part.6-1 眠りの戦姫

 翌朝、鬱陶しい朝日の明かりで僕は目を覚ました。

「うぅ……」

 眠い目をこすりながら辺りを見渡す。どうやらここは僕の家では無く、『カドゥ村』の宿屋らしい。

「また例の夢か……」

 僕はそう呟きながら半身を起こした。二日連続で夢の続きを見るとか、夢の分際でしつこいな……。

「おお、起きたか!夕べは良く眠れたか?」

 僕が起きたことを確認するとルーディさんがそう言った。

「ええ、おかげさまで……」

 とても良く眠れました。と言うかはい。

「そうかそれは良かった。ところで昨日の事だが……」

 等とルーディさんと話していると、部屋のドアが「コンコン」とノックされた。「どうぞ」と、僕が言うと記憶喪失である僕の妹『栞』がやって来た。隣にはこの村の村長もいる。

「昨日は助けてくれてありがとうございました!」

 栞はそう言って深く頭を下げた。

「いえいえ、ご無事で何よりです。それよりもスライムの保護、ありがとうございました。お陰で無事にシェリーと再会出来ましたよ」

 と、ルーディさんは言った。

「我々は何もしてませんよ。ところでルーディ商人……」

 と、村長は言って一呼吸置いて続ける。

「昨晩、この少女を助けた際に泉の薬草を拾ったと伺っております。もし差し支えなければそれをこちらに売って頂けると幸いなのですが……」

 と、村長は言った。そう言えばこの村には負傷した冒険者がいるのだとか……。

「おお、あの薬草ですか!構いませんよ?私のシェリーを救ってくれた礼として銀貨1枚と銅貨2枚でどうでしょう!?」

 と、ルーディさんは言った。いやそこはタダじゃないんだね……まあ、商人という立場である以上簡単に商品をタダにするのもアレだろうけど……。

「ありがとうございます!」

 と、村長は言い、ルーディさんから薬草を受け取った。

「あの、佐伯?さん!」

 カドゥ村の村長とルーディさんが談話している最中、不意に栞が僕に声を掛けた。何だろう、栞が僕のことを『佐伯さん』なんて呼ぶことに凄い違和感がある。

「翔太で良いですよ、どうしましたか?」

 僕が不器用な笑顔でそう答えると、栞は一呼吸置いて続ける。

「じゃあ、翔太さん、翔太さんもスミノフさんの所に来て欲しいんです。ダメですか?」

 栞はそう言って首をかしげた。

「勿論!そのつもりです」

 と、僕は言うと、栞はホッとしたように胸をなで下ろした。


◉ ◉ ◉


 その後僕らはカドゥ村にいる冒険者『スミノフ イヴァンカ』の元へと訪れた。スミノフと言う人は彼女の家のベッドに静かに眠っていた。顔は青ざめており首元に包帯が巻かれている。

「……」

 僕は静にスミノフさんの額に触れた。かなり低い体温で、呼吸も薄い。怪我がどれ程深いのかまでは分からないが、普通この状態で人間は生きていられない。それでもなおスミノフさんが生きているのは奇跡なのか魔法による物か……。そんなことを考えていると部屋に一人の男性が入ってきた。見るからに魔法使いっぽい衣装に十字架などの小物が衣装の各所に備えられている。

「あなた方が薬草を拾ってきてくれたのですか?」

 部屋に入ってきた男性がそう答えた。

「ええ、そうです」

 間髪入れずにルーディさんはそう答えた。

「いやはやありがとうございました!私はこのイヴァンカの看病を務めていた魔術師の者です」

 男性はそう答えた。やはり魔術師とかそこら辺の人だった。

「見ての通りイヴァンカは現在瀕死の状態です。これを救う方法はあの『アモールの泉』に存在する魔力しかなかったのです」

 魔術師の人はそう答えた。アモールの泉の魔法……そう言えば僕もあの泉の力で魔法を取得したんだっけな?『シュバルツ・アウゲン』——後で練習してみよう!そんなことを考えていると魔術師の人がスミノフさんの治療の準備を始めた。もしかしたら僕の魔法の勉強になるかもしれない、そう考えた僕は魔術師の作業を静に見守っていた。

「……これで、よし!後は……ん?」

 ブツブツと独り言を呟きながら魔術師の人は何やら作業を進めていたが、その手が不意に止まった。……何だろう?何か嫌な予感がする。

「この薬草……魔力が無くなっている!?」

 魔術師の人はそう言った。嫌な予感がますます増幅する。

「どういうことですか!?」

 ルーディさんがそう聞くと、魔術師の人はこう答えた。

「薬草に魔力が無いんです!これではイヴァンカを助けられません!」

「何てことだ!ルーディ商人、これは本当にアモールの泉で入手した薬草なのですかな?」

「ええ、確かにアモールの泉で手に入れた物です、間違いありません」

 村長の問いにルーディさんははっきりとそう答えた。

「……」

 僕は察した、察してしまったよ。……っていうかこんなこと誰が考えても分かる事だ。僕がアモールの泉で魔法を取得した時、泉の魔力が無くなり、薬草の魔力も同時に無くなってしまったのだ。

「すいません、それはもしかしたら僕のせいかもしれないです……」

 僕はそう言って頭を下げた。謝罪は基本的に早いほうが良い、後になると言い出せなくなっちゃうしね……。そして僕はこれまで僕がやって来たことと、先程の推察を一同に伝えた。


◉ ◉ ◉


「泉の魔力を受けた!?そんなことがあるのか?」

 僕の推察を聞いた村長が困惑している。

「モンスター達が泉の力を受けることは度々聞いていますが、人間がそれを行うのは聞いたことが無いです……それに魔力を受けたとしても泉の魔力はかなり大きい物です。これだけで泉の魔力を消失させるとは考えにくいはずですが……」

 魔術師の人も半信半疑といった感じだ。どうやら僕のようなケースは前例が無いらしい。

「……それならショータさん、薬草に魔力を移す事は出来ますか?」

 と、魔術師の人は言った。

「え、どうするんですか?」

 僕も困惑気味に答える。

「恐らくかなり荒技になると思うのですが……」

 こうして僕は魔術師の指示に従ってすりおろされた薬草と向き合っていた。


◉ ◉ ◉


「……やはりダメでしたか……」

 魔術師の人が言うとおり、様々な事を行ったが薬草に魔力が宿ることは無かった。

「もう一度、泉に向かいましょうか?もしかしたら、泉になら魔力を戻せるのかもしれません」

 僕はそう言った。

「うーん、それに掛けてみるか?」

 ルーディさんも僕の意見に応じる。

「それなら、私も同行させて下さい!戦闘は出来ませんが、この状況なら私も何かの役に立つかもしれません」

 と、魔術師の人は言った。

「是非お願いします、えーっと失礼ですが、お名前を伺っても?」

「ああ、申し遅れました。私は『ヘンシェル リフレクター』と申します、ヘンシェルとお呼び下さい」

 ルーディさんの問いに魔術師の人、もとい『ヘンシェル』さんはそう答えた。

「よしショータ、話しもまとまった所で早速行こう!」

「はい」

 ルーディさんの言葉に僕は頷いてゆっくりと立ち上がった。


続く……


TOPIC!!

スミノフ イヴァンカ


カドゥ村の数少ない冒険者であった『スミノフ クレオス』の娘。


クレオスの死後、イヴァンカは父の意思を継いで冒険者となり、

初のクエストを進行中、『佐伯 栞』がレイジフォックスに襲われている所を発見し、

彼女を救うためにレイジフォックスと交戦するが、複数のレイジフォックスに襲われてしまう。

イヴァンカはこれに辛くも勝利を収めるものの、彼女自身も深手を負い、その場で意識を失ってしまった。


その後、偶然通りかかった人により栞や栞と共にいたサージスライム『シェリー』と共にイヴァンカもカドゥ村に運ばれ、一命を取り留めるものの現在に至るまで意識は戻っていない。

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