part.6-2 眠りの戦姫

「ショータ、準備は出来たか?」

「大丈夫です、いつでも行けます!」

 カドゥ村の外れでルーディさんの問いかけに僕はそう答えた。あとは魔術師のヘンシェルさんを待つだけだ。

「ショータ、アモールの森に向かう前に話がある」

 二人でヘンシェルさんを待っていると、ルーディさんが僕に声を掛けて来た。

「……どうしました?」

「ショータ、君はアモールの泉で魔力を受けたと言ったな?」

「はい」

「と言うことは、それまで魔法は使えなかったのか?」

「ええ、魔法の使い方も知らなかったし、魔力なんて多分泉に入るまで持ってなかったと思います」

「なるほどな……」

 ルーディさんは言って少しの間、考え込んだ。

「よしショータ、暫く『シュバルツ・アウゲン』は使うな」

 不意にルーディさんはそう言った。

「どういうことですか?」

「あの魔法は上級魔法になる高度なものだ、本来君のような魔法を覚えたてのヒヨッコが使えるようなものじゃ無い。俺もこの手の魔法はあまり詳しく無いんだが、恐らく術者の脳にかなりの負担が掛かるはずだ。下手すると死んでしまうという話しまである」

 と、ルーディさんは言った。確かに魔法を発動させた瞬間、強烈な頭痛に見舞われた。なんとか耐えきったがあれはこの魔法の弊害というものなのだろう。というか、下手すると死んでいたのか!?

「そうだったのですか!?……しかし、今回は僕のためにルーディさんが付いてきてくれるようなものだし僕が何もしないと言うわけにも行きませんから……」

 そう言って僕は考え込んだ。しかし、切り札の『シュバルツ・アウゲン』が使えないのでは僕はただの役立たずだ。

「なに、シェリーを助けた礼だと思っておけば良い。しかし念のためだ、コイツを渡しておこう」

 そう言ってルーディさんは僕に一本のナイフを手渡した。

「安物だが今のお前にはちょうど良いはずだ。だが勘違いするなよ?これはあくまで護身用だ、くれぐれも俺の役に立とう何て考えて無茶な真似はするな」

「……分かりました」

 ナイフを受け取って僕はそう言った。確かにルーディさんの言うとおり、下手なことをするとルーディさんやヘンシェルさんの邪魔になるかもしれない、ここは素直に従っておこう。

「お待たせしました」

 そうこうしているうちにヘンシェルさんがやって来た。これで準備は万端と言ったところか……。

「よし、では行こう!」

 ルーディさんの声を合図に僕らは『アモールの森』へと歩き出した。


◉ ◉ ◉


 アモールの森へは特に何事も無くたどり着く事が出来た。これもルーディさんのおかげだ。前回、森にやって来た時とは雰囲気がずいぶん違う。真夜中の不気味な暗闇だった森とは打って変わって植物が生い茂る緑豊かな景色だ。

「ショータ、死臭は払ったか?」

 ルーディさんがニヤニヤしながら僕に話しかけてきた。

「その話は勘弁して下さい、お願いします」

 何でもはしない。

「一体何の話しですか?」

 ヘンシェルさんが僕らに聞いた。そう言えばこの人は前回森に来た時は居なかったな……。

「なんでも無いです、さあ行きましょう!」

 ルーディさんが何か口を開く前に僕はそう言った。


◉ ◉ ◉


 以前の記憶を頼りに僕らは泉へと向かう。森の中はアルミラージだらけだった。草食モンスターもいると聞いていたが、どうもその気配が無い。これほど肉食モンスターが多いのだ、恐らく食い尽くされてしまったのだろう。そして森の奥に進むほど何故か緑が少なくなっていた。森の中にそびえ立つ木々も奥へ進むほどに枯れ木が多くなっている。

「この辺りにアルミラージの気配は無い、一旦休憩にしよう」

 あるところまで来てルーディさんはそう言った。

「分かりました」

 僕はそれに同意する。ヘンシェルさんも同じ意見らしく、ルーディさんに頷いた。

「何か、雰囲気変わってきましたね?」

 その場に腰掛けながらヘンシェルさんがそう言った。彼の言うとおり周りに植物はほとんど存在しない。この感じだと森の中央から枯れの現象が発生しているらしい。

「ああ、まるで森の中じゃないようだ」

 ルーディさんは辺りを見渡してそう言った。地面を見ると地肌面積が次第に多くなっており、土の色が多くなっている

「そろそろ行こう、なんだか不気味だ」

 ルーディさんはそう言って僕らをせかした。それを合図に僕とヘンシェルさんが立ち上がり、森の奥へと進んでいった。


◉ ◉ ◉


 不気味な雰囲気は更に強くなって僕らを焦らせる。何が不気味かというと道中にアルミラージが一匹も居なかった事だ。今までなら5分に1回の勢いでアルミラージと接敵していたのに、奥へ進み始めてからその気配が途端に消えたのだ。前回、ここへ来た時は植物が枯れているかどうかは分からなかったが、間違いなくアルミラージがうようよしていた。不安からか自然に僕らの足も遅くなる。

「何か……匂いませんか?」

 不意にヘンシェルさんがそう言った。言われて嗅覚に意識を集中させると何やら鉄の匂いを微かに感じた。その途端警戒心が鼓動を僅かに速める。これはまさか……、

「……血?」

 さっきから僕の本能がそう囁いている。間違いない、これは『血』だ。

「……」

 ルーディさんが静かに肩に背負っていた斧を持った。僕らも警戒心を強めている。

「行くぞ二人とも……はぐれるなよ?」

「「はい」」

 僕らはそう言ってルーディさんの後ろを付いていった。


◉ ◉ ◉


「何だこれは!?」

 目の前の光景にルーディさんはそう叫んだ。地面に血が付いているのだ。血の形状からどうやら何かの生物が負傷してその身体を引きずって森の奥へ進んだらしい。嫌な光景だ。

「この森で一体何が起きているのでしょうか?」

 ヘンシェルさんはそう言った。僕はルーディさんから受け取ったナイフをここで抜いた。ナイフを握る手が震えている。

「ショータ、無理はするんじゃ無いぞ?」

「分かってます、あくまで自衛です」

 ルーディさんの言葉に僕はそう答えた。

 僕らは更に森の奥を進む。不幸と言って良いか分からないが、先程から存在する血の跡を自然と辿る様に進んでいた。血の匂いはますます増え、地面にはもう枯れ木しか残っていない。

「……アルミラージだ!」

 ルーディさんはそう言った。目の前には右足を失ったアルミラージが身体を引きずっていた。成る程、さっきから地面に付いていた血の持ち主はこいつらしい。

「どうする?行くか?」

「待って下さい、少し様子を見ましょう」

 ルーディさんの言葉にヘンシェルさんがそう言った。僕もヘンシェルさんと同じ意見だ。物陰からアルミラージを追う。

 暫くしてアルミラージは体力の限界か木陰に倒れ込んだ。もう絶命の寸前だろう。

「この森で一体何が?やっぱりこれは僕が魔力を受けたせいで?」

「ショータ、今はあまり考えるな」

 僕がそう言うとルーディさんがそれを制止した。

「取り敢えず先へ進もう」

 そう言って僕らが先へ進もうとしたその時だった。


 __グシャッ!

 そんな音がして後ろを振り返ると、アルミラージの身体を木の枝が貫いていた。次の瞬間、アルミラージが倒れていた木から大量の枝が伸びて僕らに襲いかかる。

「に、逃げろーーーーーーー!!!」

 『ドスッ!』という低い音を立てて木の枝達が先程まで僕らが居た場所に勢いよく突き刺さる。間一髪と言った所で何とか避けきった。

「これはまさか……ウッドゾンビ!?」

「何てこった……」

 ヘンシェルさんの声にルーディさんがそう言った。


続く……


TOPIC!!


『ガレルヤ王国』の貨幣


リアラ大陸に存在する『ガレルヤ王国』で用いられている貨幣。

『銅貨』『銀貨』『金貨』の3種類があり、

それぞれにガレルヤ王国国王の肖像が彫られている。


レートは以下の通り

銅貨1枚≒20円

銀貨1枚≒500円

金貨1枚≒2500円

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