ルーズという名の無自覚天災
「――瑠璃ちゃんお久しぶり。ルーズは相変わらずね」
そう言って場を変えてくれたのはシルクだった。
シルクの顔を見たルーズは「おぉー! シルクだぁ!」と言ってシルクに抱きつく。
瑠璃も起きたシルクを見てパァっと顔が明るくなった。
「瑠璃ちゃんは前会ったときより身長が伸びたわね。大人っぽくなったのもわかるわ」
「ルーズは!? ルーズは!?」
「ルーズは相変わらずねって言ったでしょう。なにも変わってなくてなにも言えないわ」
シルクがそう言うと「ちぇー」っと言ってシルクから離れた。
抱きつかれていたシルクは「もういいの? もう少し抱きついててもよかったのに」と、言いたげな顔でルーズの頭を撫でた。
「シルクと瑠璃ちゃんが出会ったのはいつ頃なんだ? 結構親しいみたいだけど」
シルクとルーズは同じクイーンズであり、言ってしまえば姉妹のようなもの。親しいのは当然だろう。
だが大人の対応が上手い瑠璃が、シルクを見た瞬間パァっと子どもの顔になったのが意外だ。シルクは瑠璃に好かれているらしい。
「瑠璃ちゃんと初めて会ったのは、契約の更新に行ったときかしら。私がまだ優愛と契約していたときね。瑠璃ちゃんとルーズが契約の挨拶に来たときと丁度タイミングが一緒で、そのあと瑠璃ちゃんの家にお邪魔して魔法で遊んだのよ。三年前くらいかしら」
「私の家に招いたときに、魔法の練習を楽しくさせてもらって。その一日でいっぱいできるようになったんですよ! シルクさんは教えるのが上手なんです! ルーズは感覚でやってることが多いし、教えるのが上手くないから」
「むむー! るーちゃん酷い!」
「ふふっ、事実でしょう?」
「むむー。言い返せない⋯⋯」
契約した瑠璃に言われるほど教えるのが下手で、ルーズ自身も認めている状況。
「そんなに下手って大分気になるんだが⋯⋯試しに浮遊魔法のやり方を教えてくれないか?」
浮遊魔法は粗方習得済みだ。
説明せよと言われれば説明する自信が翔太にはある。
もし普通に理解できるレベルなら下手ではなく、シルクが上手なのだと判断できるだろう。
「えー浮遊魔法? 浮遊魔法はギューッとしてバーンってして終わりじゃない?」
「ぷっ」「あはは⋯⋯」「まじか」
シルクは笑いを堪えられず、瑠璃は苦笑い。翔太はまじかという感想が全てだ。
ルーズは三人の反応を見て首を傾げている。
至って真面目に説明してあれなのだ。「なんでわかんないの?」とでも言いたげな顔をしている。
ルーズは理屈っぽい人間ではなくイメージや感覚でやる人間らしい。いや、人間ではなくクイーンズなのだが。
「今のを初見で聞かされて魔法が成功するのは困難よ。ルーズの説明を聞くより魔法書を読んだほうがよっぽど理解できる。そう思うでしょう?」
「確かにそうだな。なんというか、ギューッとしてバーンって、オノマトペが多いな。うん」
「オノマトペが多いって前シルクにも言われたー! なんて意味だっけ? うーん⋯⋯忘れちゃった」
「オノマトペって言うのはさっきのギューとかバーンとか、動物の鳴き声とかそういうことを指す言葉だったと思うよ」
「るーちゃん頭いい!」
「そ、そんなことないよ」
思ったことが素直に声に出るルーズは本当に子どものようで、見ていて飽きないが疲れる。天才肌であり、天災肌でもあるのかもしれない。
もしルーズが悪役をするのであれば、悪気のない天災キャラになるだろう。
「シルクの顔も見たし、そろそろ用事は終わったころじゃないかしら。シルクは寝て魔力を貯めなきゃなのよ。そろそろ御暇してくれないかしら?」
「あ! 早く帰ると言ったのについ長居してしまいました⋯⋯ほら、ルーズ帰るよ!」
「えー、もうちょっとお話したいけど⋯⋯しょうがないな! じゃあばいばーい!」
帰る前に玄関で透明化魔法をかけ、ドアを開けてあげると飛んで帰って行った。
すごく騒がしかったからか、嵐が去ったような感覚が二人の中にあり、シルクは「本当になにも変わってないわ。やっぱ天災ね」と言って再び寝た。
翔太は玄関から再び寝室に入り、魔法書を開く。
「ルーズ、ルーズか。クイーンズの一人で天才肌ならぬ天災肌。覚えておかなきゃだな」
クイーンズは全員で六人。まだ会ったことがないのはあと四人。
どういうクイーンズなのか気になるが、きっとキャラの濃い人物だろう。ルーズやシルクを見ていて察しがつく。
「シルクはツンデレキャラでルーズは幼女キャラ? 物語で出てきそうなキャラを予想しとけば大体当たりそうだな」
何故こうもキャラが濃いように造ったのかワインに聞きたくなる翔太だったが、きっと気まぐれなので聞くのはやめておく。
「お金持ちとかお嬢様とか、ギャルとか清楚キャラとか。外国人っぽいキャラとか純日本人キャラとか。考え出したらキリがないなこれ」
考えるのを辞め、開いていた魔法書に目を通す。
一枚一枚分厚い厚紙のような紙でできている魔法書は、まだ全ての魔法を教えてはくれない。
だが一ページ一種類ならば、ページ数によって魔法の数も分かると思い、ページ数を数えた。
白紙のページを何度もめくり、その度に声に出して数を数える。
終盤に差し掛かると契約に関しての色々が書いてあって。
「⋯⋯六十六ページか。んで最後の三ページは契約に関してのやつだから、魔法の数は六十三。つまり六十三種も魔法があるってことか。こりゃ覚えるのが大変だな」
今わかっている魔法は三種のみ。つまりあと六十種の魔法がこの本に眠り、そして覚えなければいけないということだ。
「シルクは六十三種も魔法を覚えてるっていうのか? というか全ページ数六十六って、なんか魔法っぽいな」
六百六十六の数字が悪魔の数字というのは有名だが六十六はなんの意味があるのだろうか。
ちょっと気になったが別に関係ない、ただの偶然だと思って意味を調べずに魔法書を閉じた。
「俺も少し寝るか」
目覚まし時計を見ると今は三時過ぎ。夜ご飯の準備は五時からすればいい。今から二時間は寝れるだろう。
布団に潜りスマホの目覚ましをかける。五時にアラームをつけて眠りについた。
――――――――――――――――――
――ねぇ。
「んん⋯⋯」
――ねぇ、寝てるの?
「寝てる、よ」
――起きてるじゃない。
「起きてない、って。寝て、る、よ」
「もう。しっかり起きなさい。何時だと思ってるのよ」
翔太の目が覚めたのはアラームの音ではなくシルクの声だった。
翔太はゆっくりと目を開け、暗い部屋に銀髪のシルクがいるのがわかった。
暗い部屋。今は夏なのにもう暗いのは――、
「っ!? し、シルク。今何時だ?」
寝癖のまま翔太はシルクに問いかける。
夏なのに暗いということはそれほど時間が経っているということで――、
「はぁ。もう六時半よ。夜ご飯作ってないからどうしたのかと思って部屋に来てみれば呑気に寝てるんだから」
「六時半⋯⋯」
スマホの目覚ましをみると確かに五時にアラームがかかっている。だが止めた記憶はない。
よく見ると、かけたのは午前五時で、午後の場合は十七時にしなければいけなかった。いつも目覚まし時計を使っていて、慣れていないためか間違えてしまったようだ。
「シルクもさっき起きたばかりだからなにもできていないわ。お米も炊いてないし、レトルトパスタとかの時短できるものにしましょう」
「すまん。今からすぐ作る。十五分でできると思うからゆっくりしててくれ」
そう言って小走りでキッチンに向かった翔太。それを見てシルクは――、
「もう少し早く起きて、お米くらい炊いとけばよかったわね」
と、申し訳なさそうに呟いた。
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