルフィスのことを見る。メルフィスはそんなリザに優しく微笑みかける。


「姫様、生き延びてくださいね。キョウヤ様、姫様を頼みます」

「……分かった……リザ、行こう」


 俺はうつむくリザの腕を引き、振り返らず、ただ暗い森を駆けるのだった。

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