Mechanized Handler

sadistic solid sun

BRITTLE FRACTURE

 ヘルメットのバイザーに青い線で表示される作戦ルートの先、細い小道から大通りに出る曲がり角を一人の兵士が確認する。

 その後ろにはさらに三人の兵士がレンガ造りの建物に張り付くようにして並ぶ。


「ワン公、先行しろ」


《ワン》


 後ろで待機していた四足歩行ドローンが前へと移動。犬に似ているが、犬よりも装甲で胴と脚が太く、頭はないが代わりに正面には防弾カバーで覆われたカメラや複数のセンサーが収まっていた。

 見た目は首のない犬である。

 兵士はすれ違い様にそのドローンの背面装甲を撫でてやった。


「いくぞ。リー、後方警戒を怠るなよ」


 先頭から二番目の隊長が一瞬振り返り、リーを見てまた前を向いた。


「了解。オルトロス、ケツを守ってくれよ」


《オルトロス、了解。後方を警戒します》


 リーがバイザーの左下に視線を向けると、ヘルメット後方カメラの映像が表示される。

 映像診断システムがIFF(敵味方識別信号)を出していない人、車両、ヘリ等の存在をスキャン。結果をバイザーに表示。


[search:Clear]


 それをリーが素早く見ると前進する隊に続いた。


「ジョニー、十分遅れている。急げ」

「了解」


 先頭のジョニーが進軍速度を上げる。


《アーケロン、そちらに敵の車両が向かっている。注意しろ》


 作戦司令部からの通信がアーケロン隊に届く。


「アーケロン、了解」


 隊長が返答、作戦司令部が通信を終えた。

 戦闘で荒んだ大通りを四人の兵士と四機のドローンが駆け抜けていく。

 アーケロンの進行ルート上に民兵数名が現れるが、アーケロン隊には気付いておらず、気だるそうに歩いている。


「ジョニー、やりすごせ。ジャミング装置破壊前に見つかりたくない」


 仲間を呼ばれては厄介と判断し、隊長が戦闘ではなく迂回を選択する。


「了解」


 ジョニーが予定ルートの大通りから外れ、脇道に入る。それに合わせて作戦ルートが変更され、曲がりくねった道を青いラインで示した。

 部隊先鋒であるジョニーのドローン、コキュートスがIFFを発していない人間、敵と鉢合わせになる。パトロールをサボっていた民兵が銃を向ける前に飛びかかると、126kgの重量で押し倒し、前足で首の骨をへし折る。

 死体を踏みつけたままのコキュートスが周囲をスキャン、敵がいないのを確認、報告する。


《コキュートス、敵の制圧を確認。ルートクリア》


「よーし、よくやったワン公。引き続き進行ルート上の敵を排除しろ」


《ワン》


 ジョニーの指示にコキュートスが録音された犬の鳴き声で応じた。ジョニーによるカスタムプログラムである。


「今まで思ってたが、なぜそんな音声にしてるのだ?」


 分隊支援火器を担いだグレッグがジョニーに問う。


「ああ? あー」


 ジョニーが理由を思い出しながら、コキュートスの腰につけられたポーチからガムを出し、口に放り込む。


「犬が好きなのとこいつが犬っぽいからだ。ガムいるか?」


 アップルミント味のガムを噛みながら適当な返答をする。


「いや、いい」

「そうか、うまいのに」


 何度も曲がり角を曲がり、過去にシルクロードと共に発展し、紛争発生前まで賑わっていたであろう主要道路に出る。


「そろそろだ」


 隊長が呟く様な声で言うと、通信音声補正システムがより鮮明で聞き取りやすく修正された音声を流した。

 一本道の奥から数台の武装ピックアップトラックがやって来る。ハイテク化の進んだ現代において、ローテクで無駄に丈夫な日本車に機銃と一部に装甲を張り付けた代物である。


「司令部の言ってたやつですね。潰しますか?」


 グレッグがやや前に出て隊長と並ぶ。


「そうだな。そろそろ初めても良いだろう」


 ジョニーが足を止め、グレッグが隊の先頭に立つ。


「ハンター、敵車両を撃破しろ」


《ハンター、了解》


 ハンターのカメラ、レーダー、各種センサーが敵車両三台を捕捉、アームを折り畳んでいた背部後方グレネードランチャーを射撃状態に展開。

 FCSが弾道を計算、アームがランチャーを最適投射角に。


《マスター、危険です。あと一歩離れて下さい》


 グレッグが左に一歩離れる。


《ハンター、攻撃を開始します》


 グレネードランチャーから三発の弾が放たれ、放物線を描いて敵車両に直撃。車両が吹き飛び、引火したガソリンが真っ黒い煙を出しながら燃焼していく。

 ハンターの背部前方の機関銃が敵を探すように左右に振れる。


「いいねぇ」


 ジョニーがコキュートスの上に座って敵の残骸を眺める。

 ハンターが機関銃を何度か発砲、そのたびに黒煙の奥にある影が倒れた。


《ハンター、敵の制圧を確認》


「敵が集まって来る前に移動する」


 了解の声と共に再度移動を始め、敵の残骸の脇を通過する。その残骸にジョニーが味の無くなったアップルミントガムを吐き捨てた。

 爆発音を聞き付けたパトロール兵が散発的に現れ始める。


《コキュートス、正面に敵を確認。迎撃を開始します》


正面から敵が現れる度にコキュートスの機銃が7.6mm弾を放つ。

 側面の小道から現れた敵に隊長が銃を向けると、銃口と敵が重なりあった瞬間に銃の照準補助システムが自動発砲、胸に三発浴びた敵が崩れ落ちる。


《オルトロス、後方に敵を確認。定点攻撃に移ります》


 最後尾のオルトロスが、先進素材で出来たボディでしなやかに振り返りる。

 二挺の背部機関銃が交互に射撃。民兵もデッドコピーのアサルトライフルで応戦するが、ドローンの高分子素材とセラミックスの装甲に有効性は認められない。

 強力な11mmホローポイント弾が民兵の体組織を破壊し、迅速に活動を停止させる。

 動く目標が無くなると射撃終了。


《オルトロス、後方の敵を掃討》


「オルトロス、さっさと来て手を貸せ」


 リーがアサルトライフルを乱射する民兵の頭に、銃弾を叩き込みながら言う。


《オルトロス、了解》


 ネコ科肉食獣の走りをモデルとした動きで素早く隊に合流した。


「敵が多いな。早くジャミング装置を破壊して本隊を投入させましょう」


 グレッグが分隊支援火器のマガジンを外し、新しいマガジンと交換する。


「わかっている。ケルベロス、蜂の巣をおいていけ」


《ケルベロス、了解》


 隊長のそばで機関銃を点射していたケルベロスが手近な建物に近づき、腹部に収納された円錐形のディスクをマニュピュレーターアームで壁に張り付ける。他の場所にも幾つか設置するとふたたび隊長のそばに戻った。


「隊長、目標ビルを視認」


 ジョニーがバイザーに青い丸で印付けられたビルを見る。


「早く入ろう。外は警戒すべき範囲が広い」


 リーが民兵のいる建物に手榴弾を投げ込んだ。

 隊の後方から押し寄せる民兵がある一定ラインでバタバタと倒れる。

 ケルベロスの設置したディスクから、高硬度ニードルが民兵の頭部めがけて発射されていく。次々とニードルが放たれ、頭に針を一本だけ刺された死体が路上で列をなしていった。

 ディスクが敵を足止めしている間にアーケロンが目標ビルに到着し、裏口に向かう。


「グレッグ、リーと交代で後方警戒。各員突入準備」


 グレッグとリーが立ち位置を入れ替える。

 ジョニーがビル裏口につき、その後ろに隊長とリー。グレッグは最後尾で突入する三人の安全を確保する。


「ケルベロス、カブトを出せ」


《ケルベロス、了解。ビートル1、ビートル2、アクティブ》


 ケルベロスの背部アタッチメントの箱が展開、中から、日本の兜に似た二機の小型ドローンが上昇し、裏口の上下にホバリングする。


《ビートル1、スタンバイ》

《ビートル2、スタンバイ》


「突入」


 ジョニーがアンダーバレルショットガンで扉の蝶番を吹き飛ばすと、コキュートスが前足で扉を蹴り飛ばす。

 それと同時にカブトが室内に侵入、搭載ショットガンで民兵の顔面に整形手術を施す。


《ビートル1、ルームクリア》


「入れ」


 グレッグ以外のアーケロン隊が突入すると、室内には顔に12ケージを埋め込まれた死体、そして亡霊のように浮かぶ二機のカブトだけがいた。


「うっへ、顔面グチャグチャだ。スプラッター映画でしか見たことねぇぞ」


 ジョニーが汚物を見るかのような視線を死体に注ぐ。


「嫌なら見るな。カブト、二階を制圧しろ」


 隊長が民兵の顔面にブーツの爪先を埋めて遊んでいたジョニーに、他の部屋の確認を指示する。


「了解。あー、靴が汚れた」


《ビートル1、了解》

《ビートル2、了解》


 カブトが階段を上がり、ジョニーが手近な部屋にコキュートスと共に移動した。


「隊長、敵の攻勢が止まりました」


 ハンターを盾として応戦していたグレッグが室内に入る。


「またすぐに来る。マガジンを替えておけ」

「了解、弾はまだまだありますよ」


 グレッグがそう言うと隊長がバイザーの残弾表示をちらと見る。


[28/35]


 バイザーにはそう表示されていた。


「ケルベロス、敵の侵入予想箇所にスプリンクラーをおいていけ」


《ケルベロス、了解》


 指示を受けるやいなや床に円筒形の物体を置き、他の部屋にも置いていく。


《ビートル1、二階を制圧》


「全員集合、ジャミング装置を破壊する」


 命令を受けて迅速に隊員が集まり、二階に上がり、更に三階へと向かう。


「ジョニー、先鋒だ」

「了解。ワン公、しっかりご主人様を守れよ」


《ワン》


 ジョニーがコキュートスの後ろにつくと階段を上る。

 踊り場から攻撃する民兵二人の攻撃をコキュートスの装甲が防ぎ、右をコキュートス、左をジョニーが倒す。


「ワン公、安全を確保しろ」


《ワン》


 録音音声を発すとコキュートスが三階に侵入、アサルトライフルと機関銃の銃声が響き渡り、最後に機関銃の銃声で終わった。


《コキュートス、敵の制圧を完了》


 アーケロン隊が三階へと上がる。


「ジョニーは右、リーは左の部屋を制圧しろ」


 命令を受けた二人がドローンと共に隣接した部屋に突入する。


「グレッグ、ジャミング装置を破壊する。準備しろ」

「了解」


 隊長が最後に残った部屋の扉を少し開けると、グレッグがそこに手榴弾二個を投げ入れ

 手榴弾が炸裂すると室内に突入、血まみれでフラフラと立ち上がる敵を始末する。


「これですね」

「ああ」


 グレッグが金属製ケースのカバーを開け、中のコンピュータ郡にいくらか撃ち込み破壊。


《こちらコントロール、ジャミングの消失を確認。本隊を降下させる。それと、周囲に敵が集まっている気を付けろ》


 ジャミング装置の破壊とほぼ同時に作戦司令部からの通信がとぶ。


「アーケロン、了解。作戦予定通り待機します」


 通信終了。アーケロンがジャミング装置のあった部屋に集まる。


「十五分以内に本隊が降下する。予定通りこの場所で待機し、本隊が周囲を制圧してから撤退だ」


 隊長が隊員の顔を順に見ていく。


「よし、いいな。グレッグ、外を見張れ。敵が来ている」

「了解」


 グレッグが窓のそばにより、外を見渡す。

 IFFを発していない人と車両を識別したシステムがバイザーに赤い丸を複数標準。


「複数の敵が」


 言葉を発していたグレッグの声帯が収まる首を銃弾が掠める。

 グレッグが倒れる。


「グレッグ!」


 リーが条件反射でグレッグの首を押さえ、隊長が止血錠剤を取り出す。ジョニーが窓から銃を乱射する。

 脳に送られるはずの大量の血液が体外に溢れだし、脳機能に障害が発生。生命維持に障害が発生。


 グレッグ KIA


「敵が来ている。防衛配置」


 隊長が首を押さえていたリーの手をどかし、グレッグの亡骸を部屋のすみに移動させる。


《ハンター、指揮者欠如。更新待機》


 主人を失ったドローンが亡骸の側で指示を待つ。


「ハンター、私に従え。階段を警戒」


《ハンター、了解》


「リー、窓から攻撃しろ」


 リーが窓に張り付き、ハンターが階段前で機銃を向ける。


「ケルベロス、カブトを一階の防衛に当たらせろ。」


《ケルベロス、了解》


 二機のカブトがハンターの頭上をこえて一階へと降りていった。

 ほどなくしてビル周辺に集まった民兵がビルになだれ込む。それをケルベロスの設置したスプリンクラーが感知し、高圧ガスを噴出、頭部付近まで打ち上がる。

 人認識システムが複数の頭部を捉え、周囲にニードルとワイヤーネットを放出。

 一瞬で頭がニードルまみれになった死体が出来上がり、続けて侵入した民兵の腕をワイヤーネットが切り飛ばす。


《ケルベロス、敵の侵入を感知。スプリンクラーによる足止め効果は良好》


「カブトと合わせた足止め間は?」


《最長二十分です》


 隊長が少し思案し、口を開く。


「ジョニー、リー、手榴弾を落として窓から離れろ。ケルベロス、ハンター、二階に行け」


 ドローンが二階へと降りる。

 ジョニーとリーが手榴弾のピンを外すと、窓から落とす。

 七秒後に地上からの爆発音と悲鳴が大気を揺らした。


「もう少しで本隊が来る。おとなしくしていろ」

「隊長、敵の事は大丈夫なのですか?」


 リーが怪訝な顔で問う。


「ああ、スプリンクラーに手こずっている。安心しろ」


《ビートル1、ビートル2の停止を確認》


 隊長が腕時計に視線を落とす。

 二階に上がって来た敵をケルベロスとハンターが掃討していく。


《こちらコントロール、本隊が降下する》


「アーケロン、了解」

「おせえよ」


 言葉が漏れると同時に、ジョニーの銃を握る力が強まった。


「ふう。終わりか」


 作戦エリア上空の無人輸送機編隊が降下準備に移る。


《クレイドル13、ポイントSA上空。ドローンコンテナ投下準備》


 双胴無人機の中翼に吊り下げられたコンテナの安全接続が解除され、最も左のNo.1コンテナが一段下げられる。


《ドローンコンテナ、投下開始》


 クレイドル13とコンテナとの投下固定が解除。No.1からNo.7までの投下が順次行われる。

 やや丸みをおびた四角いコンテナが自由落下を始める。展開した数枚のフィンを小刻みに動かしながら、クレイドル13からの各種修正を受けつつ自立誘導で降下してく。

 コンテナが一定高度に達するとパラシュートが開き、軟着陸。中の装甲車型大型ドローンが起動する。


《モンスター1、アクティブ。戦闘を開始します》


 モンスター4,5,6,7も起動音を流し、各ドローンとデータリンク。


《モンスター2、アクティブ。アーケロン隊の護衛を開始します》

《モンスター3、アクティブ。アーケロン隊の護衛を開始します》


 全て起動するとコンテナが開き、中のドローンは陽光の元へと進み出る。

 二機の大型ドローンが、アーケロンの待機するビルに向かいながら敵を掃討。残りが作戦エリア内を走行しながら戦闘を始める。


《クレイドル13、全ドローンコンテナ降下成功、及びモンスターチーム起動を確認。帰投します》


 クレイドル13が作戦エリア上空を通過する。

 隊長がバイザー右上に視線を向け、マップを拡大表示。M2、M3と書かれた点が自分のいるビルに接近しているのを確認した。


「護衛がもうじき到着する。そろそろ終わるな」


 アーケロン隊が少し肩の力を抜く。その直後にケルベロスの警告が流れる。


《ケルベロス、複数の敵超小型自爆ドローンを確認。距離677》


 アーケロン隊が瞬時に戦闘状態へと切り替わる。各員のバイザーに複数の敵マーカーが表示される。


「多いぞ。対空グレネードは?」

「ここに」


 リーがオルトロスにくくりつけたポーチから対空グレネードを二つ取り出し、隊長に渡すともうひとつをアンダーバレルランチャーに装填する。隊長もそれにならう。


《オルトロス、対空炸裂弾装填完了》


 隊長とリーが窓から銃をつきだす。


[Target lock]


 照準補助システムが敵ドローンの距離を計算、グレネードの起爆時間を設定。

 発射準備完了をバイザー表示。


[OK]


 隊長とリーが引き金を引くとグレネードが発射され、敵ドローン郡の最も効果的な位置で起爆、七割を落とす。


「リー、下がれ」


 二人が同時に下がると入れ替わる様に、オルトロスとケルベロスが窓に銃口を向けて射撃を始める。ほとんどの敵ドローンを落とすが数機が散開、二階窓から三階へ移動し人間めがけて飛翔する。


「階段から来るぞ。落とせ」


 アーケロンの隊員が侵入したドローンに銃を向けるとシステムが自動発砲、破壊する。

 最後の一機がジョニーの頭めがけて突進する。


《ジョニー、伏せて下さい》


 その言葉に反射的に伏せたジョニーの上にコキュートスが覆い被さる。

 敵ドローンがコキュートスの背に衝突して爆発、高分子装甲素材にクラックを生じさせた。


「うっ、助かったぜワン公」


《ワン》


 覆い被さっていたコキュートスが素早く離れる。

 ジョニーがリーの手を借り立ち上がると、軽い手当てを済ませる。


「お前は大丈夫か?」


 ジョニーがコキュートスの損傷を調べ、表面にクラックがあるだけで内部構造は無事な事を確認する。


「さすが俺のワン公だ」


 そう言いながらジョニーはコキュートスをポンポンと叩いた。


《モンスター2、アーケロン隊の安全を確保》

《モンスター3、アーケロン隊の安全を確保》


 ビル周辺の敵を片付けた二機の大型ドローンがビルの前で待機し、時おり無謀な攻撃を仕掛ける民兵を20mmで粉砕した。


《こちら、コントロール。回収用のヘリを向かわせた。待機しろ》


「アーケロン、了解」


 通信を終えた隊長が銃をおろし、グレッグの亡骸の側に寄る。ジョニーとリーは隊長の後ろで十字をきると、沈黙する。


「すまない」


 グレッグの手に自分の手を沿え、それだけ言うとグレッグを運び出すための準備を始めた。









 愛国者が棺に納められ、彼が愛した国の国旗を纏う。そして、その棺が彼の仲間達によって運ばれる。

 青々とした緑、清んだ青空。美しい自然に包まれ、大地の下で愛国者達の眠る地。そこにまた一人の愛国者が運ばれる。

 黒い喪服に身を包んだ大勢の人、英雄を見送る者達。

 伝統にのっとり、粛々と行われる。

 弔銃がしっとりとした大気に響き渡る。

 死を悼む者たちが棺に手をあて、哀悼の意をしめしていった。









 ドローン反対、そう書かれた有機EL製横断幕を掲げて練り歩く人達。別の横断幕には様々な種類のドローンが人を殺す映像が流れる。

 ハイテク兵器が時代遅れの民兵達を虐殺していく。たっぷりの銃弾と爆弾、その他様々な特殊兵装で人命をすりつぶしていく。

 心ない機械による虐殺を止めよう、ドローン廃止、様々な言葉でドローンを否定し非難する集団。

 そんな集団に冷えた目で見る男たちがいた。


「なんだありゃ? エゴイストどもが」


 避難を含んだ声音で独り言の様に漏らす。


「ジョニー、気にするな。冷めるぞ」

「ああ、そうだな。はあー、テラスにするんじゃなかったな」


 リーとジョニーがホットドッグを頬張る。


「中にいても聞こえていたさ」


 トレーにホットドッグ三つとドリンクをのせた隊長が座る。


「ですかね」


 スプライトで喉を潤したジョニーがポテトに手をつける。


「まず、ドローン反対というが、それが兵士を殺せと言っているのと同じであることに連中は気付いていない」

「人の代わりにドローンが戦ってんだ、そのドローンが戦場からいなくなれば昔に逆戻り。また兵士が戦う時代だよ」


 ジョニーが隊長の言葉に賛同し、頷く。


「ジャミング等で完全自立型ドローンが使えない時だけ、俺達兵士の出番ではあるが、その時も随伴支援ドローンと一緒だ。なのに連中ときたら」


 リーの口から理解なき者達のへの不満が漏れる。それを黙って聞く戦友二人。


「ドローン抜きでは戦えない時代。敵もドローンを使う」


 隊長が間を開ける。


「我が軍はドローンで人を殺す。だが、代わりに軍の兵士は助かる。ドローンを無くせばフェアになってこちらの被害が増える。そうすると軍の責任を追究し出す、いい加減にしてほしい」


 隊長が三つ目のホットドッグを一口かじる。


「ドローンがいても完璧じゃないんだ。グレッグは死んだ。そんなに兵士を殺したいのか」


 ジョニーが最後の一口を口に運んだ。


「辛気臭い話は止めよう。あんなの相手にしなくていい。俺達がやることはこの国と国民を守る事だ」

「あんなやつらもか? 敵のスパイとかわんねぇぜ」

「あんなやつらでもだ」


 ジョニーが黙る。


「止めろ。この話は終わりだ」


 隊長がジャケットの内ポケットからパーラメントを取り出す。一本つまむと鼻に近づけ、香りを楽しんだ後にくわえて火をつける。

 軽く吸って煙を吐き出した。


「そうだな。グレッグの墓参り前にうだうだ言ってちゃダメだな。一旦落ち着こう」


 ジョニーはアークロイヤル、リーはマールボロをくわえる。


「女かよ」

「カウボーイだ」


 二人が火をつけると甘い煙が周囲に広がった。

 三人の男が煙草を嗜む。ゆっくりとした時間が流れる。

 空に上がっていく煙を見つめる彼らは、もう一人、欠けるべきではなかった者に思いを馳せた。 

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