part.8-1 それが『世界』と分かるまで
目が覚めた。
「んん?」
目を開くと『カドゥ村』の宿屋が広がっている。
「まただ……」
最近同じ夢の続きを立て続けに見ている。この現実感と言い、何やら偶然では無いらしい。ゆっくりと背伸びをすると、ドアがノックされた。
「ショータ、俺だ」
ノックと共にルーディさんの声がする。
「どうぞ」
僕が言うと、ドアの向こうからルーディさんと栞がやって来た。栞を見た途端、どうしても僕の顔が強ばってしまう。
「……」
「あの、翔太さん……」
「はい……」
恐る恐る栞が僕に話しかけ、僕がそれに応じる。何というかどちらもぎこちない対応だ。
「……私とスミノフさんを助けて頂いて、本当にありがとうございました」
言いながら栞は深々と頭を下げる。とても身近な人間にここまで気を遣われるのは複雑な気分だ。
「……いえ、お二人とも無事で何よりです、スミノフさんの容態はどうですか?」
そう言う僕もまた、ぎこちない対応だ。どうしてこうなったのか……。
「今はまだ安静にしていないといけないみたいですが、もう歩く事も出来るみたいです!」
栞は少し嬉しそうに、けれどもやはり僕に気を遣うようにそう言った。
「それは良かった!こちらからもお見舞いに行きますね」
「よろしくお願いします!」
僕が言うと、栞はまた頭を下げてそう言った。
◉ ◉ ◉
「……何だお前ら仲悪いのか?」
栞が部屋を去ると、ルーディさんがそう言った。
「……そう見えますか?」
「ああ、さっきからあの少女と一向に目を合わせねぇじゃねぇか。一体何があったんだ?」
僕が聞き返すと、ルーディさんがそう言った。やはりこの不自然な会話を誤魔化すことは出来ない。
「……大丈夫ですよ、何もありません」
「んー、何か怪しいんだよな……」
ルーディさんはそう言った。
「まあ、出会ってまだ数日の俺たちだ。言いたくない事もあるのは仕方無いが、何かあるんなら早めに解決しておけ」
「……はい」
ルーディさんの言葉に僕はそう言った。
「まあ、この話は置いておいて、今日は一日カドゥの村に滞在しようと思ってる。お前はどうするんだ?」
「……それなら、スミノフさんに会ってみようと思います」
ルーディさんの問いかけに僕はそう答えた。
「そうか、なら一日シェリーを預けたい。ここの村長と話しがしたいんだが、そんな中にシェリーを連れていけないからな……退屈しないようにさせておいて欲しいんだ」
ルーディさんが言うと、彼の肩から黄色いスライムがひょっこりと顔を出す。ルーディさんのペット『シェリー』だ。
「分かりました」
僕が言うと、シェリーが僕の肩に飛び乗った。ひんやりとしたゲル状の独特な感覚が服越しでも伝わってくる。
「決まりだ、それじゃあ俺はそろそろ行ってくる」
そう言うとルーディさんは僕の部屋を後にした。
「……よし、じゃあ着替えるから暫く降りててくれ」
僕はそう言いながらシェリーを降ろそうとするが、シェリーは自発的に僕の肩からベッドに降りた。
「……驚いた、君は人間の言葉が分かるのかい?」
着替えながら僕はそう聞くと、シェリーは身体をぷるぷると震わせた。まるで『はい!』と言っているようだ。
「そっか……じゃあさっきの僕とあの女の子の話も聞いてたかな?」
ズボンをはきながら聞くと、シェリーはまた体をぷるぷると震わせる。『はい!』って言うか『うん!』って言ってるみたいだな、まるで活発な少年が話しを聞いているようだ。
「……実はあの子は僕の妹なんだ。『栞』って言うんだけど、どうやら栞は記憶が無いらしい。兄としては栞の記憶を戻してあげるのが正しいのかも知れないけど、あいつの過去の記憶はとても辛いものなんだ」
僕は上着を着ながらシェリーに語りかける。その服はどうも日本で作られている服よりも素材が悪いらしく、ごわごわしている。まあ当然か……、
「だから栞の記憶は戻したくない。……いや、『戻したくない』と言うよりは『戻して良いか分からない』かな?」
言いながら僕は服を服のボタンを留めた。全く、スライム相手に僕は何を話しているんだか……、
「……変な話しをしてしまったね、この事はルーディさんには内緒だよ?」
言って僕は唇の前に人差し指を突き立てる。シェリーはそれにぷるぷると反応した。
「……よし、行こう!」
靴を履いてそう言うと、シェリーは自然と僕の肩に乗っかった。
◉ ◉ ◉
その後、僕はスミノフさんの家に訪れた。ドアをノックして反応を待つ。
「……どうぞ」
ドアの向こうから僅かに声が聞こえて僕はドアを開けた。
「お邪魔します」
「君は……?」
中に入るとスミノフさんがベッドの上で上体を起こしていた。
「佐伯翔太と言います」
「君がそうだったのか……お陰で助かったよ、この通りだ!」
スミノフさんが嬉しそうにそう言った。
「いえ、こちらこそありがとうございました」
スミノフさんの問いかけに僕はそう答える。そう、彼女は栞の恩人なのだ。
「……?礼を言われるようなことはしてないはずだが……」
スミノフさんがそう言って僕は戸惑ってしまった。……そうか、今僕と栞の関係を知るものは居ない。
「……ええっと、シェリーですよ。この子を助けてくれたんですよね?」
僕は何とか言い訳を探してそう言った。同時に肩に乗っていたシェリーをスミノフさんに見せる。
「ああ。この子は君のペットだったのか、てっきりあの女の子のペットかと……」
「いえ、この子はルーディ・イェーガーという商人のペットなんです。僕はその雇われでして、ずっとシェリーを探していたんです」
と、僕は言った。
「そうか……ん?と言うことは、君とあの少女は知り合いか?」
と、スミノフさんは言った。その言葉に僕は一瞬動揺したが、彼女が聞いているのはスライムを持っていたのは栞だったからであって、僕らの関係性に違和感を感じているわけでは無い。
「……いえ、あの子がスライムを偶然見つけてくれただけです。知り合いではありません」
「そうか……」
僕の言葉にスミノフさんはそう言った。
◉ ◉ ◉
それから僕はスミノフさんから栞を助けた時の状況を聞いた。クエストの進行途上で栞が襲われているのを目撃して、スミノフさんがそれを助けたらしい。しかし、代わりにスミノフさんが負傷、そして今に至ると言った所だ。
「なるほど……怪我はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、明日からまたクエストを進めようと思っている」
スミノフさんは言って握りこぶしを作る。
「病み上がりなんですから無理はしないようにして下さい」
そんなスミノフさんに僕はそう言った。
「それもそうだな、ありがとう」
それを聞いてスミノフさんはそう答えた。
◉ ◉ ◉
「お邪魔しました」
そう言って僕はスミノフさんの家を後にする。振り返るとルーディさんが立っていた。
「やはりここにいたか、ちょうど良かった」
僕を見るやルーディさんがそう言った。
「……何かあったのですか?」
「ああ、新しいクエストを引き受けたんだ」
「新しいクエスト?」
「そうだ、この度の活躍に村長が着目していてな、クエストの依頼がやって来たんだ」
言ってルーディさんが更に続ける。
「それでだ、このクエストをお前に任せようと思っている」
「僕に、ですか?」
「ああ、頼めるか?」
と、ルーディさんは言った。
「……どんな内容ですか?」
と、僕は聞いた。
◉ ◉ ◉
そのクエストはどうやらスミノフさんがやりかけていたものらしく、簡単に言えば『カドゥ平原にある水場を探して欲しい』と言うことらしい。
「話しによるとカドゥ村が前に使っていた古井戸もあるらしい、その辺りの安全確認も今回のクエストの依頼内容だ」
「なるほど、危険は少なそうですね」
「ああ、だからこれをお前に頼みたい」
と、ルーディさんは言った。これなら最悪、戦闘を避けることも可能だ。
「分かりました、引き受けます」
「決まりだな、明日イヴァンカもクエストに同行する。それに付いて行ってくれ」
と、ルーディさんは言った。なるほど、当日はスミノフさんと共に行動することになるらしい。
「分かりました」
「よし、そうと決まれば訓練だ。明日までにみっちり鍛え上げてやる!」
「へ?あ、はい!」
ルーディさんの予想もしてなかった言葉で一瞬戸惑ったが、僕はそう答えた。まあ、確かに僕はこのままじゃ戦力外だな。
「カドゥ平原に出る、レイジフォックスを相手に戦おう」
「ちょっと待って下さい!実戦なんですか!?」
「俺もいるし、実戦は経験済みだろうが……ほら、行くぞ!」
ルーディさんは戸惑う僕を引っ張ってカドゥ村の外へと連れ出した。
続く……
TOPIC!!
クエスト:カドゥ村農業地区拡大プロジェクト
クエスト形式:探索クエスト
依頼者:カドゥ村村長
受注者:スミノフ・イヴァンカ及び佐伯翔太
<内容>
カドゥ村の農業地区を拡大するというプロジェクトがあるが、それには水資源が足りない。
その為、冒険者に対し、カドゥ平原一帯の水資源の探索を要請する。
ただし、いくつか条件があり、
・より上質な水であること
・村からなるべく近い場所にあること
・安全であること(モンスターがいない、又は周辺および村からの道のりのモンスターを駆逐してある)
以上が条件である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます