part.6-3 眠りの戦姫
「これはまさか……ウッドゾンビ!?」
「何てこった……」
ヘンシェルさんの声にルーディさんがそう言った。
「とにかくコイツは移動することが出来ないはずです、取り敢えず無視して逃げましょう!」
「そうだな!付いてこい、ショータ!」
「はい!」
そう言って僕らは一度外側の方角へと逃げていった。
◉ ◉ ◉
その後、一度僕らは撤退し、近くにある木がウッドゾンビでない事を確認してからその木陰に腰を下ろした。
「森の最深部の木がゾンビ化……一体何が起きているのでしょうか?」
その場に座り込みながらヘンシェルさんが言った。
「これからどうする?流石にあんなモンスター俺一人ではどうにもならないぞ?」
ルーディさんがそう言った。僕らは黙って考え込む。
「……ヘンシェルさん、スミノフ・イヴァンカと言う人の容態はどうなのですか?」
僕はヘンシェルさんにそう訊いた。
「……あまり長くは保たないはずです。今行かなければ恐らくは……」
と、ヘンシェルさんは答えた。どうやら後には退けないらしい。どうする?僕とヘンシェルさんは戦力外、ルーディさん一人では敵を振り切れない。
「うーん、なるべく戦闘を避けて通る事を考えたいですね。ウッドゾンビの特徴は?」
と、僕は訊いた。
「そうですね、ウッドゾンビはゾンビ化した古木の総称です。多くの場合、凶暴化して誰彼構わず攻撃してくるとか……」
と、ヘンシェルさんは答えた。
「ゾンビ化した古木……古木か……」
独り言を呟きながら僕は考え込む。話しを聞く限りでは古い木である程ゾンビ化している可能性が高いと言うことになる。樹齢は年輪の数で分かるが、年輪の数を調べている間にウッドゾンビは僕らに襲いかかるだろう。なるべく遠くからウッドゾンビであることを察知出来れば良いが……。
「……」
切り札は一応、持っている。そう、『シュバルツ・アウゲン』だ。これで木の中を見れば年輪の数でゾンビ化している可能性の高い木をあらかじめ見つける事が出来る。しかし、
『あの魔法は上級魔法になる高度なものだ、本来君のような魔法を覚えたてのヒヨッコが使えるようなものじゃ無い。俺もこの手の魔法はあまり詳しく無いんだが、恐らく術者の脳にかなりの負担が掛かるはずだ。下手すると死んでしまうという話しまである』
ルーディさんはそんな事を言っていた。つまり、次『シュバルツ・アウゲン』を使うと僕は最悪死ぬ危険がある。でも……、
確かに『シュバルツ・アウゲン』を使ったあの瞬間、強い衝撃が走った。だけど、『死ぬ』という程の事では無い。もし……もし仮に、いや違う。別に『異世界チート』とかそんな事を信じてる訳じゃ無い、確かに『才能』という概念が存在することは認める。でも『才能』が関与するのは常に『成長速度』であって『能力』に直接関与するわけじゃ無い。そんな『万能』な概念は存在しないはずだ。でも、僕が得た『魔法』これは僕の力では無い、つまり……、
「おいショータ、俺との約束を忘れるんじゃねぇぞ?」
ルーディさんは僕の考えを読んだのか、そう言った。恐らく『シュバルツ・アウゲンを使うな』と言うことだろう。
「分かってます、けど……」
「ショータ、シュバルツ・アウゲンはお前にとって諸刃の剣だ。次使えば間違いなく死ぬぞ?」
ルーディさんはそう言ったが正直『死』という言葉にあまり実感が沸かない。
『あの日、目の前で僕の妹が死んだ』
僕は誰かが死ぬ瞬間を目撃した。辛かった、見てられなかった。その『瞬間』が今度は『僕』に?正直分からない。だからきっと……、
「大丈夫です、やってのけます!前に成功したんです、きっと上手くいきます!」
僕は力強くルーディさんを見据えた。
「駄目だ!!」
その決意の眼差しを弾き返す様にルーディさんは言った。
「ちょっと待って下さい、ショータさん、あなたはシュバルツ・アウゲンが使えるのですか?」
「訳ありでな、だが魔法を覚えて間もない半端者だ。コイツじゃ上手く使いこなせない」
ヘンシェルさんの問いにルーディさんはそう答えた。
「魔法を覚えて?それってまさか?」
「ああ、それが『訳あり』の内容だ、泉の力で得たものなんだと?」
「ええ、なので昨日初めてシュバルツ・アウゲンを使ったんです」
ルーディさんがこちらに会話をパスして僕がそう答えた。
「じゃあ、情報管理は?魔力制御は?」
「それって一体……?」
僕が不思議そうに聞き返すと、次の瞬間ヘンシェルさんは一気に顔色を変えた。
「ショータさん、止めて下さい!!何を考えているんですか!!」
今度はヘンシェルさんが止めにかかる。いや、それでも……!
「大丈夫です、生きて帰ります。確信があるんです」
「馬鹿な事はよせショータ!!おいヘンシェル、ショータの魔法を止められるか?」
「やってみます!」
そう言ってヘンシェルさんは詠唱に入った。不味い、魔法が止められる!?
「ショータ、これで少し頭を冷やせ」
ルーディさんが僕にそう語りかけた。……いやダメだ、これじゃ魔法の薬草なんてたどり着けない。諦められない、だってこれは……、
——『栞』が、僕に願った事だから。
『異世界』で栞と再会した時、僕は栞に嘘を吐いた。だってしょうがないじゃないか!栞にとって辛い『過去』の記憶は無い。だったら記憶なんて無いままでいれば良い。分かってる、これは暴論だ。はっきり言って許される事じゃ無い。だったら罪滅ぼしをすれば良い。茜だって言っていた。
『うん、そして記憶が戻った後は私が全力で栞ちゃんを支えるよ!だって私の『私欲』でむりやり栞ちゃんの記憶を戻したんだからね、その辺の責任をちゃんと取らないと!』
茜だって『私欲』のための『責任』を取っている。それで正しいんだ。だったら僕もちゃんと『責任』を取ろう!
——そうだ、この『シュバルツ・アウゲン』はその為の力だ!
暴走する想いを胸に次の瞬間、僕は心の底から大きく叫んだ。
「シュバルツ・アウゲン!!!!!」
「間に合わない!?」
その瞬間、僕の周囲に魔方陣が形成される。間違いない、『あの時』と同じ魔方陣だ。みるみるうちに拡大する魔方陣は遂に森全体を覆っていた。やった!成功だ……、
「うっ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
次の瞬間、僕の頭に鋭い電撃が走った。でもその瞬間はほんの一瞬だった。それから後は……、
——何も、感じなくなった。
続く……
TOPIC!!
『ウッドゾンビ』危険度 ★★
ゾンビ化した古木の総称で、ゾンビ化した原因により症状や危険度も変わってくるが、
多くの場合、誰彼構わず動く者全てを攻撃する。
翔太達が遭遇したケースでは、寿命を終えた木々が『アモールの泉』の魔力によって無理矢理生かされていたが、
泉からの魔力供給が突然ストップし、木に残された僅かな魔力のみで生きている状態となる。
枯渇した魔力を求めてウッドゾンビは周りの植物から魔力を奪い、
動物をも攻撃するようになって今に至る。
攻撃手段は木の先の尖った枝を伸ばして対象に突き刺す攻撃で、
油断すると一瞬で串刺しになってしまうが、
ウッドゾンビ自身は移動することが出来ない為、
距離を取ってしまえば安全に対処が出来る。
ただし、森の中などの多くの木が自生している箇所では
多数のウッドゾンビに囲まれてしまう危険があり、注意が必要である。
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