ある一人の転生者

 俺は、暗い森の中を走る一台の荷馬車に乗っていた。

 俺、水鏡恭也みかがみきょうやがこの世界に転生したのは今から一か月前のことだ。

 昔から異世界というものに憧れていた俺にとって、魔法というものがあり、魔物や亜人といった存在がいるこの世界は本当に求めていた世界だった。それに――


「キョウヤ様、どうされたのですか?」

「いや、何でもないよ、リザ」


 俺は隣に座る一人の少女を見る。

 腰まで伸びた長髪は金色に輝き、深い青色の瞳は吸い込まれそうで魅力的な少女だ。

 この少女は、アニメやゲームで言われているような美形が多いエルフであり、エルフの王国、エーデルガルド王国の第一王女、リザ・エーデルガルドである。

 彼女と出会ったのは俺がこの世界に転生してすぐのことだった。

 魔物に襲われていたリザを、転生の際に神様から与えられた金色に輝く神器『勝利の剣シアゲシュバート』で救ったことで交流が始まった。

 その後、エーデルガルドに連れてこられた俺は、なんだかんだあってリザを連れ立って世界をめぐる旅をすることになった。

 今はちょうど、エーデルガルドを囲む『黒の森』を抜けようとしているところだ。

 

「行きも思っていたけど、名前が黒の森って言うだけあって雰囲気が暗いな。正直、一人だと迷いそうだ」

「実際、王に認められた者以外がこの森に入ると永遠に迷い続けますよ」


 御者台から凛とした少女の声が聞こえてくる。

 見ると、そこには短髪だがリザと同じ髪の色、同じ瞳の色のエルフ少女がこちらを見ていた。

 彼女の名前はメルフィス・ミーレン。リザの従者であり、俺たちと旅をする仲間である。

 

「へえー、天然の要塞なんですね。道理で城で武装してる人が少なかったわけだ」

「ええ。だから、ここでは肩の力を抜いていても平気ですよ」

「――!ばれてましたか……」


 小国とは言え、お姫様を護衛しながらの旅である。元の世界で一般人だった俺としてはかなりの重荷だった。それをメルフィスは察してくれたのである。

 

「心配してくれてありがとう、メルフィ――メル」


 俺は不満げな目をしたメルフィスを見て言い直す。何故かは知らないが名前で呼ばれるのが好きではないらしい。


「もう森の半分を越しました。あと一時間もすれば森を抜けます。それまでは――」


 その時だった。真下から巨大な魔力の流れを感じたのは――

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