part.6-6 眠りの戦姫
……、
………、
「ここは……?」
目を開くと真っ暗な世界が広がっていた。
『良くやったね、これで森にアルミラージは居なくなった』
ふと、何処からか声が聞こえる。『泉』の声だ。
『ちなみに最後に君は怪我を負ってしまったらしいが、命に別状は無い上に、連れの魔術師が回復魔法を行っているらしい。安心してくれて構わないよ』
『泉』が言うと目の前に森の中の映像が映し出される。映像の中ではヘンシェルさんが僕に何やら魔法を掛けているらしい。というか、怪我を負っていた事すら忘れていた……。
「そうか、良かった……ところで薬草は?」
と、僕は言った。
『そう焦らなくてもいい、その前に君が持っている魔力を返して貰うよ?』
『泉』が言うと、僕の中にあった『何か』の力が失われた。もうこれ以降シュバルツ・アウゲンは使えないだろう。
「……もし、僕が『魔力を渡さない』と、抵抗していたらどうなってた?」
なんとなく僕はそう訊いた。
『君に拒む事は出来ないさ、魔力の譲渡は『契約』に近い。どちらかがその『契約』を破棄した時点で魔力は強制的に元の持ち主に返される』
と、『泉』は言った。なるほど、初めから拒否権は無かったらしい。
『泉の元へ行くと良い、君が求めている物がある』
『泉』は更に続ける。
『森をかつての姿に戻すにはまだ時間が掛かる。もしその時が来たら、もう一度ここを訪れなさい、きっと良い物が見られる』
と、『泉』は言った。僕はそれに無言で頷く。
『最後に少年、君はシュバルツ・アウゲンに2度も耐えた。2度目は流石に僕のフォローが無かったら死んでいたかも知れないが……』
『泉』は更に続ける。
『無論『魔力』自体は君の力では無い、でも強力な魔力の使用に耐え抜いた君の力は本物だと思うよ?もしかしたら、君は良い魔術師になれるかもしれないね』
と、『泉』が言うと、目の前が真っ白に輝き始めた。
◉ ◉ ◉
「う……」
「目が覚めましたか?」
目を開くとヘンシェルさんがそう言った。回復魔法のおかげで受けた全ての傷が完全に回復しており、一切の痛みを感じなかった。
「はい、ありがとうございます」
「大したことじゃ無いよ」
起き上がりながら僕はそう言うと、ヘンシェルさんがそう返した。
「少し『泉』と話してきました。恐らく森が元に戻っているはずです」
「よし、行ってみよう。油断するなよ」
ルーディさんの言葉を皮切りに僕らは歩き出した。
◉ ◉ ◉
あれから泉までの道のりに枯れ木は無くなっていた。木々は葉を付けており、地面の雑草の中にぽつぽつと色鮮やかな花が咲いている。
「ありました。これで間違いありません」
ヘンシェルさんが薬草を手に入れてそう言った。
「やけに長かったな……帰るか」
ルーディさんがそう言ってカドゥ村への方角を向いた。そんな中僕は泉に向かっていた。
『無論『魔力』自体は君の力では無い、でも強力な魔力の使用に耐え抜いた君の力は本物だと思うよ?もしかしたら、君は良い魔術師になれるかもしれないね』
『泉』が言っていた言葉だ。
「本当に僕にそんな力が……?」
「おーいショータ!何してるんだ、帰るぞ?」
僕がそんなことを考えていると、ルーディさんからそう言われる。
「今行きます!」
そう叫んで僕は泉を後にした。
◉ ◉ ◉
僕達がカドゥ村へ帰り着く頃には既に日は落ちかけていた。疲れ切った身体を休めたい所だったが、ここは鞭を打ってスミノフさんの部屋へと向かう。
「……もう大丈夫、直に起きるはずです」
ヘンシェルさんが薬草を使う。魔力が解き放たれ、スミノフさんの身体を覆っていく。たちまち青ざめていた彼女の表情に血の気が宿っていった。
「ぅぅ……」
「おお、目を覚ましたぞ!」
スミノフさんがアパタイトの様な輝きを持った瞳を見せる。途端に周囲から歓声の声が上がった。
「ここは……?」
「カドゥ村だ、良く目を覚ましてくれた!」
スミノフさんが訊くと、カドゥ村の村長がそう答えた。
「……そうだ、私が助けた少女がいるんだ、その娘は?」
「ここにいます、助けてくれて本当にありがとうございました!」
栞がスミノフさんの手を取り、そう言った。
「そうか、良かった……」
スミノフさんがそう言うと、静にその瞳を閉じた。
◉ ◉ ◉
「……ふぅ、何とかなったな」
その後、僕と共にスミノフさんの家を後にしたルーディさんが煙草を吹かしながらそう言った。
「ええ、一時はどうなることかと思いましたよ」
その言葉に僕はそう答えた。普段は煙たがっている煙草の煙が何故かあまり気にならない。
「馬鹿野郎、こっちの台詞だ。無茶しやがって……」
ルーディさんが言う。「無茶」というのはシュバルツ・アウゲンの使用やアルミラージの殲滅など、今回はかなりの無茶があった。
「ご、ごめんなさい……」
と、僕は答える。
「さて、俺は少しカドゥ村に留まろうと思うんだがお前はどうする?」
煙管から煙草の灰を落としながらルーディさんはそう言った。元々僕はルーディさんとは接点が無い。このまま付いてくるかどうかを訊いているのだろう。
「もし、ルーディさんが良いのでしたら、このまま付いて行きたいです。他に行く当ても無いですから……」
と、僕は言った。それに暫くカドゥ村に留まるなら好都合だ。栞と話しが出来る。
「おうよ!これからよろしくな!!」
と、ルーディさんは言った。
続く……
TOPIC!!
佐伯 栞
「佐伯 翔太」の妹。
中学に入学して以来、陰湿ないじめを受けており、
長期化した虐めに耐えきれず自殺を図る。
自殺後、栞は異世界「アレンガルド」に転生し、
徘徊する内に「レイジフォックス」と接触、
何とかイヴァンカに助けられるもショックで過去の記憶を失ってしまう。
その後、兄である翔太と再会を果たすも記憶の無い栞は彼を兄であるという認識が無く、
翔太もまた自分が兄であることを明かしていない。
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