敵惑星――リバティ

 魔女という人種が魔界と対立していて、その人たちが住む惑星がリバティ。


 そしてシルクはクイーンズのため魔女ではない。


 その事実を翔太は知り、魔界はどうして『リバティ』と対立しているのかが気になった。


「リバティと、魔界が対立している理由ってなんなんだ?」


 疑問をぶつけられたシルクは、「そうね」と言い、渋々答える。


「魔法で悪さをする人がいたから、魔法を使えなくした。そのことに対してよく思わなかった人がいたの。その人たちは魔法が使えなくなる前に、別の惑星へと移住した。そして移住した先の惑星で発展を続け、魔界と対立するようになったのよ」


「ということは、その魔女と呼ばれている人は――」


 一瞬空気がピリッとし、シルクの表情が冷たくなる。


「⋯⋯元々同じ、魔界の人間よ」


 シルクの冷たい視線が翔太に突き刺さる。


 翔太に向けている眼差しではないとわかっていても、心臓が危険を知らせるような、とても冷酷な目をしていた。


 ――――――――――――――――――


 魔法は悪さをするために使うものではなく、もっと善意に満ちた有意義なものであるべきだと、ホワイト・クイーンは述べる。


 その一方で、魔法で悪事を働くものが絶えないのは仕方のないことだった。


 苦渋の決断として魔法をなくすことを決め、市民は当たり前のことができなくなることへの反対を示す。


 だがホワイト・クイーンはその不満を全て抑える案をいくつも提示し、実行することを約束した。


 それでも反対する人々が自由を掴むために、別の惑星へと移住し、自由の意味を持つ『リバティ』という名前をつけ、魔界と対立した――。


 魔界はこの行動に対し、リバティの人々を『魔女』という別の人種だったという考えを示し、対立を続けている。


 日本ではないことだが、の国では内戦や戦争が起こっている。


 魔法があっても人は変わらないのだと、どこにいっても戦争はあるのだと翔太は気づいた。


 ――戦争がなくなる魔法なんてないのだと、そう気づいた。


 ――――――――――――――――――


「前にも説明したように、魔界で魔法を使えるのはごく一部の人のみ。それに反発した人は魔女という別の人種で、魔女は全員リバティに行ったわ。当時の魔界の人口が約一億人で、リバティに行った人数は約千人。母様なら、千人くらいどうにでもできるはずなのに⋯⋯母様は優しすぎるのよ。魔女なんかに自由を与えるなんて」


 どうやら魔女と呼ばれる人は、魔界の人々から『忌まわしき存在』と思われているようだ。


 リバティのことを喋っているシルクは、何処どこか殺気立っていて、最初に会ったときを思い出す。


「その、リバティっていうのは英語の『liberty』だよね? 『闘いに勝って手に入れた自由』、みたいな意味だったと思うんだけど、闘いに魔界は負けたのか?」


「英語のそれであってるわよ。闘いすらまともにしてないのに、移住した途端リバティを名乗るようになったわ。きっと闘いができるようになったら、魔界と闘って、自由を手に入れたいという願望じゃないかしら? まぁ、魔女の考えることなんて、ろくなことがないから考えるだけ無駄ね」


 考えるだけ無駄ね、と言ったシルクは皿洗いを終えてソファにダイブ。

 ソファのクッションに顔をうずめて、うつ伏せ状態で脚をバタバタさせている。可愛い。


「そのリバティのことは後々詳しく聞くとして、眠いんなら寝ていいぞ? 自前のベッドがどうやって出てくるのか見たいし」


 そう言うと、シルクはパッと起き上がって、辺りをキョロキョロしはじめた。


「今日は魔法を使いすぎたからいつもより眠いのよ。鈍感そうな翔太にしてはよくわかったわね。さっそく自前のベッドを置いて寝たいんだけれど、この部屋は狭いから置ける場所がない――ソファが邪魔ね」


 さっきまで脚をバタバタさせていたソファが邪魔だという。

 翔太も皿洗いを終えて、さてどうしようかといったところ。


「このソファを一旦私の魔法で取り込んで、代わりにベッドを置いてもいいかしら? 寝るときだけ、ここにベッドがあるみたいな感じで」


 シルク曰く、『実体化魔法』と『衣装魔法』という魔法を応用した魔法があり、その魔法で物を出し入れすることが可能だそう。

 そしてその魔法は、クイーンズ特有の魔力を消費しなくても使える魔法の一つだと言う。


 魔法というよりは、一種のスキルのようなものと考えていいらしい。


「全然やってもらって構わないんで、その魔法が見てみたい!」


 翔太は魔法のこととなるといつも食い気味になってしまうのが欠点だ。


「先に言っとくけど、これは暗唱のない魔法で、イメージが大切なのよ。一瞬だからよーく見とくといいかしら」


 そんな翔太を横目にシルクは魔法を使う――。


「⋯⋯?」


 ――ソファが消えて、その場所にベッドがあった。


 それは一瞬のことで、瞬きをしたら変わっていた。

 まるでアハ体験をしているようだ。


「今日からここがシルクの寝床ね。朝になったらちゃんとソファに戻しておくから、安心するといいわ」


「一瞬すぎてなにが起こってるかわからなかった⋯⋯寝てる間に襲ったりとかしないから安心して寝てくれ」


「シルクを襲おうなんて百年早いわ。魔法で返り討ちにされて終わりよ」


 そう戯言を交わし、就寝する。


 まだ夜の八時。

 シルクはとても早寝だなと思いながら、翔太は寝ようか迷っていた。


 いつもよりだいぶ今日は疲れている。

 なんだか寝れる気がして、お風呂に入って布団に入ってみた。


 お風呂から上がり、洗濯物を畳んで夜の九時。

 寝るにはまだ早い時間だが、すんなり寝ることができそうだ。


 翔太は今日一日を振り返って、濃い一日だったなと思う。

 こんな日が毎日続いたら、きっと疲れて早く寝たくなると思った。


 出会ってまだ二日目。今日契約したばかり。


 それなのに、もう一ヶ月くらい一緒にいる感覚がした。


 それくらい仲良くなれたと思っているし、その先も一緒だと思える。


 雲から顔を出した月が、道路を走る車のランプが、翔太の部屋を照らす。

 そして、シルクもまた、翔太の部屋を照らしていた。


 いつもよりなぜか明るい部屋で、翔太はぐっすり眠る――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る