part.4-3 微睡まない夢の中
「どうだ?うまいか?」
ルーディさんは僕がパンを口にしたことを確認するとそう言った。焼きたての暖かさにふわりとした食感、パンを噛み締めるほどに口の中に広がるバターの香りが食を進めた。素朴な味だが僅かに甘く、飲み込む度に空になっていたお腹を満たしていった。
「ええ、とても……ああ、ところで」
パンを飲み込んで僕は続ける。
「どうして僕を頼ったんですか?」
「なに?」
「いえ、見ず知らずのというか、得体の知れない僕にこんなこと……」
僕が言いかけるとルーディさんは豪快に笑いながらこう言った。
「なぁに、困っていたから私は君を頼ったんだ。それは君も同じだろう?」
「は、はぁ……確かにそうですが」
「これも何かの縁だ、気にするような事じゃ無い」
ルーディさんはそう言い切った。でもまあ、おかげで僕も助かった訳だしお言葉に甘えて気にするのは止めようと、僕はそう思った。
◉ ◉ ◉
あれから僕らは暫く村を一通り見て回った。村の人々は気前が良い、外部の人間である僕らでも関係なしにもてなしてくれる。しかしそんな中でも村人の様子はどこか暗い雰囲気も持ち合わせていた。聞いた話によるとこの村の冒険者がモンスターに襲われて致命傷を受けてしまっらしい。そしてその際に一人の少女と僕達が探していたスライム(かどうかはまだ分からないけど)を助けたようだ。
……ん?となるとそのスライムは少女のものじゃないのか?そう思ったがその人はスライムの飼い主では無いと言っているらしい。
「……そろそろ夕刻ですね、村長の家を訪ねてみましょう」
僕はそう言うと、ルーディさんも僕の言葉に同意して村長の家の方角に足を進めた。その道中、
「?何か様子がおかしいな」
ルーディさんがそう言った。確かに村人達が何やらざわついている様子だ。僕らは不穏に思いながらも村長の家にたどり着く。ルーディさんが扉にノックをすると、なにやら表情が曇り気味な村長が姿を現した。
「おや、先程の……」
村長が僕らの顔を見るやその表情に焦りが現れる。不穏な気持ちが少しずつ大きくなる中、ルーディさんは村長に話しかけた。
「どうも、昼間訪ねた者です。早速ですが、拾っていただいたスライムを見せて頂きたいのですが……」
ルーディさんが村長に話しかけると、村長の顔が更に歪む。
「ああ、申し訳ありません。それが行方不明になってしまったんです……」
「え……?」
唖然とする僕らに村長は続けた。
◉ ◉ ◉
村長の話をまとめると、昼過ぎに少女とそれに付き添うスライムが村の外へ出て行ったという目撃情報があったらしい。目的地は恐らく『アモールの泉』少女とスライムはそこへ向かおうという会話があったとの事だ。しかし、そこには危険なモンスターが多数生息しているらしく、とても少女達だけで足を運べるような場所では無い。
「我々が付いていながら申し訳ありません」
村長が深々と頭を下げた。
「いえいえ、ご協力ありがとうございました」
ルーディさんはそう言ったもののその表情には少し焦りが見える。僕らは村長の家を後にした。
「ショータ、あまり時間が無さそうだ。付いてきてくれるか?」
ルーディさんは僕にそう言った。『アモールの泉』にはモンスターがいる、と言うことは戦闘になると言うことだ。勿論僕に戦闘経験なんて無い。運動神経は中の下、魔法?……うーん、あったら良いねぇ……。
「すいません、僕、戦えなくて……」
そう言うとルーディさんは、
「ガッハッハ、まあ君は見るからにひ弱だからな!」
と言った。……いややかましいわ!
「だが良いのか?ここで俺と別れたら君は一人になってしまうぞ?」
「ぐ……」
ルーディさんの発言に返す言葉が見つからない。
「……分かりました、付き合いますよ。でも僕は戦えませんからね?」
「良いさ、荷物持ちくらいなら出来るだろう?俺もこんなもの背負って戦う事なんて出来ないからな!」
と、ルーディさんは言った。……っていうかこの人戦えるのか、いやまあ、護衛もなしに旅をしているのだから当然と言えば当然か。僕はルーディさんが背負っている荷物を引き受けて村の外へ足を運ぶのだった。
続く……
TOPIC!!
アモールの森
カドゥ村から北西にある『魔力を含んだ泉』を持つ森。
その魔力を吸った植物や、植物を食べた草食性のモンスターが独自の進化を遂げ、
通常の治癒魔法では治しきれない傷や毒、呪い等を治す薬草や
回復魔法を操るモンスターも存在しており、
人々もそれらの恩恵を受けるべく泉を訪れる者も多かった。
しかし近年、『カドゥ平原』内に住み着いていた『アルミラージ』が
『レイジフォックス』の増加に伴い一定数が住処を奪われ『アモールの森』に住み着くこととなってしまった。
天敵がおらず草食モンスター等の餌も多い『アモールの森』は『アルミラージ』にとって最高の住処となりその場で急増してしまい、
周辺に冒険者がほとんどいない現状、『アルミラージ』の巣窟と化している。
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