計画を立てる
神々は全部で八神いるとされる。
それ以上いてもおかしいのかおかしくないのかは知らないが、ずっと昔の文献から八神と言われているのだから、そうだと判断するしかない。
ゆえに、今回リーデリアが消すと目論む対象もそれくらい。エイデンを除けば、七か。
人であれば排除するのは容易だが、神はそうもいかない。
一柱一柱が、遥かなる力を持っている。
魔術に理論が不可欠なのに対し、絵本に出てくるような、理論も何もなく願う全てを叶えるような「魔法」は神々の力を描いていると聞いたことがある。
大体、学院に現れた神々から感じ、発された力だけで人はあのようにも簡単に吹き飛んだり、威圧されるものなのだ。
人間と同じ物差しで比べてみるとしても、エイデンが人間が使っていた魔術を知らなかったが、発動の仕方をすぐに飲み込むと、あの力だった。
魔術師として比べてみても、力の差は歴然としている。
リーデリアは、研究棟の部屋で机を前に考え事をしていた。
家の方には戻っていない。
戻らなくとも、食事は厨房に言っておけば作ってくれるし、寝室もあるし、水浴びも出来るし、と不自由しない。
部屋の中には一人、扉には立ち入り禁止のプレートを下げているから、普通なら誰も入ってこない。
普通なら。
「やあ、リーデリア」
神は躊躇なく入ってくる。
声に振り向くと、変わらず少年姿のエイデンがいる。
「探検は十分したのか」
「ひとまずはね」
王宮の敷地内を見学し回っている神は、リーデリアの机を覗き込んだ。
「何をしているんだい?」
「ああ、八柱……いや、きみを除いて七柱の神々を消すための手段を考えていた」
神々を消す。
エイデンを対象としていないのは、彼がここにいるからというばかりではなく、別の理由があった。
「六だよ」
「え?」
数を訂正された。
「六? 神々は、きみを入れて七柱、だというのか? 人間に伝わっているのでは、八柱となっているのだが……間違って伝わっているということか?」
まさか少ないとは思ってもみなかった。だが、一柱多く見積もった理由とは。
単純に、神々が揃ったところなんて見られないから、数え間違えたとかか。
「そうじゃない。だけれど、この世界を作った創世神はもういないから、今数えるなら六だと言っているんだ」
「……いない?」
「うん」
いない? ともう一度聞きそうになった。
この世界を創ったと言われる「創世神」がいる。世界を創ったその神が最高神ではないのは、最高神たる神が創らせたと言われているからで……。
「世界を創って、消えたんだよ。正確には姿を見なくなっただけだから、どこかで寝ていたりするのかもしれないけれど、もういないも同義くらいには見ない」
「そんなことが、あるのか……?」
「さあ?」
さあ、って。
「それはそうとして、六柱を消すための何かいい案は浮かんだのかい?」
さらっと話を流して、エイデンは椅子に座りながら自然に尋ねてきた。
神が、神を消すためのと言うと、違和感めいたものを感じる。
奇妙な心地になりつつも、リーデリアは正直に進捗を答える。
「今のところは魔術を空に打ち上げることくらいか。それから神々がいる天に上がって攻撃できればなおよし」
「いくらお前が人間にしては力を持っていると言っても、複数の神相手では殺され、天から落とされるがおちだよ」
「そうだろうな。だが、不意を突けばやれないこともないだろう。──それに、やらなければならない」
そのために自分は、この世界に留まっている。
必要ならば、新しい魔術式を開発しよう。
エイデンは呆れたようにした。
「私が協力しようと言っているんだ。最大限に利用してみようとは思わないのかな?」
「……それなんだが、エイデン。なぜきみは協力してくれる」
神を消すと宣言したときは「頑張って」と言い、現在は相談に乗る真似をする。
神なのに。
意図が読めず、とうとうリーデリアは直接問う。
そうすると、神は、笑った。聞いてもらいたかったことを聞かれたように、子どものように笑った。
「神に神を殺すことは出来ない」
「……どういうことだ」
「私はねえ、リーデリア。他の神々に飽き飽きしていたんだよ」
酷薄な声音に聞こえたのは果たして気のせいか。今は碧色をした目が冷たくなったのは。
リーデリアは、言葉を継げなくなる。
「言うことを聞かない神、我が儘な神──この際いてもいなくても同じだ。それに、お前といて、人間は大変迷惑しているらしいと分かったからね」
麗しく、神は肖像画にでもなりそうな慈悲深く見える微笑みを浮かべた。
「ぜひ、一掃してくれたまえ」
──これが、この神が考えていたことだった。
「何がしてくれたまえ、だ。それでいいのか」
「いいよ。直接は手にかけられないから、間接的に全力で応援しようとも」
「……きみのことをましな神だと思っているのが、正しいのか分からなくなってきた」
狙いが分かり、リーデリアは驚きを隠せない。
しかし一方で、今まで理由が分からなかったが他の理由で納得していたことの答えを見つけた。
「きみは、だから最初にわたしについて来ると言ったんだな」
「うん」
「
「そうだよ。私に攻撃してきたときに見た神への憎悪は、起きたときもそのままあったのに、どうも自覚していないようだったからついていって様子を見てみようと思ったんだ。可能性は十分すぎた。それに、人間の世界を直接体験するのも悪くなかったよ」
この神が、リーデリアに力を貸したり、最初は単に外を把握しに行く姿勢だったリーデリアについていくと言った理由。
人間の世界を見聞するという言葉に納得していた。馬鹿だったか。
しかし何においても、つくづく、軽く言う神だ。
「……まあ、その方がありがたいことには変わりない」
エイデンは敵には回らない、ということだ。
それどころか、神には神は殺せないから、目的は同じであるリーデリアを手伝ってくれる。
「それで、早速だが、神に神が殺せないのであれば人間はどうやって神を殺す」
さっきの口振りでは、何か方法を知っていると言わんばかりであった。
だが、神であるエイデンが直接神を殺すという方法ではない。
人間であるリーデリアが、神を消す方法とは。
「支配される側とはいえ、世界を作った神がそんなに人間に無慈悲だったと思うかい?」
「……どういうことだ」
神は、意味ありげに笑った。
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