part.7 二つの世界
「……」
目が覚めた。辺りを見渡すと『日本』にある僕の部屋だ。
「またあの夢か……」
死んだ妹と異世界転生して冒険する夢だ。ただの夢なら今まで見てきたが、二日連続で同じ夢を見るのは今回が初めてなのかも知れない。
「はぁ……」
ゆっくりと上体を起こしながらため息を吐く。今日は平日だが金曜日、今日を耐えれば明日は休みだ。
「……とは言え、休日は大学入試の勉強で時間が潰れるな……」
乾いた笑みを浮かべながら着替える僕は、右腕に受けた傷の跡に気付くことは無かった。
◉ ◉ ◉
それから時は経ち、今は夕刻、部活の時間だ。とは言え本日の科学部の仕事は無い。明日は理科の授業が無いからだ。暇だったが帰る気が起きなかった僕はその辺の席に掛けて本を読んでいた。……しかし、
「やっほーしょーたー!!」
「……」
化学室に明るい声が響く。クラスメイトの茜だ。茜は化学室に入るといち早く僕と相対する位置にある席を占拠した。何やら大きな荷物をその場に降ろす。
「よっこいしょっと……あれ、どうしたの?何か元気無いけど……」
「いつもこんな感じですお気遣いどうもありがとうございますはい……」
僕が言うと茜は「あはははははは!!」と、声高らかに笑った。
「……って言うかお前何しに来たんだよ帰れよ……」
言いながら僕は棚からビーカーを取り出してお茶を注ぐ。
「あはは、行動と言動が合ってないぞ?しょーたくん!!」
お茶を注いだビーカーを茜に渡すと、茜はそれを受け取りながらそう言った。何だろう、僕はいつもこの人にペースを崩されている気がする……。
「……ん?何読んでるの?」
ふと、茜は僕が読んでいた本を見つけてそう言った。
「あー、異世界転生もののファンタジーだよ」
「へー、それって例のシュバルツ・アウg……」
「それはもう封印したから忘れろ!!」
茜の言葉を遮って僕はそう言った。
「……お、おう。んで、面白いの?それ」
茜は僕が読んでいた本を指してそう言った。
「別に、暇だから読んでるだけ……」
僕は明後日の方向を向いてそう言った。実際、面白いとは感じなかったが、『主人公がひたすら無双する』だけのストーリーを眺めているのは結構な暇つぶしになる。あと、現実逃避も出来るし……。
「で、お前は何しに来たんだよ、部活あるだろ?」
と、今度は僕のほうから茜に聞いた。茜は陸上部に所属しており、賞もいくつか取ったことのあるエースだ。そんな彼女が今、部活をサボってここに居る。
「私ね、しょーたが心配なの……」
「……僕が?」
茜の言葉に僕は更に聞き返す。
「……しょーたって今、独りじゃん。だから寂しいんじゃ無いかと思ってね……」
「茜……」
茜の言うとおり、今僕は独りだ。妹は自殺し、両親は家に居ない。茜はそのことを避けて言ったが、つまりそう言うことだ。きっと茜は僕を独りにさせたくないのだろう、そう知りながら僕は敢えて目を細めてこう言った。
「……お前、単に部活サボる為の口実が欲しいだけだろ」
「……ばれたか」
言うと、茜はわざとらしく舌をペロっと出してそう言った。そう、これはつまり僕の照れ隠s(ry
◉ ◉ ◉
「……ところで茜」
「んー?」
あれから暫く特に何もしなかったが、ふと僕がその沈黙を破った。
「茜って夢の続きを見たことある?」
「んー、私が覚えてる限りじゃ無いかなー」
茜が明後日の方向を向いたまま、そう言った。
「……もしかしてしょーたは見たの?夢の続き」
「……ああ」
今度は茜が僕にそう聞くと、僕は明後日の方向を向いてそう言った。
「それって昨日言ってた栞ちゃんと異世界転生したっていう……」
「そう、それ」
「へぇ、何があったの?」
「まあ、ちょっと長くなるんだが……」
言って、僕はこれまでに起きた事を話した。
◉ ◉ ◉
栞と出会ってから翌日、僕はイヴァンカという冒険者の元を訪れたんだ。イヴァンカという人は栞を助けた人で、その時に大怪我を負って倒れてしまって、意識も無い状態だった。そこで僕達が「アモールの泉」で手に入れた薬草をイヴァンカさんに使う。でも、その薬草は効力が無かった。話しによるとその薬草に「回復魔法」が無かったため、薬草としての効果を無くしていたらしい。僕達はその原因を探るために「アモールの森」へ向かうと、奥へ進む毎に枯れ木が増えていき、しまいにはその枯れ木が僕達を襲いかかるようになっていた。これは枯れ木がゾンビ化して動いていたらしい。森の奥へ行くために僕は「シュバルツ・アウゲン」を使うものの、制御しきれず意識を失ってしまったんだ。その後、僕は「泉」と再び出会い、僕に魔法を授けた理由を知る。それは最終的に森に潜む「アルミラージ」の殲滅のためだった。それを知った僕達は森に居るアルミラージを全て殲滅し、「アモールの泉」に魔力を返すことが出来た。これによって薬草を手に入れることが出来、無事にイヴァンカさんを回復させることに成功したんだ。
◉ ◉ ◉
「……とまあ、こんな感じかな」
と、僕は言った。
「つまり、その『イヴァンカ』っていう人を助けるために色々やったってことか」
「そういうこと」
茜の言葉に僕はそう言うと、化学室の中にチャイム音が鳴り響く。
「……そろそろ、帰ろうか」
茜の言葉に僕は頷いて支度を始めた。
「……あ、そうだ!」
支度をする中、茜がふと声を上げる。
「しょーた、今日君の家に泊めてよ!」
「はあ!?」
茜の突拍子も無い言葉に僕はそう聞き返す。
「良いじゃん、明日休みなんだし、数学と地学教えてよ!」
「えぇ……ったく……じゃあ代わりに英語教えてくれ……」
「わーい!」
と、茜が言ってその重そうな荷物を抱える。
「お前それ随分と重そうだな……何が入ってんだよ」
「ん?着替えとか諸々……」
と、茜は言った。
「お前、最初から泊まる気だったのかよ!」
という僕のツッコミを皮切りに僕らは帰路へと付いた。
◉ ◉ ◉
その日の夜、
「しょーた、野菜切るの手伝って」
「お、おう」
茜が夕食を作ってくれると言うことだったので近くのスーパーで必要な物を買ってきた僕らはその下ごしらえを行っていた。……というか、茜の手料理って何だよ……結構嬉しいじゃん。
「……よし、出来た!」
「おお!」
食卓に料理が並ぶ、メインは鶏の唐揚げにポテトサラダ、シチューに温かいご飯と彩り豊かな料理が並んでいる。これほどの食事をするのは凄く久しぶりかもしれない。
「頂きます!」
二人でそう言うと、箸でその料理を摘まむ。美味しかった。でも、何だか照れくさいな。今日は何か照れてばっかりだ。
「唐揚げ、ちゃんと火通ってる?」
「バッチリだ!」
茜の言葉に勢いで僕はそう答える。危うく声が上ずりそうだったが何とか堪えた。
「ふふっ、良かった!」
それを聞いた茜は笑みを浮かべてそう答える。何か面白がられている様な気がして僕は俯いた。どうしても火照った顔を茜に見せられない。
「どうしたの?しょーた」
「いや、何でも無いよ!」
「ふーん?」
と、茜は言いながらポテトサラダを摘まむ。何故だろう?何故こんなに恥ずかしいんだ?茜が家に泊まりに来たことは何度もある。それでも今日はなんだか恥ずかしく感じた。どうしてだろう?
「……ぁ」
「……ん?」
「な、何でも無い」
言いながら僕はシチューを啜る。そうだ、今、この家には僕と茜の二人しか居ない。以前なら父さんや母さん、そして栞がいた。そう、二人っきりじゃなかったんだ。でも今は二人っきり、だから恥ずかしいんだ。それを知ると今度は恥ずかしさよりも寂しい感情が僕を襲った。
「……」
「……?大丈夫?」
茜が僕の顔をのぞき込んで話しかける。今度はからかってると言うより本当に心配している様子だ。
「……大丈夫だよ」
と、僕は言った。
◉ ◉ ◉
その後、
「寝る場所は母さんの部屋を使ってくれ」
「分かった」
僕がそう言うと茜が頷いて、ある部屋のドアを開ける。
「しょーた」
「ん?」
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
僕らはその言葉を交わしてそれぞれの部屋へと入っていった。
続く……
TOPIC!!
住屋 茜
「佐伯 翔太」とその妹「栞」の幼なじみ。
ショートボブの赤毛の活発な印象の見た目で
性格も明るく、とっつきやすい印象を受ける。
陸上部に所属しており、多くの賞を取っているエースであるものの、
学業の成績も良く、文武両道で、生徒だけで無く教師からも注目を集めている。
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