第3話

田舎町に大司教が来る。その知らせを聞いた時、嫌な予感はあった。

前の大司教没後、三賢者から大司教が選ばれ、残りの二人がそれぞれ賢者の育成と、聖騎士隊の設立に従事し、賢者筆頭と聖騎士統括になった。


大司教は、新たな賢者二人と、聖騎士三人を連れて田舎町へ来た。

『何も無い町でせっかく落ち着いたのに、わざわざ騒ぎを起こしたくない。このまま素通りしてくれ…』

私の願いは、叶うことは無かった。

大司教は私とピノの顔を覚えていたのだ。今思えば、三年の月日が経つのに、全く身体が成長しないピノを見て、違和感を持たないわけが無かった。町の住人の一人が、厚意のつもりでピノの話しをしたのだ。

「大司教様、ウチの町に、成長の止まった子供がおります。その子がスクスクと成長出来ますように、神の祝福をお与えください。」

「それは可哀想に、是非その子に合わせてください。」

そうやって工房に案内される大司教一行。最早逃げるしか無い。私はピノを連れ、裏口から逃げた。

「おや?ご不在のようですね。その子の名は、なんと仰るのですかな?」

「はい。たしか…ピノという名前で。」

「ピノ…ピノ!まさか!親の名は?」

「ゼペットですが…」

「間違いない。皆手分けして探すのです!見つけ次第…討伐なさい!」

「と、討伐!まさか、ピノを殺すと仰るのですか!」

「理由は後で説明します。今はとにかく、行方を追ってください。見つけたら、気付かれないように、わたくしに報告していただきたい!」

「わ、わかりました。町の者にも声を掛けて来ます。」

「お願いします。」


それから、町の者総出で捜索がかかった。親交のあった者は、半信半疑である。もし見つけたら、こっそり逃がす事は出来ないだろうか…そう思う者も少なくない。あるいは、そういった町の人が見逃してくれたおかげで、私達は町外れまで逃げれたのかもしれない。


どれくらい走っただろうか、森の中で、木こり小屋を見つけた。

「ピノ、今夜はここに泊まろう。」

私は火をおこす事もせず、そのまま横になった。灯りや煙りで見つかることを恐れたからだ。月明かりすら届かぬ森の中で、私達は一夜を過ごした…


翌朝。小屋は取り囲まれていた。町の人達は帰されたのだろう、聖騎士の三名が周到に結界を張り、剣を構えている。じわじわとその距離を詰め、ついに扉に手をかける。

「ゼペットだな。抵抗はしない事だ。我ら聖騎士が来た理由、わかっているだろう。」

「あぁ、わかっているよ。だが其方もわかるであろう?親が子を守りたいと願う心が!」

「貴様!歯向かうか!」

その時、ピノが立ち上がり、聖騎士に正対した!

「ボクはただ、パパと穏やかに暮らしたいだけなの。誰も傷付けたくないし、傷つくのはもう嫌だ。おじさん達、お願いだから帰ってよ!」

「黙れ!悪魔の子よ、我らは騙されんぞ!」

躙り寄る聖騎士、後方では別の聖騎士が呪文の詠唱を始める。

「ダメ!それ以上近寄らないで!もう一人のボクが、目を覚ましちゃう!」

「もう一人のボク?」

そう言えば、私がピノの魂を呼び寄せた時、二つの光が螺旋を描いていた…まさか!ピノは一つの身体に、二つの魂が宿って居るのか…


後方の聖騎士が詠唱を終える。聖なる炎を手のひらに灯すと、ピノに向けて放った!

「やめろーっっ!!」

ピノは炎を躱すと、近くにあった斧を手にする。

「ダレダ、オレヲオコシタノハ!」

禍々しいオーラが立ち上り、ピノの声が変わった。髪は逆立ち、眼は赤く染まっている。

冷たい微笑みを浮かべ、無造作に斧を一振りした。

「ブシューーッッ!!」

先頭にいた聖騎士の、首から上が無い。噴き出す血の勢いに飛ばされ、後方の聖騎士の足元に転がった。

「や、やめるんだピノ!」

「ゼペット!オダヤカナクラシがシタイノだロウ。ナラバ、ジャマスるヤツをコロせばイイ!」

ピノはもう一振り斧を閃かせる!後ろに居た聖騎士を唐竹に割り、辺りに臓物を撒き散らした。その一振りの勢いで、斧の柄が折れてしまった。

残る最後の聖騎士は、小屋を出て逃げ出す。ピノは転がった聖騎士の剣を拾い上げると、逃げる聖騎士に投げた!

背中から胸を貫かれた聖騎士は、ドサリと倒れて動かなくなった。それを見届けたピノは、ニヤリと笑うとその場に倒れてしまった。

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