第6話 勇者 〜〜交流〜〜

「なあ、新入生代表の敷島ってこのクラスか?」


 そう言って教室に入ってきたのは、ガタイのいい見知らぬ男子だった。

 中を見回してわたしを見つけると、ズカズカ近づいてきた。


「敷島って、中1の時、北中の剣道部で先鋒やってたあの敷島だろ?」


「ああ、うん。そうだよ」


「なあ、どうして剣道辞めたんだよ? 俺、お前は全中に出るくらい強くなると思ってたよ。高校からまた剣道やらないか? 俺と一緒にさ」


「ごめん。俺、中1の終わりに交通事故に遭ったんだよ。怪我はもう治ったけど、膝がさ、踏み込むのが怖いんだ。剣道自体は辞めたわけじゃないよ。小学生の頃行ってた道場に今でも時々通ってる。でも、膝が気になってもう試合には出られないんだよ」


 わたしはいつもの言い訳を口にする。

 けれど、わたしはそのよそのクラスの男子より、山崎さんの視線が気になっていた。

 メンタルの弱い男と見下されたくない。

 そんな勇者らしくもない雑念まで見透かされたようで、わたしはいつになく動揺した。


「怪我……か。それじゃあ、無理には誘えないよな。俺はC組の工藤英二。よかったら今度、その道場に連れて行ってくれよ」


 剣士、と直観した。

 彼は、攻守に冴えた剣士だ。早いうちに取り込んでおきたい。


「ああ、こっちからも頼むよ。道場だと大人と子どもばっかりで同世代がいないんだ」


「ねえ、工藤くんもよかったらこのあとスタバ一緒に行かない? 入学式ならまだ部活もやってないでしょ?」


 空気を読んでいるのかいないのか、くるみが声を掛けた。


「C組なら、私の同中の子も呼んでいいかな?」


 断る隙を与えない絶妙なタイミングで山崎さんがかぶせてきた。

 先生と伊藤さんも教室に入って来たので、わたしたちはなし崩し的に放課後一緒に帰ることになった。


 山崎さん、くるみ、工藤くん、山崎さんの親友というC組の池田さん、そしてわたし

 ナントカフラペチーノとかラテとかのトッピングで盛り上がっている女子たちをよそに、わたしと工藤くんは本日のコーヒーのホット、トールサイズを頼んで席取りに向かう。


「なんか巻き込んじゃってごめん。くるみ、幼馴染みなんだけど、昔から人との距離感が近くて」


「かまわないさ。それよりもウチのクラス委員長の池田さんって堅物そうなイメージで、実際委員長とか超ハマってる感じだし、言っちゃなんだけどイケてる系の山崎さんの親友だなんて驚いたよ」


「一中じゃ、生徒会長やってたらしいよ、池田さん」


「いかにもって感じだな」


「山崎さんは生徒会役員じゃないけど、クラスが一緒で色々裏方手伝ってたんだって」


「人は見かけによらないって感じだな。山崎さんみたいなタイプってそういうの面倒がりそうなのに」


「工藤くん、けっこう失礼だね、ははは」


英二エイジでいいよ、俺もキリトって呼ばせてくれ」


「わかったよ、英二」


 そこに女子3人がやってきた。


「キリトくん、北中の生徒会長だったんだって? 千代子も三中で生徒会長やってたんだよ」


 山崎さんが池田さんを目で指し示す。


「うん、今ちょうど英二から聞いたとこ」


「すごいよねぇ、ふたりとも。それに工藤くんはカッコいいし、アスナちゃんは美人だし、私だけなんか普通の人だよ」


「そんなことない、ない。くるみちゃん、すごく可愛いじゃない。ねえ、工藤くん」


「あ、ああ。そうだな。癒し系っていうか。山崎さんは美人って感じだし、池田さんはキリッとしている感じだし、みんなそれぞれ個性があっていいと思う」


 英二、フォロー上手いな。

 こういうことをサラッと言えるところは見習わないと。


 英二は県大会ベスト8で全中には行けなかったとか、山崎さんはいじめられっ子にもさり気なく優しかったとか、池田さんが伊藤さんと正面切って戦った武勇伝とか……。

 気がついたらくるみが持ち前の距離感の近さでみんなの色んな話を引き出していた。

 LINEのアドレスを交換して、じゃあそろそろおひらきに、となって、わたしが市立図書館に寄って帰ると言ったら、山崎さんもなぜか一緒に行くことになって、スタバの前で解散になった。



【次話】 魔王 〜〜接近〜〜

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