part.6-5 眠りの戦姫
「ショータ、無事か!?」
目を開くとルーディさんが慌てたような声でそう言った。
「はい、大丈夫です」
「良かった、奇跡だ!!ブラックアウトから意識が戻るなんて!!」
僕がそう答えると、ヘンシェルさんはそう答える。
「よしショータ、説教は後だ、アモールの森を脱出するぞ?森の奥は想像以上にヤバそうだ」
ルーディさんがそう言った。
「待って下さい!」
「何だ!この期に及んでまだ何かやらかすつもりか!?」
僕がルーディさんを制止するが、ルーディさんは怒号でこれに返した。まあ、僕の勝手な判断でこうなってしまった、そう言えば今振り返ってみると『アモールの泉』との会話でも勢いでものを言った気がする。今少し考えてみると愚かな行為だ……。
「ぅ……」
「ほら、帰るぞ!」
ルーディさんが僕の手を無理に引いたその時だった。
『待ちなさい』
冷徹な声が耳の鼓膜を震わせる。『アモールの泉』の声だ。
「何だ!?」
「一体何処から?」
ルーディさんとヘンシェルさんにも聞こえたらしく、彼らは困惑している。
『どうかこの少年の話を聞いてやって欲しい』
『泉』はそれだけを淡々と言った。
「どういうことだ?」
ルーディさんは僕にその疑問を投げる。
「……これは、『アモールの泉』そのものの声です」
彼の疑問に僕はそう答えた。
「『アモールの泉』?泉が意思を持っているというのですか?」
ヘンシェルさんがまたも僕に疑問を投げる。
「ええ、そして泉は願っています」
そう言って僕は一拍置いた。
「アルミラージの殲滅を……」
「詳しく話してくれ」
ルーディさんはそう言った。
◉ ◉ ◉
「つまり森が枯れ木だらけになっているのも全て『泉』の意思だというのか?」
「そのようです」
ルーディさんの疑問に僕はそう答えた。そして更に続ける。
「薬草を入手するためにはこの森に棲む全てのアルミラージを殲滅する必要があります」
僕がそう言うと二人はしばしの間、黙り込んだ。
「……どうしますか?」
先に口を開いたのはヘンシェルさんの方だった。
「ヘンシェル、ショータを連れてここを離れてくれ」
ルーディさんはそう言った。そして肩に背負っていた斧を構える。
「俺がやる」
「たった一人でですか!?」
ルーディさんの言葉にヘンシェルさんがそう言った。
「そうだ」
「いや待って下さい危険です!」
「薬草を手に入れる可能性が見えたんだ、時間が無いんだろ?」
「それは、そうですが……」
「なに、俺はアルミラージ程度で死ぬ男じゃない」
「ウッドゾンビはどうするんですか!?」
「近寄らなければ問題は無いはずだ!」
ルーディさんとヘンシェルさんが二人で言い争っている。
「……」
そんな中、僕はただ立ち尽くすだけだった。何か言わなければならないことは分かっている、でも言葉が出ない。どうする?僕も戦うのか?というか僕が言い出したんだ、戦わなきゃいけないだろう!でもどうやって?
「……」
思考を巡らせるがその手段がどうしても見つからない。どうすればいい?どうすれば良いんだよ!
『随分荒れてるね?』
不意に何処からともなく声が聞こえる。『泉』の声だ。
『少年、君は自分自身がアルミラージの殲滅を行うと言ったね?』
「……ああ」
『泉』の言葉に僕はそう答えた。
『なら、そうすれば良い。何故それを二人に言わないのかい?』
「……」
『泉』の問いかけに僕は答えられない。
『もしかして怖じ気づいたのかい?情けない事だ……』
……残念ながらその通りだ。こんなの情けないにも程がある。
『良いさ、少しだけ力を貸してやろう』
『泉』が言った途端、僕を中心として広い魔方陣が形成された。
「これは……シュバルツ・アウゲン?」
僕を含めルーディさん達3人が目の前の魔方陣に驚いている。
『僕が君の魔法を制御してあげる、必要な情報を聞いてくれれば魔法で得た情報を流してあげるよ?』
と、『泉』は言った。
『これではまだ不満かな?』
「……いや、十分だ」
僕はそう言った。
「お、おいショータ?」
ルーディさんが心配そうにそう言っている。
「ルーディさん、手分けしましょう。その方が早い」
「い、いやだが……」
「大丈夫です、今度はしくじらない!」
ルーディさんに僕はそう言った。彼の目を真っ直ぐに見やる。
「……アルミラージの数と場所を教えてくれ」
ルーディさんはそう言った。すかさず僕は目を閉じて魔法に集中する。
「……数はざっと30頭くらいかな?何故か南東側に集中してますね」
「……よし、行くぞ!」
ルーディさんは言いながら僕に一本の剣を渡した。
「これならお前でも使えるだろう、良いか?俺は今からお前を『戦力』に数える。覚悟しろよ?」
「……はい!」
力強く僕はそう答えた。
「私も、バックアップを行わせて頂きます、何が出来るか分かりませんが……」
ヘンシェルさんもそう言った。
「決まりだな、行くぞ!」
この言葉を皮切りに僕らは走り出した。
◉ ◉ ◉
目的の場所にたどり着いて辺りを見渡すと、至る所にアルミラージが徘徊していた。
「良いかショータ、アルミラージは絶対に後ろを見ない。奇襲で確実に仕留めろ、今のお前では真正面からのぶつかり合いは危険だ」
「分かりました!」
ルーディさんの言葉に僕はそう言った。
「シュバルツ・アウゲンを上手く使え、くれぐれも囲まれるなよ!」
この言葉を皮切りにルーディさんはアルミラージの群れに突っ込んでいった。僕もそれに続く。
「あああああああああああ!」
ルーディさんが早くもアルミラージに唐竹割りを決める。それを横目に僕は右へ移る。裏を取る形だ。シュバルツ・アウゲンの情報では、こちらを向いているアルミラージは居ない。僕は一度ゆっくりと深呼吸をした。そして最後尾にいるアルミラージに剣を突き立てる。
「でやああああああああああああ!」
剣が突き刺さり、そのままアルミラージは絶命した。
「はぁ……はぁ……」
「もたもたするな!囲まれるぞ!!」
「ひっ!」
ルーディさんの言葉で我に返った僕ははっとなって左に避ける。途端に先程まで僕がいた場所にアルミラージが飛びついてきたのだ。
「ショータ、一撃離脱を徹底しろ、足を止めたら死ぬと思え!」
ルーディさんが斧を振り回しながらそう言った。
「はい!」
言いながら僕は逃げ回る。その後ろを2〜3匹のアルミラージが追ってきた。
「付いてくるなぁぁぁ!」
「追ってくる敵は無視しろ、追わせておきながらこちらに気付いていない敵を狩るんだ!」
追ってきたアルミラージに対抗しようとしたところで、ルーディさんがそう言った。指示に従って魔法でこちらを向いていないアルミラージを探す。
「そこだぁぁぁ!」
草むらのせいで目視では確認出来ないが目の前にアルミラージが居る。刃物を突き立てると確かに肉を切る感覚があった。
「いいぞ!その調子だ!」
と、ルーディさんは言った。
◉ ◉ ◉
あれから数十分で辺りは静になった。全てのアルミラージを殲滅出来たのだ。ルーディさんがヘイト役を買ってくれた事で僕は一撃離脱をこなすことが出来、5匹のアルミラージを倒すことが出来た。まあそれでもルーディさんの活躍にはほど遠いが……、
「森の中にアルミラージは居ないみたいです」
シュバルツ・アウゲンで森の中を探り、僕はそう言った。
「何とかなりましたね!少し休憩にしましょう」
途中で合流したヘンシェルさんがそう言った。言葉に従い、僕らはその場に腰掛けた。
「やるじゃないかショータ、初めてにしては上出来だ!」
「ありがとうございます」
ルーディさんの絶賛に僕はそう答えた。
「10分後に森の奥へ進もう」
「分かりました」
ルーディさんの言葉に僕とヘンシェルさんはそう答えた。
「しかしバックアップをすると言いながら自分は何も出来ませんでした」
「なに、問題ないさ」
ルーディさんとヘンシェルさんが会話をしている。僕はその辺の木に腰掛けた。この木はまだ生きているらしく緑色の葉が生い茂っている。
「……なあ、ショータ?」
「?何ですか?」
ルーディさんに呼ばれて僕はルーディさんの方を向いた、その時だった。
「……!危ない!!」
途端にルーディさんが叫んだ為、慌てて後ろを振り向いたが、時既に遅し、アルミラージが僕の右腕に噛みついた。
「ぐああああああああああああああああああ!!」
激しい痛みに襲われて僕は叫ぶ。その反動で持っていた剣を落としてしまった。間髪入れずにアルミラージは僕の前に周り、頭突きを入れる。
「ぐふっ!」
反動で僕はその場に倒れてしまった。すかさずアルミラージは僕の喉元に噛みつこうとする。抵抗しようと動くが、剣は既に遠くに離れて取れない。
(何か……何か武器は……)
負傷した右手で必死にアルミラージを押さえながら左手で必死に使えそうな物を探す。
(そう言えば!)
先にルーディさんからナイフを受け取っていた事を思い出した。左手でそのナイフを抜き取ると一瞬だけ右手のガードを外した。これを好機としたアルミラージは僕に噛みついてきたが、すかさず僕はアルミラージの口元にナイフを向ける。アルミラージはそのまま勢いでナイフに噛みついた。
「ギィィィィィィィィィィィィ!!」
ナイフを噛んで歯が欠けたアルミラージが甲高い鳴き声を上げ、僕から大きく後ずさる。その瞬間、ルーディさんがアルミラージに唐竹割りを決める。真っ二つになったアルミラージはそのまま絶命した。
「無事か!?ショータ!」
ルーディさんの手を取るも僕は視線が定まっておらず、そのまま目を回して意識を失ってしまった。
続く……
TOPIC!!
ルーディ イェーガー
「リアラ大陸」を旅する商人。
彼が取り扱う品物は主に冒険者向けが多く、
武器や防具、糧食や冒険者向けの消耗品と多彩な商品を揃えており、
大陸全土の商品からルーディ自身が見定めた物を仕入れており、彼を知る冒険者からは好評の声が多く入る。
ルーディは武具の品定めの他、冒険者の能力やスキルを見定める事も出来、
レベルに応じた商品を提供することも得意となっている。
また、彼自身の戦闘能力も高く、身の丈程もある戦斧を振り回した豪快な戦い方が得意で、
安易にリーチに入る者を容赦なく切り伏せる。
その戦闘能力の高さから時折ルーディ自身が冒険者としてクエストを引き受けることもあるという……
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